表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/130

冬姫・向空冬凛

 





 ずっと憧れていた一人暮らしというのは、そこまで良いものではなかった。


 別に一人暮らしをしている特別な理由なんてない。両親に嫌われているだとか、片親再婚だとか、そんなどこぞの恋愛小説にありがちな設定など私にはない。


 一人暮らしも一年が経過し、一人暮らしには慣れていたが、憧れは現実に変わっていた。


 ボーッとする事が増えた、外出しない事が増えた、一言も言葉を発しない日が増えた。


 静寂が嫌でテレビは付けっぱなし。たまに目的もなく、駅前などのガヤガヤとうるさい場所に足を運ぶ事もあったほどだ。



 ある時、スマホを弄って時間を潰していた時に、あるサイトの広告に目が止まった。


 その広告とはスマホゲームの広告。それを見た時ゲームをするのも悪くないと思い、深く考えずにインストールした。


 それが麻雀ゲームだったのはたまたまだ。ルールなんて知らなかったが、今どきのゲームは随分と親切なようで、チュートリアルで事細かに教えられた。


 記憶力と頭の回転に自信があった私は、ルールだけはすぐに把握する事ができた。


 実力が全てではないためなのか、初心者の私でもトップを取る事はざらにあり、勝つ事の喜びを知った私は麻雀にのめり込んで行った。


 それから数か月後、麻雀ゲームの大会イベントに私は参加していた。よほど運が良かったのか、あと少しで入賞できるという所まで私はきていた。


 その対局には、私にとって天敵とも言えるプレイヤーがいた。


 ワキヤ九。よく分からないのだけれど、なぜかこのプレイヤーとぶつかる事が多々あったのだ。


 勝つ事もあれば負ける事もあったが、どちらかと言えば私は負け越しているはず。実力では、このプレイヤーに勝てない事を私は心の中で認めていた。


 しかし運が味方に付いたのか、この大会で最も重要だった対局で、私はワキヤ九に競り勝ち入賞を果たした。


 単純に、嬉しかった。ここまで嬉しかったのは数年ぶりかもしれないほどに嬉しかった。


 この時すでに、私はワキヤ九をライバルだと勝手に思い込んでいた。そのため、ワキヤ九がいるとどうしても意識してしまい、無意識に独り言を発するまでになっていた。


 打倒ライバルを掲げ、対局が終わった後のリプレイを何度も見て研究を重ねた。


 打ち方の傾向、考え、癖。全ては分からずとも、恐らく本人以外では私が一番ワキヤ九の事を知っていると豪語できるほどには熱中した。


 そんなワキヤ九がある時、らしくない打ち方をした。ゲームだし、誤タップの可能性もあるだろうが、すごく気になってしまい気づけばチャットを送ったほどだ。



 そんな感じで、麻雀が生活の一部になっていた高校二年生の二日目、私はある男の子との出会いを果たした。



『あ、あの! 麻雀お好きなんですか!?』


 ……なにこの人? そんなナンパの仕方なんて……あ、ここって気になっていた雀荘……。


 斬新なナンパだった。自慢ではないがナンパは嫌になるほどされる。


 しかし麻雀をネタにナンパされた事など一度もない。いつもなら無視するが、麻雀というフレーズと雀荘の前という場所が私の足を止めていた。


 聞けば彼は同じ学園の同級生。それだけで警戒心は大分やわらいだ。


 彼も麻雀が好きらしい。同じゲームをやっている事も分かり、大会入賞の特典についての話も弾んだ。


 そんな彼からのお誘い。雀荘に興味はあっても、とてもじゃないが入る勇気はなかった。そもそも高校生が入っていい場所なのかも分からなかったし。


 だから彼、脇谷九郎には感謝している。あのような場所に連れて行ってくれた事を。



『ト、トーリ!? それは戦略であって、意地悪じゃないんだが……』


 絶対うそだ! クローは私の事を苛めてるんだっ! なんて思って乱れた自分が恥ずかしいわ。


 不覚。恥ずかしい所を見られてしまった。どうにも昔から、子供っぽい怒り方や拗ね方を治せと親に言われていたため、自制していたのだが。


 よりにもよって同級生の前で無様な姿をさらす事になろうとは。



『……トーリはさ、いい感じになると顔に出るんだよね。今わたしテンパってます! って顔に書いてんのよ』


 や、やっぱりそうなのね。両親以外に指摘されたのは初めてだけど、これで嫌でも認めざるを得ないわ。


 自分でもなんとなく分かっていた。顔に出やすい子ねと、親にも幾度となく言われてきた事だし。


 それはいい、とりあえずそれはいいの。問題はこの手なの、私の頭を撫でているその手なの!


 まるで子供をあやす様な撫で方。彼に撫でられるのは不快ではなかったけれども、彼に子供っぽいと思われるのは何故か嫌だった。


 急に恥ずかしくなり、これ以上の醜態を晒す前に逃げようと私は駅に駆け込んだ。


 恥ずかしさでドキドキしている心を落ち着かせてから思い出す。番号交換をしておけばよかったと。



 脇谷九郎。最初の印象としては、私の知らない世界を知っている意地悪な人。イケメンかと聞かれれば……普通ね。


 親以外で初めて、頭を撫でられた。



『なぁ、機嫌直してくれよ……』


 あまり見られたくない一面を見られてしまって。

 不機嫌になった子供の機嫌を取るように頭を撫でる貴方は。

 私の子供っぽい所も拗ねやすい所も全て受け入れてくれそうで。



 ――――この人の前では、何も考えずに素でいられるのかもしれない。



 …………

 …………



 ……あら、クローって案外、モテるのね。


 なんなのかしらこの子達、私はクローの番号を聞きに来ただけなのだけれど。


 まったく、そういうのは他所でやってほし……いや、このまま行くとマズい事になりそうな気がするわ。


 この中の誰かとクローが付き合ったら、麻雀をする機会が減らないかしら? クロー抜きであの雀荘に行くのは……ちょっと無理ね。


 ならばどうすれば……? いっそ、クローを私の物にしてしまえば解決かしら?


 でもクローとそういう関係になれば、そういう事もするように……なるのよね?


 そういう事を…………もぉーー! クローったらどこを触ってるの!? クローのえっちぃ!!


 ……っは!? わ、私はなにを……。


お読み頂き、ありがとうございます


次回

→【おまけ・月姫】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 他の三人は可愛いのに春さんだけやべえ。ヤンデレ担当かぁ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ