酒神公と大陰、恋の行方・その九
大変遅くなりました
「二年F組!! 大陰零那さん!! あなたに伝えたい事がありますっ!!!」
ザワザワとする会場に響いた公太の声。一瞬の静寂のち、今までにないほどに盛り上がりを見せる観客たち。
言葉と雰囲気から告白だと察したのだろう。学園でも人気な生徒の色恋沙汰、演奏に向けられた声援などとは比較にならないほどであった。
そんな喧騒の中、公太はマイクを横に退かした。マイクは使わない気のようだが、男の声量ならば問題ないだろう。
公太の緊張感が伝わってくる。それを感じ取ったのか観客も徐々に静かになっていった。こちらまで緊張してきたが、公太の緊張は俺達とは比較にならないほどだろうな。
そして会場がある程度静まりを見せた時、ついに公太がその言葉を発する。
「好きですっ!!! 色々と理由はあるけれども……とにかくあなたの事が好きです!! 俺と、付き合って下さい!!!」
『『『『『おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』』』』』
『『『『『きゃーーーーーーーーーー!!!!』』』』』
ドストレート。色々と理由を連ねるかと思ったが、公太が口にしたのは好きという事だけだった。
他人の告白なんて初めて見たが……俺はどんな告白をしたっけ? なんか流されるまま、言わされた感しか記憶にないが。
しかしこの騒ぎでは告白の返事など聞けるはずもない。こんな中で女性が声を張り上げるのは難しいだろうし。
中々静まりを見せないため、月ちゃんの指示で本来予定にはなかった告白の補助をすることになってしまった。
少々恥ずかしいが仕方がない。ここまで来た、応援すると決めたのだ。
「はいみんな! ちょっと静かに! 何も聞こえないから! 返事を聞きたいでしょ!?」
マイクというチートツールを使い、静かにするように指示を出した。それに伴い、徐々に静まりを見せる観客たち。
みんなの雰囲気から察するに、公太の告白に対する反応は良好と捉えていいのではないだろうか。男子生徒はもちろんだが、女子生徒だってニコニコしている。
大陰さんの周りを四季姫が囲っているんだ。最近は凄く仲良しで、チラチラと最強女子の影も見えるのだ。
ここでちょっかいを掛けようとする人なんて、早々いないでしょ。
「え~と……では大陰さん。公太に、返事をしてあげてくれますか?」
大陰さんの性格的に、こんな中で大きな声を出したり告白の返事をさせるというのは少し酷かもしれない。
マイクを準備しておけばよかったかと軽い後悔が頭を過ったが、ここさえ乗り越えてしまえば大勢に祝福されるカップルが誕生するんだ。
こんな状況下で結ばれた二人を裂こうなんて、文句を言おうなんて馬鹿な事をする奴がいる訳がない。
それにある意味、大陰さんの自信にもつながる筈だ。
「あ、あの……」
消えてしまいそうな小さな声だが、大陰さんは声を出した。
周りが大陰さんに注目しだす。その視線から守るように四季姫が大陰さんに寄り添った。
頑張れ! 彼女の気持ちは知っている。その言葉を紡いでくれたら、後は俺達が一生懸命に祝福するから。
「あ……あのっ! わ、私も酒神くんのこと――――」
しかしまぁ。どこの世界にも、やっぱりそういう人達はいる訳で。
「――――はぁ? なにあの地味な女。全然釣り合ってないじゃん」
「どれどれ~……うわ、ほんとじゃん。ちょっと暗そうだし~」
「あはは、ウケる! ちょっとやめなってぇ。ほらほら、返事する所なんだから」
ワザとなのだろうか。大陰さんの声と同じくらいの声量で、割って入るように発せられた女子生徒の声。
完全に静まり返る会場。ある者は顔を引きつらせ、ある者は邪魔をした者を探そうとキョロキョロしだす。
そしてそれは間違いなく大陰さんにも聞こえた。俯いてしまった彼女に四季姫が寄り添うが、彼女は顔を上げようとはしなかった。
緊急事態である。まさかこんな事になってしまうとは。予想していなかった訳ではないが、こんな雰囲気の中に水を差す者がいるなんて。
どうする? どうすればいい? 公太も固まってしまっており、月ちゃんに顔を向けるも苦い顔をしているだけ。央平は顔に怒と書いてある。
「…………ごめんね」
そう言って、四季姫を振り払い走り去ってしまったのは大陰さんだった。
中央付近にいた彼女は俯いたまま生徒たちをかき分け、会場の出口へと走っていく。それを止められる者は誰もいなかった。
もしかして、今のは告白の返事なのだろうか……? 俺達は、二人の未来を潰してしまったのだろうか?
だとしたら何という事を。急ぐ必要なんてなかったのかもしれない、こんな強引なやり方なんてしない方がよかったのか。
どうすれば、公太になんて言って謝ればいい? どう関係を修復させれば、公太になんて声を掛ければいい?
余計な事をしなければ、別な選択をしていれば、選択を間違わなければ。
どうすれば、なにをすれば、どう選べば、なにを選べば。
こういう時、どうしてたっけ――――
【慰謝】
【発破】
【肝臓】
――――……ああ、見えた気がする。
そうだ。今の俺は脇役、主人公の友人キャラだ! 友人キャラには友人キャラにしかできない役目があるじゃないか!
まだ終わってない! こんな事で終わらせない! ればればレバーって、うるさいんじゃ!
背中を押すどころじゃない。固まって動けないって言うのなら、背中を蹴り上げてやる!
「ボケっとしてんな公太ぁぁぁ!! 好きなんだろ!? 誰になんて言われても、好きなんだろ!? だったら動け!! 追いかけろっ!!」
「く、九郎……」
驚いたような顔を見せる公太。俺も自分で何を言っているのか分からなくなってくるほど顔が熱い。
後先なんて考えてない。公太がこの後、どう行動するかも知ったこっちゃない。その結果どうなるかなんて、分からない。
ただ分かるのは、そんな悲運の主人公みたいな顔をして突っ立ってんじゃねぇって事だけ。
「主人公なら決めて来いっ! 振られるならハッキリと振られて来い! ボーっとしてんじゃねよ!! みんなもそう思うだろっ!?」
『お……おう! そうだぜ酒神! 早く追いかけろよ!!』
『公太くん! 追いかけてあげてぇぇ!!』
『振られたら慰めてやるよ! さっさと行けよ酒神!!』
『いいな~。わたしも追いかけられてみたい……』
観客たちは色々な意味で、すでに一丸となっている。良くも悪くも一丸、誘導するのはそこまで難しくないはずだ。
悪くなりかけた雰囲気は伝染し、彼らの心にも暗い色が生まれたが、そんなのはすぐに掻き消せる。
どんなに暗い色を落とされても、これだけ大勢の明るい色はそう簡単に変わらない。
そんなイレギュラーなんて塗り潰せ! 薄汚い色は飲み込め! そしてもっと主人公を煽れ!
「後の事は任せろ! お前はお前のやるべき事をするんだ! みんな!! まだ発表時間はあるから、まだ終わらないぜっ!!」
『『『『『いえーーーーー!!!!』』』』』
「……九郎、みんなもありがとう!! 俺、行ってくるよ!! 振られたら慰めてくれよ!?」
振られはしないよ、そういう風に決まってんだから。どうせこの後、ニコニコした公太と恥ずかしそうにしている大陰さんが、手を繋いで現れるに決まってる。
覚悟を決めた公太は、大勢の観客たちに発破を掛けられながら体育館から出て行った。
さて、この後だが……このまま終わるもの白けるよな。
一番いいのは告白が成功した事をみんなの前で宣言する事だが、それは時間的にも難しい。
ここまで煽った責任を取らなければ。彼女達には申し訳ないが、協力してもらおう。彼氏が困っているんだ、助けてくれ。
「じゃーまだ時間もあるし、最後の一曲を演奏させてもらいます! でもボーカルが恋に走って行ったので……」
『『『『あはははははは』』』』
「俺達は残念ながら音痴なので……だから協力して下さい! 四季姫!! かもーーん!!!」
「「「「は、はぁ!?!?」」」」
『『『『『いえェェェェェェェェ!!!!』』』』』
「か、彼氏が困ってるんだぞ!? 彼女なら助けなさい!?」
「「「「そ、それなら仕方ないか……」」」」
『『『『『しねェェェェェェェェ!!!!』』』』』
この後、俺は刺されるかもしれない。ここまで堂々と彼氏宣言などした事なかったからな。
俺も公太に触発されたのかもしれない。
「はぁ~い! 北島百桃です」
「あはは、すっごく面白そう」
「報酬は頂けるんですよね?」
「急に呼び出してなんなのよ」
……いや、色姫を呼んだつもりはないんだが。
少し前に発表を終えた彼女達が、舞台袖から俺達の演奏を見ていたのには気づいていたけど。
四季と色。発音は同じだが普通お呼びで無い事はわかりそうなものだが。
「ちょっと先輩? お呼びじゃないですよ?」
「そうなの? だって色姫って言ったよ?」
「相変わらず強引ですね~!?」
「面白ければいいと思わない!?」
「今回は誰のために出しゃばっているのですか?」
「自分のために決まっているじゃないですか」
「呼ばれたのは彼女ですよ? あなたは任木田先輩の彼女でしょう?」
「冗談はやめて。貴方たちのせいで私達もそう見られてるのよ?」
いつの間にか壇上に上がった四季姫と、すでにセンターを陣取っていた色姫。生徒会長戦争以来だが、やっぱり彼女達の相性は良くなさそうだ。
まぁ、会場は馬鹿みたいに盛り上がっているのだが。春夏秋冬、桃青赤白、この八人が同じ舞台に立つのだから盛り上がるのも当然か。
「あの、とりあえずこの場は協力して――――」
「――――なんなんですか!?」
「――――なんなのよ!?」
シキヒメは二つといらぬ!? 水と油なのだろうか……色姫をハーレムに加えるのは不可能そうだ。
しかしまぁ四季と色が共演したのだ。何度も言うが馬鹿みたいに盛り上がったのは言うまでもない。
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