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第21話 いつも通りではない日常へ

区切れなくて長くなってしまいました

章管理に変更、1章最終話


 





 選択肢が現れるようになって、三日目の朝。


 けたたましいアラームに強制的に目覚めさせられ、着替えて、身支度を整え、朝食を食べて、学園に向かう。



 いつも通りの朝。家を出て周りを見渡せば、いつも通りに同じ学園の制服に身を包んだ学生がいて、いつも通りその一部となり登校する。


 いつも通りの学園。数人の友人と挨拶を交わし、席に着いた所で前の席に座る央平と、いつも通りに昨日のテレビ番組について下らない議論を交わす。


 いつも通りの授業。うん、本当にいつも通り。いつも通り先生が何を言っているのか分からん。



 時間は緩やかにいつも通り流れていっている。しかし、思い返せばこの二日間はとてもじゃないが、いつも通りではなかった。


 突如として現れた選択肢。ゲーム感覚で、いつも通りの俺なら選ばない選択をし、勝手に勇気と自信を貰って、誤選択をしても自分のせいじゃないとの言い訳にも出来て無敵だった。


 その行動力のお陰か、色々な女性たちと出会った。



 包み込まれるような優しさを持つ、蓮海春香。

 周りを笑顔にさせる明るさを持つ、愛川夏菜。

 落着いていて癒されるが小悪魔な、連山秋穂。

 大人っぽいのに子供の姿も見せる、向空冬凛。



 あくまでイメージだが。彼女達の事なんて、まだ何も知らないのだから。どっかの主人公の妹は……まぁいいだろう。


 4人の事をこれから知っていければいいなと、そんな事を思っていたいつも通りの昼休みに、いつも通りではない事が起こった――――



「九郎~、メシ食おうぜ~」

「おう」


 いつものように央平と昼食を取ろうとしていた。俺は母さんが作ってくれた弁当を、央平はコンビニ袋を取り出して机の上に置く。


 さて愛母弁当に、今日はどんな冷凍食品が詰められているのかとワクワクしていた時だった。



「――――あ、あの、クーちゃん? 今、少しいいですか?」


「ん? おお、アキ。どしたん?」

「は……? アキってお前、連山さんの事……? なに勝手に略してんだよ?」


 スマホを握りしめて、どこかオドオドしているアキが話しかけてきた。


 央平は何かビックリしているが無視だ。せっかくアキが話しかけてくれたんだから、黙っていてくれないか。



「クーちゃん、アルバイトの話なんですけど……」


「……アルバイト……ああ! 募集してるか聞いてきてくれるんだったよな?」

「は、はい。それで、不定期でも良ければお願いしたいって、お父さんが」

「ほんとに!? うん、ぜひお願いしたい!!」


「あっ……良かった。それで、クーちゃんの番号――――」


「――――お~い! 脇谷く~ん!!」


 スマホを差し出そうとしていたアキは、急に後ろから聞こえてきた愛川の声に驚き、その手を下げてしまう。


 それに気づかない愛川はアキの隣に立つと、こっちまで楽しくなるような笑顔でスマホを差し出してきた。



「脇谷いいんちょ! これから必要になるかもだし、番号交換しておこ~よ」


「お……おう、そうだな! 委員長と副委員長だもんな!」

「は……? まさかお前、それが目的で委員長になるのを認めたのか?」


 愛川と番号を交換できるチャンスに、急いでスマホを取り出す。しかしそれに待ったをかける声が響いた。


 それは他ならぬアキ、その声はどこか慌てているようだった。



「な、夏菜ちゃん! 私が先だよ!」

「んん? ありゃ秋穂、どうしたの?」

「ど、どうしたって……最初は私がいい」

「はえ? どゆこと?」


 首を傾げる愛川。こちらも差し出されたスマホは引き下げられ、俺に向けられていた目はアキの方を向いてしまった。


 そういえばアキもスマホを持っていたし、もしかして――――と思っていた時、すぐ後ろの扉が開かれる音がした。



「――――あっ、いたいた。探す手間が省けたよ、一番後ろの席なんだね」


 聞き覚えのある声に振り向くと、そこには優しく微笑む蓮海がいた。


 何やら言い合っている愛川とアキには目もくれず、俺に近づいてきた蓮海は徐にスマホを取り出して告げた。



「番号を教えてもらっていいかな? 空手の見学に行く日とか、打ち合わせしたいな」


「お……おう、そうだな! そういう打ち合わせは大事だよな!」

「は……? なにお前、蓮海さんとも知り合いなの? ふざけんなよ?」


 ごちゃごちゃ煩い央平を無視して、取り出したスマホを蓮海の方に向けた時だった。


「ちょちょちょ!? 横入りはズルいよ!?」

「です! 私が最初だったんですから!」


 なぜか愛川とアキが抗議の声を上げると――――


「……んっと、順番とか関係あるの? 後からでもいいんじゃないかな?」


 若干目に力を入れつつも、声を荒げず大人の対応をする蓮海。


「蓮海さん、でしたよね? そう言うのでしたら、貴女が後からにすればいいのではないですか?」

「そうそう! って事で脇谷君、ウチと最初に交換しよ~」

「ちょっと夏菜ちゃん!? どさくさに紛れないで!」


「……う~ん、なんかあたしも、一番最初が良くなってきたかも」

「私です!」

「ウチが最初だよ!」


 何を言い争っているのか分からない。番号交換の順番なんてどうでもよくないか?


 何番目に交換しようが、なにも変わらないと思うのだが――――とあまりいい雰囲気ではなくなってきたため、間に入ろうと声を出そうとした時だった。


 なにやら教室が騒がしくなる。俺達が騒ぎ過ぎたせいかとも思ったが、そうではないらしい。


 こちらに目を向けるクラスメイトもいたが、ザワついていた者達の目は教室前方の扉に向けられていた。



「……お前さ、まさかと思うが……あの人とも知り合いとか言わないよな?」


「……いや、その……知り合いでは……あるな」


 央平からの睨みつけが強くなるのを横目に感じてはいたが、俺は教室前方から目を離せなくなっていた。


 そうこうしている内にその者と目が合ってしまう。その人はキリっとした顔を一瞬綻ばせた後、誰もが見惚れる凛々しい足取りで俺の元へと進んできた。



「――――やっと見つけたわ、クロー」

「よ、ようトーリ。いまちょっと立て込んでてな……」


 その言葉にトーリは一瞬、未だに言い合っている三人に目を向ける。


 しかしすぐさまその目を俺に戻し、涼しげな眼のまま俺にスマホを差し出した。



「賑やかね、まぁいいわ。番号、交換しておきましょ? またアレ、誘ってくれると嬉しいわ」


「お……おう、そうだな! 俺としてもぜひお願いしたいし!」

「は……? アレってなんだよ? なに秘密の会話しちゃってんだよ? いい加減にしろよ?」


 綺麗に微笑むトーリと番号を交換しようとスマホを近づけた時、それを見逃すはずのない三人が揃って声を上げた。



「「「ちょっと待って!!」」」


「……なにかしら?」

「なにじゃないよ! 貴女は最後に来たんだから!」

「そういう意味なら、最初にクーちゃんに声を掛けたのは私です」

「最後とか最初とか、なんなのかしら? 私は彼に用事があるだけよ」


「……ねぇ九郎くん、今の内に――――」


「待ってよ!」「待って下さい!」「待ちなさい!」


 三つ巴ならぬ四つ巴。別に順番なんかに大した意味がない事は彼女達も分かっているのだろう。その様子に焦りは見られず、ただただ引くに引けなくなっただけといった感じ。


 周りのクラスメイトも唖然としている。好奇の目を向ける者や嫉妬の目を向ける者、様々な視線が注がれているのに、彼女達はお構いなしに言い争う。


 触らぬ神に祟りなし。ここは俺も傍観しよう、俺が治めるには経験が足りなすぎる。


 主人公はこういう時、どうするんだろうか? こういう時こそ神の導き(選択肢)、しかし願えど願えど何も表示される事はなかった。



「……なぁ九郎。お前、いつの間に四季姫と知り合いになったの?」


「……いや、言われて気づいたけど……やっぱり四季姫か」

「当たり前だろ!! こんな美人たちがウジャウジャいたら日本は楽園だぜ!?」


「……楽園か。第三者から見れば、そう見えるのかもな」

「なんでだよ!? 一昨日まで四季姫の事すら知らなかったくせに、どういう事!?」

「ど、どういう事って……俺だってビックリしてるよ!」


 俺と央平の目の前で繰り広げられている、4人の意味が分からない言い争い。


 決して和やかな雰囲気はないが、別に険悪と言う訳でもない。


 これは、いつも通りじゃない。俺が望んだモテたいって、こういう事ではない気がするのだが。


 いきなりレベルが高すぎる、俺は脇役なんだぞ!?



「もう、本人に決めてもらった方がいいんじゃないかな?」

「望むところだよ! 絶対負けないし!」

「私は、クーちゃんを信じてますから……」

「勝負だと言うのなら負けたくないわ、トップは私よ」



 やめて……選択肢が出てこないんだ、選べないんだ!!



「九郎くん」「脇谷君」「クーちゃん」「クロー」



 このまま選択肢を選び続けたら、大変な事になってしまう気がするのは俺だけか?



「「「「――――誰を選ぶの?」」」」


お読み頂き、ありがとうございます


1章完として一区切りします

ブクマや評価いただき、ありがとうございました


宜しければブクマや評価、感想などもお待ちしております


次回

→【間章・四季姫独白】

 【ニ章・鳴り止まぬ通知音】

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