最終イベント・その六-三
「――――それじゃ~時間的に最後かな?」
あれから様々な人が色々な暴露をし、瞬く間に時間は過ぎていった。
欠伸をしだす人が増えたし、そろそろいい時間という事もあり、ラストゲームにしようという事になっていた。
相変わらずゲームはババ抜きだが、みんなババ抜きというより暴露を楽しんでいた感じだったな。
雰囲気的な事もあってか、そこまで言い難いお題は出なかったように思う。
まぁそれは公太のせいだ。あれから、意外にも男が何度かトップで上がれたのである。
……全て公太だが。何度も言ったさ、ちょっとエッチな事を聞いてみろって。
あの野郎、一切耳を貸さなかった。当たり障りのないお題にしやがって。
俺はただ、夏菜やトーリが恥ずかしがりながら、好きな人は九郎って言うのを聞きかかっただけなのに。
そんなこんなでラストゲーム、トップで上がったのは東森さん。さっきビリになった時の、好きな人の名前を暴露は凄かった。
女性の名前だったのだ。みんなが驚く中、意を決して性別を聞くとやはり女性。まぁそういう事、そういう人もいるっていう事。
西河先輩が最下位だったらどうなっていたのだろう? 央平に主人公力があったのであれば、そういう未来もあったのかもしれない。
「ん~最後っすからね~……」
考え込む東森さん。そして何かを思いついたのか、手帳を取り出し何かを書き始めた。
「ここにある事を書いたっす! 何位と何位が、何々する~みたいに」
趣向を変えた王様の命令。今回はビリが罰ゲームという事ではないらしい。二番目に上がろうが十番目に上がろうが当たる可能性があるという事だ。
しかも二人以上が当たるっぽい。当たる確率は……11分の2?
なんて微妙な緊張感が部屋を漂いつつもゲームは進み、特に盛り上がる事もなく俺がババを所持したままゲームは終了した――――
――――
「じゃあ自分の順位は確認したっすね?」
みんなが頷くのを確認した東森さんが、メモを取り出して準備する。何をさせられるのか、何番目が当たるのかちょっとワクワクしてきた。
「それじゃ~まずは最下位の人」
「はい? なんですか?」
「いやなんですかじゃなくて、君は最下位なんだから無条件で当たりっすよ」
え? そういう事? てっきり最下位だろうが何だろうが関係ないのだと思っていた。まぁ、そう言われれば納得だけど。
それならば最後の攻防、もっと緊張感を持ってやったのに。これで変なお題でも出されたら最悪だ。
しかし東森さんの口から飛び出した言葉に、俺の心臓は跳ね上がり、女性陣は息を飲む事になる。
「じゃ発表するっす! 最下位の人と……に上がった人は~……キスしてもらいま~す!」
などという、大学生みたいなテンションで言い放った二十代中盤の東森七緒。
高校生のテンションではない。それって大学生がコンパとかでやる奴じゃないの? みんなデリケートなんだから、そこは配慮いただかないと。
東森さんの言葉に女性陣が緊張したのが分かった。敢えてだろうが、相手が何番目の人なのかをボヤかしたからだろう。
嫌そうな顔をしている女子もいて、それには大層心を抉られたが。
でも王の命令では仕方ないんだ。俺は敗北して地に落とされた身、天上に住まう者には逆らえないのだ。
王様ゲームで命令拒否ほど白けるものもないしね。まぁ嫌なものは嫌なんだろうけど。
「あ、あの! ちょっとそういうのは、どうなんですかね? そういうの嫌な子もいると……まぁほとんどが彼の彼女ですけど」
大陰さんを守るかのような立ち振る舞いで、そう言ったのは公太。自分の彼女が当たったらと思うと、いてもたってもいられなかったのだろう。
俺だって、もし央平と彼女の誰かがそういう事になったら、全力で阻止するだろうしな。白けるとかそんなの知らねぇよ。
「まぁ……そっすね。公太の言う通り、ちょっとそういうのは……」
意外にも央平も反対のようだ。恐らく央平も、西河先輩が当たってしまったら嫌だという事なのだろう。
こいつ、自分が最下位だったら絶対に反対しなかったと思う。こいつはそういう奴だ。
「控えよ愚民ども。王のご命令であるぞ」
「く、九郎、俺達の立場になって考えてみてよ……」
「お、お前な! ずるいぞ! お前だけずるいぞ!」
どうやら央平は西河先輩が……ではなく、単純に俺がずるいから反対していたらしい。公太の気持ちって、それは俺だって分かっているさ。
俺も少しふざけたが、もし大陰さんか西河先輩が当たったら、理由をつけて断るつもりではあったよ。
俺はただ、未だに誰が最初にキスをするんだと騒いで行えていないでいる、彼女とのファーストキスイベントに利用できるかと思って。
ちょっと強引だし、それで選ぶのはどうなのだと思わなくはないが、こういう形であればとりあえず納得はするのではないだろうか。
俺だってしたい気持ちはある。ただ困った事に、特にこの子とキスしたいという思いはなく、みんなとしたいの。
「はいはい! 大丈夫っすよ! ちゃんと考えていますから! では、発表しまーす!!」
そんな俺の想いを知ってか知らずか、取りやめる気など更々なさそうな東森さんが強引に話を進める。
ちゃんと考えているとはどういう事なのだろうか? 嫌がるなら拒否も可能とかそういう事だろうな、きっと。
そしてついに、俺のファーストキスの相手が発表された。
――――
――
―
「…………」
「…………あはは」
俺の相手は、あははっと可愛らしく笑った。
「おらおらー! 早くキスしろよぉ!!」
央平は相手が西河先輩ではない事に安堵したのか、囃し立てて盛り上げる方向にシフトチェンジした様子。
「今の高校生は進んでいるんだね」
「に、西河先輩もこの前まで高校生ですよね?」
「青春っすね~。大丈夫っす、撮影はしないので」
俺の彼女ではない三人。この三人は最初から除外されていたらしい。誰が誰の彼氏彼女を把握していた東森さんは、俺のために一芝居うってくれたようだ。
ただ彼女は、致命的なミスを犯す。
「ある意味では面白くて、ある意味では面白くないです」
「もうさっさとヤッちゃいなさいよ。眠くなってきたわ」
興味と落胆が混ざり合ったような表情をする月ちゃんと、自分じゃないと分かった瞬間から興味を失った様子の陽乃姉さんが呟いた。
この二人のどちらかでもよかったな。裸も下着も見せてくれた仲だしな。
「…………」
「…………あ、あの~……」
さて、そろそろ動かないといけないか。これ以上引き延ばしたって無意味だし。
みんなに注目され、居心地が悪そうにしている相手にも悪い。ここは俺が男らしく動くべきだろう。
「…………なぁ」
「う、うん……」
ふざけやがって。
「……どこまで俺の邪魔をすれば気が済むの?」
「そ、そんなつもりはないよ!」
東森さんは、俺のために不正を働いた。俺のキスの相手は俺の彼女になる様にと。
大陰さんと西河先輩の順位が確定した後で、メモの番号を確認。彼女達は該当していない、これでオッケーだと順位を発表。
しかしこのドジ属性の僕っ子は、あろう事か公太と央平の順位を確認しないで発表したのである。
その結果。
「ふざけんなよ、酒神公太。どうして主人公ってこうなんだ? なんで黙って後ろにいてくれないんだ」
「だ、だから! 運なんだから仕方ないだろ!? 俺だって後ろにいたかったさ!」
俺のファーストキスの相手は酒神公太になるようだ。イケメンだし、一部の女子は騒ぎそうではあるが、俺は全く嬉しくない。
「ファーストキス、取られちゃうね。しかも男性に」
「ウチの幼馴染がごめんなさい……」
「私の昔馴染みがごめんなさい……」
「この感情をどう処理したらいいのか分からないわ」
あの中の誰かが当たっていれば、今頃は。
一歩大人になって、色々と自信がついて、頭が良くなって、いい大学に入れて、いい会社に勤められて、幸せになったに違いない。
「お前はいいよな? 俺のファーストキスはお前になるけど、お前は違うもんな? 最愛の彼女だもんな」
「…………」
いや、逆に良かったのかもしれない。俺のファーストキスがなくなれば、彼女達が言い合いする事もなくなるだろうし。
公太を責めるのはお門違いか。責めるのであれば、うだうだと行動しなかった過去の俺を責めるべきだよな。
「……なぁ、俺って初めてだから、お前からきてくれない?」
「え……いや……俺もそんな経験がある訳じゃ……」
顔を赤くしてモジモジしだした公太くん。キョロキョロと目が泳ぎ、いつもの堂々とした公太の姿はどこにもない。
……きも。
モジモジしているのを見るなら春香や夏菜が良かった。キョロキョロと落ち着かない様子を見るならアキやトーリが良かった。
「公太-九郎? いやでもやっぱり九郎-公太も捨てがたい」
「……大陰先輩? 腐の方だったのですか? 兄が選ばれた時、なんでこの人は興奮しているのだろうと思ったのですが、そういう事ですか」
「気持ち悪い!! 見たくもないわ! 電気消してやるからさっさと済ませろ!!」
――――パチ。
陽乃姉さんが電気を落とした様で、辺りは暗闇に包まれた。
長いこと明るい所にいたせいなのか、本当に何も見えない。目の前にいるはずの公太の姿すら見えないが、気配は感じる。
この中でするのは、難易度が高くないか? 見られないって安心感はあるかもしれないが、俺も相手の口が見えないのだが。
というか……やった事にしてしまえばよくね? 俺天才。
「公太? いる? あのさ――――ウオッ!?!?」
ヒソヒソと話しかけたら、急に肩に手を置かれ、公太に押し倒された。
まったく見えなかった事と、まさかこんな強引にくるとは思わず、何の抵抗も出来ずに尻餅をついた。
――――チュッ――――――――チュ。
口の位置を確認するかのような手の動き、そして落とされたキス。
なんて強引な奴。大陰さんもこの強引さにやられたのだろうか? その巨体で、小柄な大陰さんを押し倒すとか……こわ。
柔らかい唇。細かい所も手入れをかかさない所は、流石のモテ男。正直な所、驚いたってのはあるが、まったく不快感は感じなかった。
そしてめっちゃいい匂い。風呂上がりだからか、シャンプーの匂いがグッドだった。
いやでもさ、しなくてよくない? 俺のファーストキス、そこまでして奪う必要なくない? しかも二回したでしょ?
まさか俺に気があるのか……なんて事まで頭をめぐり始めた時、気配がなくなった。
「ちょ、ちょっと大丈夫なの? 凄い音がしたけど……電気付けるわよ?」
――――パチ。
少し慌てた様子の陽乃姉さんの声が聞こえたと同時に、再び電気が付いた。眩しさに目を顰めるが、徐々に慣れていき、辺りを見回す。
目の前には、何事もなかったかとでも言うような様子の公太が佇んでいた。
「座り込んでどうしたのよ? 大丈夫なの?」
みんなの疑問を一早く口にした陽乃姉さん。それを皮切りに慌てた様子の彼女達が詰め寄って来る。
公太に押し倒されて、意外にも良かっただなんて口が裂けても言えん。
「それで、初キスのご感想は?」
「彼女より先にキスするとはね」
「次は私ですね、クーちゃん!」
「案外良かったんじゃないの?」
その後は、感想を聞かれたり冷やかされたりと色々あった。
彼女達は不満そうな顔をしている子もいたが、仕方がないと割り切ったのか、そこまでブーブー文句を言われる事もなかった。
しかし俺は決めたぞ。この旅行中、というか明日だな。
今度こそ彼女達とキスをしてやるんだ。
――――
――
―
「上手くごまかせたね」
「ん? ごまかせたって、なにがよ?」
「陽乃姉には感謝だね。暗くて何も見えなかったから、キスしてなくてもしたって言えば信じるしかないよね」
「……なに言ってんだ? したじゃねぇかよ」
「……え? いや、してないけど」
「……は? いやいや! 俺のこと押し倒してキスしただろ!?」
「お、押し倒した!? あれって九郎の演技じゃなかったの!?」
「演技じゃねぇよ! 押し倒されたっての!」
「俺、なにもしてないよ? 何も見えなくて、どうしようと思ってたら九郎が動く気配がしたから……」
「何もしてないって……マジかよ?」
「うん。押し倒してないし、キスもしてない。電気が付いた時に、倒れている九郎を見て、そういう事かって思って……」
「……じゃ俺は、誰に押し倒されてキスされたんだよ……?」
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