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酒神公と大陰、恋の行方・その八

色々あって、遅くなりました






『続きましては三学年、色姫の四人による発表です!』


 盛り上がりを見せる第一体育館。午前中は人も疎らだったが、人気生徒の発表の時間帯となるとこのように大勢が詰めかける。


 俺達は舞台裏で出番を待っていた。俺達は色姫の発表が終わってから三番目。嫌でも緊張感が高まってきていた。



「三人とも、大丈夫ですか?」


「「「……おう」」」


 緊張とは無縁なのか、いつも通りの月ちゃん。対して男どもは情けないったらありゃしない。


 俺と央平は演奏への不安、公太は告白への不安といったところか。それになんといっても大勢の前での発表というのは、あまり得意ではないし。


 色姫の発表順番が近い影響で、俺達の発表にもそれなりの観客が残っている事が予想される。それでなくても人気生徒の公太と月姫がいるのだから。



「つまり、誰も九郎先輩と真中先輩には興味ないので、緊張する必要はないですよ」

「心を読むな。しかもそれはそれで悲しいな」

「お前にしか興味ない人が四人もいるだろ! 俺なんか本当に誰も興味ないぜ!」


 そんな自信を持っていう事だろうか。確かに大多数の生徒は公太と月ちゃんにしか興味を示さないだろう。


 でも確かに俺にはいるか。なら俺はその四人のために全力を尽くすだけだな。



『二年C組の方~。次の次が出番ですので、準備してください』


「いよいよだな。公太は大丈夫か?」

「ああ、やるだけやってみるよ!」

「まずは演奏を成功させて場を盛り上げないといけません。告白するタイミングは、私が指示を出しますので」

「よっしゃ! 俺達も精一杯楽しもうぜっ!!」

「「「おおぉー!!!」」」


 色姫は見事に会場を沸かせたようで、拍手喝采が鳴りやまない。この次に発表する人は可哀そうだと思いながら、俺達は舞台袖へと移動した。



 ――――

 ――

 ―



『続いての発表は、二年C組と有志によるバンド演奏です』


 いよいよ舞台の幕が上がった。それぞれは指定の位置について演奏の準備を整え終わっている。


 前に立つ公太の挨拶が終わったら演奏開始。俺達が用意した曲は三曲あるが、会場の雰囲気によっては一曲で切り上げて告白に移るらしい。


 そのタイミングは月ちゃんが指示を出し、俺と央平は見守るだけ。後は公太次第だ。



「二年C組酒神、真中、脇谷。一年C組酒神によるバンド演奏です! この日のために練習して来ました! よろしければ最後までお付き合いくださいっ!!」


『『『『きゃーー!! 公太くーーん!!』』』』

『『『『月乃ちゃーん!! こっち向いてくれーー!!』』』』


 会場は幕が上がったと同時に大盛り上がり。男子生徒より女子生徒の方が多いような気もする。


 見事に公太と月ちゃんのファンしかいないようだ。もう二人でやれば良かったんじゃないかと思ってきた。


 薄暗くなっている会場に目を凝らすと、事前の打ち合わせ通り中央付近に四季姫と大陰の姿が確認できた。四人はちゃんと大陰さんの事を連れて来てくれたようだ。


「九郎ーー! しっかりね~!!」

「「「…………」」」


 大声で声援を送ってくれたのは、やはりというか夏菜だった。他の四人は声は出さないものの笑顔だ。


 俺は何も考えず、この四人だけのために頑張ればいいのだ。ギター演奏で彼女達に何を届ければいいのか分からないが、そう考えると随分と緊張が和らいだ。


「それでは一曲目! 聞いて下さい!」


 公太の挨拶が終わり、月ちゃんがリズムを取り始め一曲目が始まった――――



 ――――

 ――

 ―



 特に大きなミスもなく、一曲目が終了。


 会場の盛り上がりは悪くない。ここまで大きな声援を送られると、なんとも言えない高揚感に包み込まれる。


 こんなに多くの声援を贈られ、こんなにたくさんの目が向けられた経験はない。


 その多くは公太の歌声と、月ちゃんの迫力のあるドラム演奏に向けられた物であるとは思うが。


 そうだとしても楽しいものだ。初めはあまり乗り気ではなかったが、やって良かったと心から思える事ができる。


 ……もういいんじゃないか? この盛り上がりなら問題ないように思えるが……しかし監督からの指示はなく、それを受け取った公太が二曲目の口上を行い始める。


 これ以上に盛り上げる事が出来るのかという不安を抱きつつ、二曲目が始まった。



 ――――

 ――

 ―



 二曲目が終了。


 盛り上がりは……正直、俺には一曲目と大差がないように感じる。


 チラッと月ちゃんの様子を窺ってみると、若干ではあるが険しい顔をしているではないか。あの表情から察するに、足りないという事なのだろうか?


 三曲目はもっと盛り上がるのかもしれないが、盛下がる可能性だってある。そんな微妙な雰囲気な状態での告白は避けたい所。


 月ちゃんが言っていたのは、盛り上がりより一体感。盛り上がってはいても、一体感がないという事なのだろうか?


 そんな風に考えていた時、なんと月ちゃんから合図が入った。


 正直ゴーサインを出したのは以外ではあったが、それは告白実行のサインではなかった。


 プランB。会場の勢い其のままに告白するプランAとは違い、会場に来ている協力者の力も借りてひと演技する作戦。


 しかしプランBは失敗すればお終いだと月ちゃんは言っていた。三曲目を演奏する事も、告白する事もなく発表を終える事になる。


 嫌な緊張感が走る中、公太が口を開く。



「聞いてくれて、ありがとうございました! 実は三曲用意していたんですけど、なんとか形に出来たのはこの二曲になります!」


 公太はそういうが、一応三曲ともそれなりになった状態で臨んでいたし、発表時間もまだ十分にあった。


「せっかくみんな盛り上げてくれたので、この最高潮の状態で引き揚げようと思います! ありがとうございましたっ!!」


 三曲用意してあったと聞かされて、まだ時間もあるとなれば。拙い演奏でもいい、もっと聞きたいと思ってくれる人がいれば。


 アーティストのライブなんかでは、アレが起こるはずなんだ。


 ――――ザワザワ……ザワザワ……――――


 しかし会場はザワつくだけで、そう言った声は上がらない。それは仕方のない事、俺達は素人なんだから。


 だからこその協力者。さらにその協力者が学園でもそれなりに有名人となれば――――



「――――アンコール!!」


 ザワザワガヤガヤする中に通った高い声。夏菜の声だ。


 夏菜の声は会場に響き、一瞬でも場を静寂にさせる。


 その静寂の中に割り込むように、他の者達も声を上げ始める。


「「「アンコール! アンコール!」」」

「せっかく用意したなら三曲目も聞かせろ~!!」


 多少恥ずかしそうにしつつも、春香とアキ、あのトーリまでもが大声でアンコールを叫び始める。


 あの四季姫がアンコールを口にした。それに呼応するかのように、他の生徒も徐々にアンコールを口にし出す。


『『『『アンコール! アンコール!! アンコール!!!』』』』

『『『『公太きゅ~ん!! あんこーるぅぅぅ!!』』』』


 これが月ちゃんが言っていた一体感なのだろうか? 盛り上がっているのかどうかは分からないが、物凄い声量が体育館に響き渡った。


 そんな中に響く甲高いシンバルの音。これが一応、告白の合図となっていた。


 俺達は公太より後ろにいるので表情は読み取れない。シンバルの音は間違いなく公太にも聞こえたはずだが。


 よく見ると、肩が震えている様にも見える。何事も完璧にこなし、緊張などとは無縁なのだと思っていたけど、そんな訳ないよな。


 この大舞台で、そんな訳ないよな。


 なら俺は、友人として背中を押さなきゃ。俺だって押されたんだから。



「おら公太、一発かまして来いよ。骨は拾ってやる」

「気軽にいけよ気軽に! 別に終わりって訳じゃねぇんだからさ」


「……うん。ありがとう、二人とも」


 公太は振り返らなかった。その言葉をどんな表情で、どんな気持ちで言ったのかは分からない。


 でも公太の震えは止まっていた。


 そんな彼は堂々と生徒の前に立ちマイクを握ると、会場の歓声にも負けないほどの大きな声を上げるのだった。



「みんな、ありがとう!! 酷い歌声、演奏になるかもしれないけど、三曲目も聞いてもらいたいっ!!」


『『『『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!』』』』


「でもその前にっ!! 個人的な事で申し訳ないんだけど!! ある人に伝えたい事がありますっ!!」


『『『『お……おお? うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?』』』』

『『『『きゃーー!? なになに!?!?』』』』



 さぁぶちかませ酒神公太! 物語の主人公様よ!!



「二年F組!! 大陰零那さん!! あなたに伝えたい事がありますっ!!!!」


お読み頂き、ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 待ってたーよ。 ついに告るんだね。ニヤニヤする。
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