第18話 親友のナイスアシスト
「はよ~九郎」
「おう、おはよう」
オリエンテーション補助をした次の日。遅刻をせずに学園へと到着した俺は、前の席に座る央平と挨拶を交わした。
当たり前だが昨日が特別だっただけで、今日から俺も普通に授業を受ける事になる。
早速来月には中間試験がある。赤点を取るのはマズいので、授業は真面目に受けなければならないのだが……目の前の俺より馬鹿を見ていると安心する。
「お前はいいよな~、昨日サボれてさ」
「好きでやった訳じゃないぞ」
(色々といい思いはできたけど。天使と悪魔に出会ったんだ)
「でも可哀そうに……昨日、いなかったから悪いんだぞ」
「……可哀そう? どういう事だよ?」
泣き真似をしてみせた央平に対し、眉間に皺を寄せて問いかけた。いなかったから悪いとか言われても、俺の意思じゃないんだから仕方がない。
そんな事を思っていた俺に対し、央平がとんでもない事を言い出しやがった。
「いよっ! 学級委員長!! キャーすてきー!」
「…………は? 学級委員長? 誰が?」
「九郎だよ。九郎は学級委員長になったんだ、昨日いなかったから」
「……嘘だろ?」
「嘘じゃないよ? 俺が推薦したら、満場一致だった」
……なに言ってんだコイツ? 俺が学級委員長? 推薦……? 学級委員長って、あの学級委員長?
真面目な子とか、クラスのリーダー的な奴がなる……あの学級委員長?
「…………――――ふざっっっけんなッ!! なに推薦してくれてんだ!? この俺のどこが委員長顔だってんだよ!?」
「おおおお落ち着けよ!? 仕方ないんだよ! 誰もやりたがらなくて、押し付けが始まっちまったんだ!」
「だからって何で俺に押し付ける!?」
「だから! 九郎がいなかったからだって! クラスを鎮めるために良かれと思って俺は……!」
「俺のこの怒りは誰が鎮めてくれんだ!? 鎮まらねぇぞ!? 俺は絶対に鎮まらねぇ――――」
「――――お~い! 脇谷く~ん」
いよいよ央平の胸倉を掴み、さて怒りをぶちまけてやろうとした時、一気に怒りの熱が冷めるほどの声が俺の耳に入った。
顔から怒りを抜きゆっくりと振り向くと、手を大きく振りながら流石の笑顔で俺の方に向かって来る女子生徒がいた。
「あ、愛川……?」
「やっほ~! 脇谷くん、災難だったね? 委員長にされちゃって」
「あ、あぁ……そうなんだよ。いったいこの怒りをどうしたらいいのか――――」
「――――ウチもジャンケンに負けちゃって、副委員長にさせられちゃった! でも仕方ないから、一緒に頑張ろうね? 脇谷いいんちょ!」
じゃあまたね~、と愛川は微笑みながら席に戻って行った。
委員長の仕事は沢山あるだろう。それこそ長とは名ばかりの雑用係といっても過言ではないほどに。
とても一人じゃ無理だ。支えてくれるパートナーが必要だろう。
はぁ……そんな委員長に俺が……愛川と一緒に頑張る……二人きりの教室……窓から差し込む夕日に照らされた愛川……困難を乗り越え近づく距離……そして……。
「……央平」
「お、おう! いやその、本当に悪か――――」
「――――本当にありがとう。流石は俺の親友だ」
「お……おう……?」
この日俺は、初めて心の底から親友に感謝の念を抱いた。
いつか恩返しをしなければならない。俺と愛川がカップルになったその時は、愛川の友達を紹介してあげようと思う。
ナイスアシストだ親友。本当に遅刻してよかった。
あの、のんびりと登校という選択肢。ヤバくね?
あれを選んだ影響が半端ない。
――――――――
――――――――
「ちゃ~っす。五郎丸さ~ん?」
とくに何事もなく学校が終わり、家に帰った俺はスマホに一通のメッセージが入っているのに気が付いた。
五< おっす九郎! 今日、囲まないか?
麻雀仲間である、南雲五郎丸からの麻雀のお誘いだ。
俺は誘いに乗り、夕飯を軽く済ませて準備をした後、五郎丸さんが経営している雀荘兼住宅に足を運んでいた。
「おう九郎! 待ってたぞ!」
「ちゃっす五郎丸さん」
駅前にある雀荘。そこのオーナーである南雲五郎丸は、俺の父親である脇谷六斗の高校時代の同級生である。
雀荘のオーナーであり農家でもある五郎丸さんには、子供がいない事もあってか、昔からよく遊んでもらっていた。
俺も、この人の事をもう一人の父親だと思っている。麻雀が好きになったのも、五郎丸さんの影響だった。
ちなみにこの人、体型ゴリラの顔ゴリラなのに、女性バリに綺麗な黒髪ロングという髪型をしている。
「こんばんは、九郎ちゃん」
「こんばんはっす、八千代さん」
そして隣に座っていたのが、五郎丸の奥さんである南雲八千代。
ガッチリとした体格で、いかにもゴリラと言った風貌の五郎丸さんとは違い、お淑やかで華奢な体付きをしている八千代さん。
ちなみにこの人、八千代さんが俺の初恋の人だったりするのは内緒の話だ。
「もう九郎ちゃん、いつになったらママって呼んでくれるの?」
「えっと……まぁ、おいおい……ですかね?」
「八千代、あまり九郎を虐めるなよ?」
「アナタは黙っていてくれる?」
「……はい」
子供のいない八千代さんは、自分の事をママと呼ばせたがっている。雀荘のママと言う意味でならいいのだが、本当の息子としてママと呼んで欲しいらしい。
俺の母さんとは性格が真逆だが、なぜか夫に対する言葉遣いとかを聞いていると、案外似ているなと思っていたりする。
「さて九郎、誘っておいてなんなんだが……一人、面子が足りないんだ」
「え? あれ、竜さんはどうしたんっすか?」
いつもなら俺と南雲夫婦、そして竜と呼んでいた男性の四人で卓を囲む事が多かった。
ちなみに竜さんはメッチャ泣く。鳴くでも哭くでもなく泣く。負けるとすぐ泣くんだ。
「竜さん、急に転勤になっちゃったのよ」
「転勤……そうだったんですか。挨拶したかったな……」
「仕事の関係じゃ仕方ねぇな! まぁ何れ戻って来るらしいから、また会えるだろ」
「……そうねぇ。今日はどうしましょう? 三麻にするか、他に面子を探すかね」
三麻とは三人で行う麻雀の事である。珍しい役が作りやすく、遊びという意味で俺は大好きなのだが。
ここは雀荘だ。麻雀を打ちたい人が集まる場所だし、一人くらいなら募集している人がいそうなものだけど。
俺達が打つ時は、俺が高校生だという事もあって二階の南雲夫婦の住宅で行っている。
一階の営業フロアに行けば誰かいるかもしれないな。
「ちょっと面子探してる奴がいないか、バイト君に聞いて来るぞ」
う~ん俺は三麻でもいいけど、さてどうしようか――――
【今日は三麻にしましょう】
【俺が聞いてきます】
【五郎丸に任せる】
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次回
→【立てば芍薬、座れば雀姫】




