秋姫・連山秋穂
私には、小学校時代からずっと仲良くしている人達がいる。
愛川夏菜と酒神公太。小学校の時、たまたま席が近かっただけの理由で、彼女達とよく一緒にいるようになった。
家もそんなに離れている訳でもないし、放課後も休日も関係なくずっと一緒だった。
でも私は二人のように、幼馴染という関係ではない。傍から見れば幼馴染のように見えるかもしれないが、夏菜ちゃんと公太君の関係に比べると、どうしても幼馴染とは言えなかった。
お互いがお互いの事を知り尽くしているような気がするし、夏菜ちゃんは公太君の事を家族みたいなものだと言っていた。
家族みたいな存在が幼馴染と仮定するならば、やはり私は違う。
私は二人の事を家族だとは思えない。もちろん悪い意味ではなくて、その家族の輪には入れないなと、いつも感じていたからだ。
でもずっと、その関係性が羨ましかった。私もその輪に入りたいと思っていた。
彼女達は優しいし、家族だよと言ってくれるような気がするが、私的にはまだまだだと思っていた。
だから、その輪に入るための一歩として、私も夏菜ちゃんや公太君の事をあだ名で呼びたいなとずっと思っていて、いつしかそれは憧れになっていた。
まぁそんな機会はなくて、時間が流れれば流れるほど言いづらくなってしまったが。
いつの間にか、手段であっただけのあだ名呼びは、目的となっていた。
だからあの時は、本当に驚きました。ちょっと揶揄うだけのつもりだったのですけど。
『あいやいやあの……自分は脇谷っす、脇谷九郎です!』
夏菜ちゃんと一緒に商店街に寄り道をした時、大学生の男の人達に声を掛けられました。
私は凄く怖かったのですけど、夏菜ちゃんはいつも通り冷静に、適当にあしらおうとしていました。公太君が近くにいたという事もあったのだと思います。
でも中々引いてくれなくて、流石の夏菜ちゃんも焦った様子に変わった時に、彼と出会いました。
助けてくれたのは公太君ではなくて、初日から遅刻をして目立っていたクラスメイトのクーちゃんでした。
クーちゃん。あ、あだ名で呼んでしまいました。これはもう家族ですよね? いえいえ、まずは結婚が先でしたね……なんて。
ともかく、あの出会いで彼は私の特別になりました。あれほど憧れていたあだ名呼びができる、唯一の男の子になったのです。
第一印象だってカッコいいの一言です。どこか挙動不審でしたけど、あんなに怖かった大学生の人達を圧倒して助けてくれたのですから。
『一緒に……た、食べない? クレープ』
そんなあだ名呼びの仲になった彼は、私が言って欲しい言葉を言ってくれました。
夏菜ちゃんは以前いっていたのです。公太君は言って欲しい言葉を、いつも言ってくれると。
そ、それは家族ではなくて恋人なのでは……? と思ったのですが、どうやら違うようです。
でもやっぱり、言って欲しい事を言われた私が抱いたのは、家族としての温かさではなくて……その…………としてのドキ……キというか……ゴニョゴニョ。
そんな彼はアルバイトを探しているようでして、驚く事に見つけたアルバイト先は私の実家だったのです。
でも……あれ? アルバイトの募集はしていなかったような……でもでも! クーちゃんが家で働いてくれるのは、嬉しいかも。
家に帰って私はすぐに父にアルバイトの話をしました。記憶通り今は募集していなかったようですけど、お父さん嫌いと言ったら募集中の店になりました。
さっそく明日にでも教えないと! あ、スマホの番号も聞いちゃいましょう……って、あれ? クーちゃんがいない? オリエンテーション補助?
あれ? その役目は公太君にお願いするとかって、荒木先生が言っていたような気が?
公太君の代りにクーちゃんが? な、なぜか嫌な予感がしますね。
脇谷九郎さん。最初の印象としては、カッコよくて頼りになる人。イケメンかと聞かれれば……わ、私は好きですっ!
ずっと憧れていた、あだ名で呼び合える人。
『あ……アキ、でいい……?』
どこか諦めていたあだ名呼びが出来るようになって。
それは自分が特別だと言われているようで嬉しくて。
いつか本当に貴方の特別になりたくて。
――――ああ、そっか。これって一目惚れで、一言惚れなんだ。
…………
…………
……えぇぇぇ、クーちゃんって、モテモテだったんですか!?
私が最初に声を掛けたのに……ちょっと夏菜ちゃん? 邪魔しないでください! 貴女にはあだ名呼びの幼馴染が他にいるじゃないですか!?
つ、次々に綺麗な人が……四季姫とか呼ばれている人達ですよね? なんでこんな強力そうなライバルばかり……。
いえ、彼女達はまだそこまでではない感じ……? でもモタモタしていたら、とても後悔してしまいそうな気がします。
となれば先手必勝です! 気づいた者と気づいていない者の差は大きいですよ?
うふふ。クーちゃん、覚悟してくださいね? 女の武器を使って、全力で貴方を誘惑してやります!
大人しい子だって、やる時はやるのですから。
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