最終イベント・その八
「やっぱ足湯はいいよね~」
「でもほら、あそこに凄い顔して足を凝視している人がいるよ」
「もう隠そうとする気配すらありませんね」
「別に減るもんじゃないし、もう好きなだけ見ればいいわ」
写真撮影の後も、色々な所に足を運んだ。
「見て見て! お猿さんが温泉に入ってる!」
「ほんとだ! やっぱりお猿は温泉が好きなんだ!」
「でもあのお猿さん、身動き一つ取りませんね」
「よく見なさいよ、あれ本物じゃないわよ」
一人一人違った表情、違った反応を見せてくれる四人。それはなんて贅沢な事なのだろうと、感謝した回数は数えきれない。
「うまっ! このアイスやばいよ!?」
「どれどれ~? ちょっとも~らい!」
「クーちゃん、あ~ん……」
「ちょっと秋穂、次は私よ」
彼女達と付き合う事になって数か月。未だにキスも出来ていないというノンビリっぷりだが、上手くやれているとは思っている。
「これとか九郎くんに似合いそう」
「そう? こっちの方がよくない?」
「たまにはこういうのもいいんじゃないですか?」
「なんでも着こなせるタイプではないから、難しいわね」
ただ時々、思わなくもない。
「あははは、見て! 可愛い!」
「な、なにそれ? きも……」
「春香ちゃんってそういうの好きですよね」
「可愛いかも……いけない、春香に毒され始めてるわ」
俺達はこのまま、ずっと仲良くやっていけるのだろうかと。
「おお!? 冬凛さんの勝ちって事!?」
「神が微笑んだとか、大げさ過ぎない?」
「地獄待ちとか、さすが冬凛さんです」
「秋穗も結構覚えてきたわね」
自分達の状態が普通じゃない事は分かっている。それを理解して、彼女達を幸せにするんだと覚悟したのも覚えている。
「ねえねえ! 幸せのベルだって! 鳴らそっ!」
「うわ~……それって、全国各地にあるベルじゃん」
「こういうのは気分が大事ですから、鳴らしておきましょう」
「なになに……? このベルを鳴らした二人はずっと幸せに……二人?」
でも未来は誰にも分からない。俺達がよくたって、周りの人達や環境が黙っていないかもしれない。
それでも俺は、自分で選択したんだ。
「あっちに展望台があるみたいだよ?」
「時間的に最後かな? 暗くなってきたし」
「温泉街が一望できるっぽいですよ」
「行ってみましょ、あまり人もいなさそうだし」
自分が選択してきた結果だ。誰かに強制された訳でも命令された訳でもない。
比喩じゃなく選択してきた、選択肢を選んできた。後悔なんてこれっぽっちもしていない。
しかし最近見なくなったけど、今も俺はちゃんと正解を選択できているのだろうか?
「九郎くん、こっちこっち」
「なにボーッとしてんの? 転ぶよ?」
「黄昏てたんですよね? 良い感じの夕焼けですし」
「黄昏て? っぷ……九郎には似合わないわよ?」
みんなの笑顔を見ていると、決して間違った選択はしていないと思う。
例えばこの場に、彼女が一人しかいなったら。あの時、四人じゃなく一人を選んでいたら……なんて、あり得ないな。
そんな選択肢は、俺にはなかった。
「きれいだねぇ~」
「うん、いい感じ」
「……あの、チャンスじゃないですか?」
「そうね。都合よく他には誰もいないし」
これからも俺は選び続ける。
というか人は、誰だって選択をしているんだ。みんなだって、頭の中に選択肢が表示されていて、いつだって選んでいるんだから。
「あ……こ、ここでする?」
「き、緊張する……」
「雰囲気もシチュエーションもバッチリじゃないです?」
「宿に戻ってからじゃ煩いのがいるしね……ねぇ九郎、ちょっといい?」
俺は彼女達を幸せにする、全員だ。もちろん月ちゃんも。
あぁあと陽乃姉さんもか。
この先もずっと。
彼女達の幸せの為に、俺は選択肢を選び続ける。
「――――ん? どうしたの?」
「昨日から、みんなと話し合っていたのよ」
「はぁ……なにを?」
「キスする順番」
「はぁ、キスを……な、なんだって!?」
トーリの口から飛び出した、胸が高鳴る発言。今朝はキスの事で頭が一杯だったのに、彼女達と遊んでいる内にスッカリ忘れていた。
トーリは平気そうな顔をしているが、後ろの三人は赤くなったりモジモジしたりしていた。
「もう最初のキスはなくなったから、拘る必要もなくなったし」
「あ、あぁ……まぁね」
「なによその反応? 私達としたくないの?」
「し、したいに決まってるだろ!?」
「ならいいわ――――じゃあここで待ってて? 最初は一人ずつの方がいいだろうから」
そうトーリが言うと、他の三人を引き連れて展望台の階段を下って行った。
トーリのいう一人ずつというのは、誰も賛成だ。いくら彼女とはいえ、自分のキス顔が見られるのは少し恥ずかしい。
まぁいずれ、そんなこと気にならないようになって、みんなの前でするようになっているかもしれないが。
リップクリームを買っておけばよかったとか、どのタイミングで目を瞑ればいいのだとか悶々していると、どうやら一人目の子がやってきたようだ。
「あ、あはは~、あたしが最初だったり……」
最初にやってきたのは春香だった。
かなり緊張しているようだが、そのお陰か俺は逆に冷静になる事ができた。
姿が見えてから一度も目が合っていないが、春香は立ち止まる事なく進み、俺の隣に立った。
「誕生日順になったんだよね」
「そ、そうなんだ」
「最初は出会った順だったんだけど、夏菜さんが最初はどうしても無理って言うから」
照れ隠しをするように、伏し目がちでそういう春香。
やはりここは男らしくリードしなければと、声を出そうとしたその時だった。
「ねぇ九郎くん……大好きだよ?」
やっと目を見てくれた春香。夕日のせいもあるのか顔が真っ赤だが、目を逸らそうとはしなかった。
「うん。俺も、春香の事が大好きだよ」
「……ほんと? 一番好き?」
「もちろん一番だよ。みんなも一番だけど」
「あはは、ずるいなぁ。でも、嬉しい」
そう呟くと春香は目を瞑った。
待たせてはいけないと、若干震えている手を春香の頬に添えて、春香にキスをした。
「ん……しちゃったね」
「しちゃったな」
「……もう一回する?」
「したいかも」
そのまま二度目のキス。やり方なんて分かったもんじゃないが、一度目よりは上手にやれたんではないだろうか。
長いようで短かったキスが終わり、優しく微笑む春香と少し話してから春香は下に降りていった。
誕生日順という事なので、次はあの子が来るだろう。
最近は大分マシになってきていたけど、春香以上に恥ずかしがり屋な元気娘。
なかなか来ないなと待っていると、その時は突然やって来た。
姿が見えたかと思ったら、次の瞬間には隣にいた夏菜。なぜこの子はそんな全力疾走で現れたのだろう。
「んっ!!」
あまりの事に驚いていると、急に目を瞑り顔を向けてきた夏菜。キス顔はとても可愛いが、力が入っているのか体はガチガチで目元が震えている。
「ん~っ!!」
それでも強引にキスを敢行しようとする夏菜。流石にこの雰囲気でするのはどうかと思ったので、夏菜の肩に手を乗せ、ゆっくりと話しかけた。
「落ち着けって、ガッチガチじゃん」
「だ、だって恥ずかしいじゃん! キスするなんて!」
「……したくないの?」
「したくなかったら来るわけないだろぉぉ!!」
それからも恥ずかしさを隠そうとしているのか、真っ赤になりながら捲し立てる夏菜。
「ちょっと待って! リップ塗り直すから!」
「夏菜」
「あれ、どこに入れたっけ……」
「夏菜ってば」
こりゃダメだ。テンパってしまっているのか俺の声が聞こえていないようだ。
たまには強引にいってみようか。そう思った俺は夏菜の肩に置いていた手に、少しだけ力を込めて夏菜の反応を促した。
「夏菜――――好きだ」
「えっ?――――んんっ!?」
返事は聞かづに、夏菜の唇に自分の唇を押し付けた。
夏菜の抵抗がない事をいいことに、結構長いこと重ねていた気がする。
「ん……夏菜は?」
「……へ?」
「夏菜は俺の事、どう思ってるの?」
「も、もちろん好きでしゅ……」
真っ赤になった夏菜を抱きしめながら、噛んだでしまった事を笑いあった。
そのまま軽くイチャ寄りな会話をしていると、ガチガチに緊張していた子とは思えないような笑顔になっていた。
夏菜が展望台を降りてすぐ、アキがやってきた。
春香と違い足取りは軽く、夏菜と違って恥ずかしがっている様子もない。
「お待たせです、クーちゃん」
「こっちこそ、待たせてゴメンね」
堂々とは少し違うが、いつもと変わらない様子で近づいてきたアキは、俺の隣に来るとにこやかに微笑んだ。
アキが放つこの独特な雰囲気が好きだ。多分アキとなら、一日中ボケーっと過ごしても苦じゃないのだろうな。
そんなアキだったが、今はどうにも様子が違うように思える。
さっきからどうにも口数が多いというか、本題を避けるように話題を選んでいるように感じられる。
「なぁ、アキ?」
そのため俺は、ちょっと真剣な目でアキに訴えかけた。俺の目を見て感じ取ったのか、アキは口を閉ざした。
僅かな沈黙の後、どこかビクビクしているようにも見えるアキが、再び口を開く。
「……ねぇクーちゃん」
「うん」
やっぱりアキでもキスという行為は恥ずかしいのかな? そう思っていたのだが、アキの口から出たのは思いも寄らないものだった。
「正直な所、私は何番目ですか?」
「え……」
どこか怯えるような、震える目でアキは続けてこう言った。
「四番目でも五番目でもいいです! でも、嫌いにならないで……」
ついには泣き出してしまったアキ。こんなに思い詰めさせてしまっていたのかと、不安にさせてしまっていたのかと自分を責めた。
俺はアキに自分の気持ちが伝わるように、力いっぱいアキを抱きしめた。
「アキの事は好きだよ、大好きだ。みんなと同じくらい大好きだよ。これからもずっと、大好きだ」
「ほ、ほんとですか……? 嘘じゃ……ないですよね?」
「嘘じゃない。アキの方こそ、俺の事を嫌いにならないでくれよな?」
「そんな事……あり得ないです」
先にキスしていた二人とは違い、アキとのキスは涙の味がした。
「私もあなたの事が、世界で一番好きです。これからもずっと大好きです」
またアキの事を泣かせてしまった。もう二度と彼女に涙は流させないと自分に言い聞かせていると、最後の一人がやって来た。
待ちくたびれた様子で、その表情には笑顔も恥じらいも見られない。どちらかと言えば怒っているのかもしれない。
「これほど冬生まれを呪った事はないわ」
俺の隣に来て開口一番、自分の誕生日を呪ったトーリ。
みんな納得してこの順番になったと聞いていたのだが、やはり最後になってしまったトーリには思う所があるのだろうか?
「でも出会った順とかであっても、トーリは四番目じゃないか?」
「……まぁ、面と向かって会ったのは四番目ね」
出会った順番で何かが変わる訳ではないが、ちょっとした選択の違いで未来は大きく変わるのだから、面白いものだ。
「というかあなた、また秋穂の事を泣かせたの? 目が真っ赤だったわよ、あの子」
「うぐっ!? そ、それはだな……」
「まぁ、すごくいい笑顔でもあったけどね」
俺だって泣かせたくて泣かせた訳じゃない。アキの涙は完全に俺のせいだが、彼女達には笑っていて欲しいとは心から思っている。
それは目の前のトーリだってそうだ。相変わらず少しだけ厳しい目をしてるけど。
「じゃあクロー、そろそろいいかしら?」
そう言うとトーリは俺の肩に両腕を回した。身長が高いトーリであっても、この大勢だと見上げられるような態勢になる。
「ず、随分と大胆だな」
「いつもは遠慮しているだけよ、二人きりなのだから普通だわ」
二人きりだとここまで大胆になるのか。四人の中では一番ドライなトーリなので、ギャップが凄まじい。
「女からさせるつもり?」
「そ、そんな事ないぞ! す、するよ?」
「いちいち聞かないでよ、ばか」
そんなカッコいいトーリのキス顔はヤバかった。四人目だというのに、一番緊張したかもしれない。
俺、震えていたかもしれない。キスが終わってトーリから離れた時、トーリの奴、俺を馬鹿にしたように微笑んでいやがった。
「ふふ。それで、ご感想は?」
「や、柔らかかったです」
「もっとしたいんじゃないの?」
「したいです……」
「だ~め。また今度ね?」
節操のない俺の唇を叱るように、トーリは俺の唇に人差し指をあてた。
こりゃ尻に敷かれるのかもしれないと軽く恐怖を覚えていると、みんなを呼んでくると言ってトーリは展望台を降りていった。
その後は再び四人で集まって記念撮影。初キス記念とか言って騒いでいる彼女達を眺めながら、俺は思った。
きっとこれからも俺達は、仲良くやっていけるだろう。どんどん色々な記念事が増えていくのだろうな。何しろ四人もいるんだ。
四人もいる事で何か問題とかは起こるかもしれないけど、四人もいなきゃ出来ないことだって沢山ある筈なんだ。
何もかもが四倍以上。それはきっと、幸せな事に違いない。
「みんな、これからも宜しくな」
「「「「うんっ!!!!」」」」
その四つの笑顔を見て思う。
選択して良かった。俺の選択は、間違いじゃなかったよ。
――――
――
―
「……誰かの事をお忘れではありませんか?」
「いや、忘れていた訳じゃないよ?」
「そうですか? それならいいのですけど」
「そ、それよりも体調はもう大丈夫なの!?」
「大丈夫です、すっかり元気になりました」
「そっか。ならよかったよ」
「それよりも、私にもキスしてくださいよ?」
「え……だ、誰から聞いたの?」
「今の先輩の答えで確信しました」
「……相変わらずだな。俺でいいの?」
「先輩じゃなきゃ嫌ですよ、なに言ってるのですか」
「あ、そ、そう? じゃあ……失礼して」
「転んでもただでは起きませんよ? 覚悟してください」
「は……?」
こいつ、何を言ってるのかと思ったら舌を入れて来やがった。
流石だな月姫。隣で腹を出して寝ている陽姫とは大違いだよ。
「ん……ごちそうさまでした」
「あぁ、いえ……お粗末」
「ではついでに姉さんにもキスしてあげてください」
「ええ!? でも陽乃姉さん寝てるし」
「……(寝たふりですね、可愛い所あるじゃないですか)後で色々と怖い事になりますよ? やっておいた事にすれば文句も言われません」
「な、なるほど? では失礼して……」
陽乃姉さん、キスした瞬間動いた気がしたけど、気のせいだよな?
「気のせいだな。陽乃姉さんが白雪姫とかあり得な――――」
「――――ッチ」
「ひぃぃぃぃ!?」
「寝言ですよ」
「ね、寝言? 舌打ちの寝言って初めて聞いたよ……」
お読み頂き、ありがとうございます
あと1、2話で区切りをつけます
ダラダラ伸ばしてもあれなので…
ここで終わってもいいかと思いましたが、プロローグで始まったのでエピローグで終わらせます
選択肢を使った物語が書いていて面白かったので、選択肢を使ったファンタジーを執筆中です




