第3話 幸せの数式
そうだ、図書室に行こう!
ありがちな選択ではあるが、一度も図書室を利用した事がなかったから興味があったし。
しかし、高校生の勉強会といえば図書室! なんて考えを持ったのが間違いだった。
黙ってファミレスとかの人目が多い場所を選んでいれば、この二人も人目を気にして自重したと思うんだよ。
……
…
「そこ間違ってるよ? 九郎くん」
「……お、おお、マジか……」
当たってんだけど。
「クロー、そこ違うわ」
「……お、おお、そうか……」
だから、当たってんだけど。
「国語は任せてね」
「私は数学かしら」
「……ありがとう。ちなみに俺に得意科目はない」
「あはは、大丈夫だよ。あたし、これでも学年で10位以内だから」
「私も基本は10位以内よ。クローに教えてもらわなくても大丈夫だわ」
近い近い!! お前達の貞操観念どうなってんの!? さっきから当たってんだけど!
問題じゃなく、君達の胸が俺の両腕に当たってんだけど!!
いいのか!? いいんだな!? あとで訴えたりしないよな!? 怖いよ……だって元原告の人と、原告の才能がありそうな人なんだもん。
「ちなみにクローは、どのくらいなのかしら?」
「……175くらい」
「……? 九郎くん、身長の話はしてないよ?」
「うん、俺もしてないよ?」
「……ねぇクロー。うちの学年って、200人くらいしかいないはずだけど……」
「そうだな、俺もそのように記憶している」
「「…………」」
蓮海とトーリの二人に勉強を見てもらう事にした俺は、ただいま二人の生暖かい視線に耐えていました。
蓮海は珍獣を見るような、トーリは天然記念物でも見るような目で俺を見てくるんです。
馬鹿にしやがって! 確かに俺は馬鹿だけど馬鹿にすんなよ。
200人いるって事は、200位も必ずいるんだぞ? 175位だって珍しくないよ、必ずいるんだから。
「……根本的に作戦を練り直した方が良さそうね」
「これからいっぱい勉強しないと、あたしとね」
「その役目は私が引き受けるわよ?」
「あはは、お構いなく」
「お構いするわ」
去年は散々だった。赤点じゃない教科を見つける方が難しく、補習補習講習講習の嵐だったのだ。
お陰で、華の高校一年生の長期休暇はほぼ勉強に消えた。無駄に進学校というのが仇となったのだ。
今年は、大手を振って女の子と遊びたい! できれば隣にいるような可愛い子たちと遊びに行きたい!
しかし現実は厳しい。いくら学年10位に教えてもらえても、届かないかもしれない。
だからこそ集中して勉強しなければならないのだが、左右にいる蓮海とトーリの仕草やら感触やら匂いやらで集中できない!
「冬凛さん、少し九郎くんに近くないかな? かな?」
「そうかしら? そういう春香こそ近い気がするけど?」
「あたし今日は目が悪いから、近づかないと九郎くんの手元が見えないの」
「それは奇遇ね。私も先週くらいから目が悪くなったのよ」
公太を混ぜて、みんなで勉強するのが正解だったのかもしれない。
公太は友達である愛川とアキと一緒に勉強すればいいと思い選択したのだが、間違いだったか。
蓮海とトーリの事を考えて最善を選んだつもりだった。流石に一人で勉強するのは心もとなかったし、公太一人を仲間外れにするのも気が引けたし……。
愛川とアキには今度教えてもらおう。どうやらみんな、得意科目が違うようだしな。
「じゃあ冬凛さんって一人暮らしなんだぁ。憧れるな~」
「春香が思っているほどいいものじゃないわよ?」
「そうなの? 自由って感じだけどなぁ」
「自由は自由よ。でもそれだけだわ」
二人は本当に余裕なんだろうな、いつの間にか仲良くなっちゃって。そうしていると普通の友達だ、しかし俺が間にいる事を忘れんな。
仲良く話すのはいいけど、俺を間に置いて話すのは止めて欲しい。蓮海のほんわかした声と、トーリの透き通る声は耳に毒だ。
しかし冷静に考えると凄い状況だな。図書室という環境のせいなのか視線はそこまで強くないが、チラチラとこちらを窺う生徒が少なからずいる。
蓮海とトーリに目を向け、頬をだらしなく緩ませる男子生徒。次いでその目が俺に向けられ、驚愕の表情のち殺意の目に変わる。
どうせ、なんで四季姫と一緒にいるのがお前みたいな奴なんだと思ってんだろ。
甘んじて受けよう、その通りだ。しかし俺はこの幸せを手放さんぞッ……と言いたい所だが、あの人の目マジで怖い。
「二人とも、話したいなら俺の向かい側に移ってくれ」
「あっ、ごめんね九郎くん、どこか分からないのかな?」
「放っておかれて拗ねちゃったのかしら? クローにも可愛らしい所があるのね」
だから胸を押し付けるな! 嬉しいけど、色々とよろしくないのだ!
周りを見なさい! なんで気づかないんだ!? 血走った目を向ける男子生徒が目に入らぬか!?
「……お前ら、離れてくれ。当たってるし、視線に射殺される」
「……当たってる? あっ……あはっ?」
少しだけ恥ずかしそうに、頬を染めて首を傾げる仕草をする蓮海に対し。
「どこに集中しているのよ? ちゃんと問題に集中しなさい」
特に気にした様子もなく、いつも通りの冷静さを見せるのはトーリ。
「ま、まぁまぁ気にしない気にしない! ほら、続きをやろうよ、ね?」
「まったく、これだから男は…………クローのえっちばか」
照れ隠し頬染め蓮海+ギャップ萌え耳元呟きトーリ=可愛さ限界突破。
一つだけ共通していた事は、離れろと言ったにも関わらず、二人ともに離れるどころか近づくという暴挙に出た所だった。
当たり前だが集中なんて出来る訳がない。数時間勉強して分かった事は、柔らかさ×柔らかさ=幸せ……という数式だけであった。
もう無理だ。諦めた。黙って堪能しよう。目先の利が一番よ。
「これはダメね、全然集中できてないわ。あと一週間、徹底的に教え込まないと」
「九郎くんって集中力がないなぁ~、明日も勉強しなきゃかな?」
「……お前らのせいだろ」
「なにか言ったかな?」「なにか言ったかしら?」
「……いえ、なんでもございません」
選択を間違ったと後悔が頭を過ったが、よくよく考えればそんなはずはなかった。
未だ両腕に残る幸せの感触を思い出しながら、電車通学であるという二人を駅まで送って行き、勉強できなかった勉強会は幕を閉じた。
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