とある日の……酒神公太
とある日の夜、公太は九郎から借りた恋愛ゲームをプレイしていた。
明日の部活動はお休み。とくに何の予定もなかった彼は、しばらく放っておいた恋愛ゲームをプレイしてみる事にした。
(九郎だけじゃなく月乃もおススメしていたからな)
前者のおススメ理由は神ゲーだから、後者の理由は主人公の妹が可愛いからという理由ではあったが、プレイしてみる気になったのは自分の心象による所が大きい。
少しでも参考になればと、それだけでプレイしてみる理由には十分だった。
(始まった……名前とかは自分で決められないんだなぁ)
すでに名前が決まっている主人公。始業式という始まりの日からいきなり寝坊して遅刻しそうになっているし、自分とは似ても似つかない。
名前が違うという事もあって、彼という主人公の物語を遠くから覗いている感覚だ。
(と思ったけど、俺も始業式の日は盛大に遅刻したっけ)
大慌てで通学路を走り抜ける主人公。どこかで見た光景だと既視感に囚われていた時、まるで自分の記憶かというほどに同じ事がモニターの中で繰り広げられた。
曲がり角での激突。
倒れ込む主人公と女子生徒。そんな全速力で、見通しの悪い曲がり角を曲がればそうなるだろう。
モニター越しに主人公の事を非難するも、そういや俺も同じ事をしたなと、少しだけ主人公に感情移入できた。
(それどころじゃなかったからな、遅刻が嫌で……っと、これが選択肢か)
【差し出された手を取る】
【自力で起き上がる】
【どこ見てんだボケェ!】
九郎が言っていた選択肢だ。これを選ぶ事によって、主人公を意のままに操れるという事か。
二重人格かとも思えるほどに差がある選択肢。まだこの主人公の性格を掴めていない現時点では、何が彼らしい選択なのかが分からない。
この主人公をゴールまで導かなきゃならないのだ。人格を歪めてしまう選択をしてしまっては申し訳ない。
(……そういえばあの時、九郎は……)
これはハーレムゲームだという話だった。現実世界でハーレムを形成した、九郎のような選択をしていくのが正解なのかもしれない。
『どこ見てんだボケェ!』
『ひっ!? ご、ごめんないさい! ごめんなさ~い!!』
……おや? 彼女が泣きながら走り去ってしまったよ? おかしいな……九郎と同じ選択肢を選んだのに、展開がまるで違う。
まぁ印象としては残っただろう。あとは今後の学園生活での選択肢次第ということか。
しかし急に画面が暗転し、先ほどとは違ったフォントになった文字が、おかしな事を言い始めた。
――――その後、特に何事も起きる事なく迎えた卒業式。
(……は? 今日って始業式だよな? いきなり卒業式? 大学生編になるのか?)
――――女子生徒に怖がられ続けた俺に彼女なんて出来るはずもなく、暗い三年間を過ごした。
(……んん!? 過ごしちゃったの!? なんで挽回しようとしないの!?)
――――思えば選択を間違ったんだ。こんなはずじゃなかったのに……BADEND
「バッドエンド!? いきなり!? なにこのクソゲー!?」
思わず叫んでしまった。今の時間帯にこのような声量はまずい。下手をしたら陽乃姉が飛んできて、最悪モニターを壊されてしまう。
しかし、たった一つの選択でバッドエンド直行とは。どうやら恋愛とは、想像以上に難しいもののようだ。
(慎重にならざるを得ない。こんなホラーゲームのようなバッドエンド表示を見るのはもう嫌だ)
――――そうしてハーレムルートを目指して選択をしていくも、物凄い数のバッドエンドを迎えてしまう公太。
気が付けば個別ルートのような展開になっており、気が付けばバッドエンドに。一体なにが悪いのか想像もつかない。
記憶喪失エンド、少年院エンド、雷直撃エンドなんてふざけた物もあった。
ちゃんと全員を選べる時は全員を選んだし、主人公っぽい選択を取っていたはずなのに。
この主人公のスペックは高いようだし、下手な事をしなければ彼女の一人や二人できそうな描かれ方なのに、なぜハーレムルートしかないのか。
(ダメだこりゃ。クリアー出来る気がしない)
気が付けば深夜。こんな時間帯にあのおどろおどろしいバッドエンドは見たくない。
公< 助けて。
九< は? なんだよいきなり? なんか緊急?
こうなったら現ハーレム主人公を頼るしかない。攻略サイトを見るのは、負けた気がしてなんか嫌だった。
九< なるほどねぇ~。つまり答えを知りたいのか?
公< いや、なにかヒントを……。
九< ヒントって言われてもなぁ……とりあえずさ、今度は自分っぽく選択してみたら?
公< 自分っぽくって、俺ならどうするかって事?
九< そうそう! 聞いた感じだと、ハーレムならこうだ! っていう選択をしてんだろ?
公< そうだね。ハーレムを目指すなら、ハーレムっぽい選択をするでしょ?
九< 公太はモテモテなんだからさ、案外いけるかもよ。
公< モテモテかどうかは分からないけど……分かった、もう少しやってみるよ。
九< 頑張れ! 恋愛に答えなんてないからな! 聞かれても答えられんぜ!
公< ゲームなんだから答えはあるでしょ……。
九郎とのやり取りを終え、再び最初からスタートを選択。ちなみにこのゲームにはセーブ機能がない鬼畜仕様だ。
(俺ならどうするか……第三者じゃなく、本人としてやれと)
主人公を名前が違うだけの自分と置き換え、再び様々な選択をしていく。
すると意外にも、バッドエンドに遭遇することなく物語が進んで行くではないか。
そうして迎えた、初めて見る選択肢。なんとなく重要そうな選択肢を前に、彼の手は止まってしまった。
【ヒロインを追いかける】
【追いかける事は出来ない】
色々あって、逃げ出してしまったヒロインに対する自分の選択。
自分だったらどうするかに置き換えるも、色々な感情が邪魔をして決断しきれない。
これはゲームだから時が止まっている。現実だったら去っていく彼女をボーッと眺めるだけの、情けない男となっていただろう。
そうしてやっと決断する――――彼女を追いかけよう。
『俺はただ、君と一緒にいたいだけ』
それっぽい事を主人公が言って、それっぽい雰囲気になった事で確信する。これは正解だろ――――
――――BADEND
「なんっっっでだよッ!!!」
――――ドタドタドタドタッ!!
「公太ッ!! 何時だと思ってんのよ!?」
「兄さん。妹キャラはどうでしたか?」
思わず上げた大声に反応してやってきた姉妹。お怒りの姉に電源ケーブルをぶっこ抜かれてゲーム終了。
妹にはもしかしたら監視カメラでも仕掛けられているんじゃないかと探したが、見つからなかった。
公< くそげーだ。
九< それは聞き捨てならんな。良かった所もあるだろ?
公< 妹キャラが可愛いだけのゲームだ。なんならあの子を攻略したい。
九< 一応言っておくが、あの子がハーレムメンバーに加わるルートもある。
公< お前はそのルートを選択したって事だな! 認めんぞ!?
九< な、なにを言っているんだ? ゲームの話だよな?
そして公太は攻略を諦める。
自分にハーレムの素質などないのだと、そんな思わなくてもいいような事を思わされながら。
お読み頂き、ありがとうございます
次話で選択肢の事に触れますが
選択肢が表示されるようになった理由については、明確に語る事はないと思います
きっとこういうご都合主義だろ…って思って頂く程度になると思います




