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第17話 運も実力のうち?






「くっそー! また負けた!!」


 その日の夜、俺はベッドに寝転がりながら、趣味の麻雀ゲームをしていた。


 麻雀は頭を使うのだが、余計な事を考えてしまっているせいか連敗続き。もちろん言い訳として使っているだけで、ただの実力なのだが。


「もう一局! もう半荘だけ……」


 今日も今日とて色々あった一日だった。何と言っても、捻挫女子こと蓮海春香と知り合いになれたのは最高である。


 それどころか空手の見学に誘うという……やべぇニヤニヤが止まらない。



「来い……! キタッ!! リーチじゃーー!!」

『ロン』


「……ッッザッケンナ!!」


 そして酒神妹。アイツは危険な気がする。男の勘が関わるのをやめろと警告を発しているような気がする。ほんっと、そんな気がする気がする。


 まぁ、イケメン公太の妹だけあって、確かに容姿の整った可愛い子であるとは思うが。


『リーチ』

「馬鹿め、そんな見え見えの待ちに振り込むか――――」


『――――ロン』

「無警戒だったぞ対面ッ!! 貴様、どっから湧いて出やがった!?」


 ぐぅ……終わってみれば三着。ラスじゃない事を喜ぶべきか、トップから蹴落とされた事を嘆くべきか。


「はぁ……今日はダメだな。次で最後にしよう……」


 今日は運が悪い。そういう事にしておこう。麻雀は運も大事な要素、ダメな時はダメなんだよ。



「よし、次こそ…………げっ!? 『冬SORA』!? 出やがったな天敵!!」


 この麻雀ゲームをやり始めた時から、やたらと卓が一緒になるプレイヤーがいた。


 それが冬SORA。コイツとは大会イベントの重要な局で一緒になる事が多かったため、嫌でも印象に残ってしまっていた。


 実力は互角のはず。大会イベントでも、勝つ事もあれば負ける事もあったし。



「……よし。こいつに勝って今日の連敗を精算してやる」



 …………

 ……

 …



 迎えたオーラス(最終局)。トップは俺で、冬SORAは三位。二位の人とも点数に開きがあるため、無理をしなければ何も問題はない。


 ……これは勝った。ここまで積み上げてきた布石は、運や奇跡なんてものでは崩す事はできん。


 よく麻雀を運ゲーだと言う奴がいるが、違うんだよ!!



「…………ウオッ!? 国士聴牌……」


 とても偉い役が聴牌(テンパイ)した。逃げるための打ち筋は、無欲が功を奏したのかド偉い事になっていた。


「……いやでも、国士無双なんて何回も上がった事あるしな……」


 麻雀の目的は勝つ事で、役満を上がる事ではないのだが、滅多に上がれる事のない役満が手に届く所まで来ているのだ。


 その魅力には抗いがたい。今日は連敗でフラストレーションも溜まっている。役満を上がって、圧倒的点数でトップに君臨できれば気持ちよく眠れる事だろう。


 いつもなら、勝利を優先して欲を斬り捨てる。出来上がった役満が比較的お目にかかりやすいという事もあるし、なにより冬SORAの捨て牌がやべぇ……――――



 【悲願成就(役満)

 【目的優先(勝利)



 ―――なんと二択。進むか降りるかの二択である。


 しかしゲームにまで選択肢が現れるとか、俺は余程神様に心配されているようだ。


 ……そういう事なら、決めたぜ。



 …………

 ……

 …



 トップ : 冬SORA

 二 着 : アミバ

 三 着 : ケンシロウ

 ラ ス : ワキヤ九



「ハハハ……なにこの運ゲー」


 そして終局。小さい画面には順位が表示されていた。


 最終局前、俺はトップにいた。後は振り込まず守りに徹していれば勝てたはずなのに、たった一打で最下位に転落させられた。


 冬SORAの倍満に振り込んだ。明らかな染め手、そんなのに振り込むのはド初心者くらいのものなのに、欲に負けて突き進んだ。


 悲願も成就せず、目的も達成できなかった。いつもならしない選択をした結果、何も得る事なく終わりを迎えた。



「……まぁ、たまにはいいか。せっかくの選択肢、いつも通りに選んでも面白くないぜ」


 ……全っ然よくない!! ストレスしかたまらん!! なにやってんの俺!? 黙っていつも通りにやっていれば、天敵に勝ててスッキリしたはずなのに!!


 これが素人とプロの違いか? 欲に勝てん、自制できない。いやしかし、プロは遊びでやっている訳じゃないし、勝利絶対主義なのは当たり前だ。


 そうだよ、これはゲームだ。勝つのはもちろんだが、楽しむためにやっているんだから。



「……いやだから!! 負ければ楽しくなんて…………ん?」


 苛立ち、麻雀ゲームを止めようと画面に目を落とすと、見慣れないアイコンが光っているのが分かった。


 一度も使った事のない機能である、チャット機能。そのアイコンが光っており、誰からかメッセージが届いている事を知らせていた。


 チームを組む訳でもフレンドを作る必要もない麻雀ゲームに、なぜかあるチャット機能。たまに罵詈雑言が飛んでくると言う話は聞いた事があったので、その類だろうか。


 ともあれチカチカ点滅していてウザい。誹謗中傷だろうが何だろうが開かないと点滅は消えないので、俺は光るアイコンをタップした。



 送信者:冬SORA



「……えっ!?」


 ドキッとした。何度も対局してきた相手だが、チャットなんて一度も飛んできた事はないし、送った事もない。


 恐る恐る本文に目を向けると、たった一文だけが送られてきていた。



 冬SORA : いつものあなたらしくない



 対戦に対する礼でもなく、無様に落ちていった者に対する雑言でもない。


 言ってしまえば意味が分からない。確かに俺とこの人はたくさん戦ってきたが、他人の打ち方を覚えている訳がない。


 俺だって冬SORAの名前は知っているが、この人がどんな打ち方をするのかなんて意識した事はなかった。


 自分でも自分らしさなんて分からない。それなのに冬SORAは、俺らしさを知っていると言う。


 送られてきたからには何か返信しようと頭を回すが、なんて返信すれば分からない。


 そう逡巡していると、なんと冬SORAから追撃のチャットが届いた。



 冬SORA : でも、私は嫌いじゃないわ



 ストレスも、後悔も何もかも、一瞬で吹き飛ぶほどの一文だった。


お読み頂き、ありがとうございます


次回

→【転勤で泣く竜さん】

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