最終イベント・その四
「あっ! ちょっとストップ! そこの二人、そのままでお願いっす!」
温泉宿に向かう道中、東森さんの甲高い声が何度も響き渡る。
どうせなら温泉街を観光しながら宿に向かおうという事になったのだが、こうして声を掛けられ足を止める事が非常に多い。
今はとある店先に展示されていた土産物を、手に取って笑い合っていた春香とトーリにストップが掛かった。
自然な笑顔から若干ぎこちない笑顔となり制止する二人。こんな光景を何度見たか、女性陣の荷物の大部分を男性陣が持っているという事もあり、そろそろしんどい。
早朝に家を出て、そろそろおやつ時。今日は旅館についたらノンビリして終わりだな。
「おお! いいっすねその表情! 頂きっす!」
今度は夏菜とアキにレンズが向けられている。いい表情って言うが、顔は使われないという話じゃなかったか?
「さりげなく撮影するって言ってなかった?」
「動画を撮って、後で画像キャプチャすればいいのではないですか?」
月ちゃんはいつも通りだが、陽乃姉さんは限界だな。顔にハッキリとウザ……って書いてある。
そんな雰囲気を察せられないのか、東森さんの撮影会はこの後も長く行われるのであった。
――――
――
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「――――やっとついた~!!」
旅館に付き、割り振られた部屋に入った瞬間に寝転ぶ男三人。
素敵なお部屋に対する感想など出てこない。本来なら普段は入れる事がないお茶を入れて、テーブルに置いてある妙に美味い地元の銘菓を食したい所なのに。
ちなみに部屋割りは東森さんが事前に決めていてくれたようで助かった。男三人の部屋と、四季姫の部屋。そして陽月姫と西河先輩、東森さんの部屋だ。
「流石に疲れたな~」
「お前は西川先輩の荷物しか持ってねぇだろ……」
「あはは……どうする? 夕食まで時間があるし、風呂でも行く?」
旅館について早々、旅館内を見て回ろうと言う女性陣に断りを入れて部屋に駆け込んでいた男達。
あれほど撮影されていたのに、道中は疲れた表情もしていたのに。旅館に着いたとたん体力が回復したとでもいうかのような女性陣のパワフルさ。
こっちは公太ですらヘバリを見せている。俺だって体力に自信はあったのだが……四人分の荷物は予想以上にきつかった。
「お、おい! ここ、混浴があるらしいぜ!?」
旅館の案内パンフレットを見ていた央平。先ほどまでの疲れ切った表情はどこに行ったのか、鬼気迫る表情で詰め寄ってきた。
「行こうぜ!? 行くべきだろ!? 行こうよ!?」
「……なにを期待しているか知らね~けど、女は来ないぞ? お決まりだろ」
「そうだね~……こっちに行こうよ? 紅葉が綺麗な大露天風呂!」
決まりだな、俺も紅葉が見たい。鮮やかに色づいた葉を見ながらの風呂は、素晴らしいこと間違いないだろう。
まったく、混浴風呂に入りたいなんて騒ぐのは中学生までにしてほし――――
――――ピコン。
夏< 九郎! 混浴風呂があるんだって! 皆で入ろうよ!
春< 混浴風呂はタオル巻いてオッケーなんだって。
冬< 他の男子にバレないように来なさいよ?
秋< 今の時間は利用客が少ないみたいですし、チャンスです!
……混浴風呂入りてェェェェェ!!
なんてこった。俺の紅葉はここにあったのか。
鮮やかに色づいた頬、肩口。少し目線を下げれば、見事に色づいた柔らかそうな渓谷が見え……絶景かな。
「そりゃ芭蕉も句を詠むわな」
「な、なに急に? どうしたの九郎?」
「……さて、準備をしないと」
「よく分からないけど……ほら央平! 央平も準備して! 紅葉風呂に行くよ!」
「もう、分かったよ! 今日は混浴やめとく!」
「今日はって、いつか行くつもりなの!?」
「当たり前だろ!? なに言ってんだお前は!?」
「そっちがなに言ってんのさ!? 行くなら一人で行ってよ!?」
「……大陰さん」
「な、なに? 零那がなに?」
「彼女と混浴……したくないのか?」
「む……そ、それは……」
「きっといい思い出になるぞ? 鮮やかな紅葉のように色づく彼女の体……おやおや、意外にも大きな物をお持ち――――」
「――――央平。それ以上、人の彼女で変な妄想したら……今すぐ目の前を鮮やかにして見せるよ?」
「じょ、冗談だよ」
「まったく……ほら九郎、準備が出来たならいこ――――」
「――――わり、ちょっと用事を思い出したわ。先に行ってて」
「……は? 用事ってなんだよ? こんな温泉旅館でなんの用事があんだよ?」
「九郎、温泉入りに行かないの?」
「行けたら行くわ!」
「それぜってー来ねぇやつじゃん。いいから早く行こうぜ」
「えぇぇい煩い! 俺は紅葉を見に行くんだ!」
「「いや、だから紅葉が綺麗な露天風呂に……」」
訳が分からないと言った顔をする二人を押し切り、強引に部屋を飛び出した。後で色々と問い詰められたりするかもしれないが、そんな事はどうでもいい。
いつの間にか疲れなど吹き飛んでおり、意気揚々と待ち合わせ場所へと向かうのだった。
――――
――――
そしてやってきました、いきなりのメインイベント。序盤からクライマックス、最初から全力、初日から最高潮です。
待ち合わせ場所で合流して、今は脱衣所の中。ご都合宜しく脱衣かごの中には服がない、男は俺一人のようだ。
まだ風呂に入っていないというのに、上せそうだ。あの扉を開けた先に、タオルを一枚しか纏っていない愛しの彼女が、四人も!?
「やば……本当に鼻血がでるかもな」
風呂を血で汚すのはマナー違反だ。でも出てしまったものは仕方がない。色の付いた鼻水だ、少しくらい勘弁願おう。
「では……脇谷九郎、いざ参る――――」
「――――ちょっと待ったーー!!」
何奴!? 今まさに扉を開けようと手を掛けていた時に聞こえた、待ったの声。
悪い事はしていないのに、頭がピンクだったせいか悪い事をしてしまった気分となり、体が硬直してしまう。
恐る恐る振り返ると、そこにいたのは――――
「――――はいこれ! 防水仕様っすから、少しなら濡れても平気っす!」
満面の笑みを浮かべた、東森七緒であった。
驚きを通り越して呆けてしまった俺に、カメラが渡される。
「……え? ここ男性用ですよ? というか、なんすかこのカメラ」
頭が徐々に冷静となるが、ここが女人禁制の場所である事と、温泉でカメラなど犯罪臭しかしないアイテムを渡されて再度困惑。
やはり東森さんは男なのかとか、盗撮ってそういう事だったのかとか色々な事が頭を駆け巡った。
「いやそれが~、彼女達、お風呂に入っている所を撮られるなら、彼氏さんがいいって聞かないもんで~」
「は……? 彼氏さんって……俺ですか?」
「え? 違うすか?」
「いえ、違わんす」
どうやら例の風呂に浸かっている所の撮影を、俺にしてほしいと彼女達が頼んだらしい。
東森さんに撮られるのが嫌って事ではないだろう。どうせ俺の事を揶揄って遊ぶつもりに決まっている。
「適当に動画でもいいですし、写真でもいいっす! 他の人には絶対に見せないと誓うっすから!」
「俺、全くの素人ですけどいいんすか?」
「大丈夫っす! 今の時代、加工技術がヤバヤバっすから!」
「そ、そうですか。分かりました、そういう事なら……」
そうして渡された、ちょっとだけ高級そうなカメラを手に、再度扉に手を掛けた。
俺はこの先にある素晴らしき映像をカメラに収めるという、大変名誉な使命を授かった。
気分は凄腕カメラマン。彼女達の魅力を存分に引き出せるように頑張らなくては!
しかし一つ、どうしても確認しておかなければ。
「……データ、後でコピーしてもらえますか?」
「それは彼女達の許可を取って下さい」
では改めまして…………男脇谷九郎、いざ参るっ!!
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