酒神公と大陰、恋の行方・その六
「おおっ! 今のはいい感じだったんじゃないか!?」
「そうか? お前、何回か間違っただろ。完璧なのは公太だけじゃね?」
「俺も、まだ息継ぎのタイミングが……」
とあるスタジオにて練習の真っ最中。こういうスタジオって高額なイメージがあったけど、意外にリーズナブルだった。
楽器は軽音楽部から借りているし、料金は四季姫や陽月姫も負担してくれているので問題なかった。
「ちなみに完璧だったのは私だけです。他のみなさんはまだまだですよ」
「「「…………」」」
ボーカルの公太、ギターの俺、ベースの央平。そして監督兼ドラムの月乃。
あんな小さな体で、なぜあれだけ力強くドラムを叩けるのか不思議でしょうがない。というか普通にカッコいい、俺もドラムがやりたくなってきた。
「そうかな? あたしは良かったと思うけど……」
「最初の頃に比べたら、随分よくなったよね!」
「たまに音を外すのは愛嬌ではないでしょうか」
「まぁ月乃と酒神君でなんとかなっている感があるけどね」
本日のお客様は四季姫。陽乃姉さんは生徒会で忙しいらしく不参加だ。
当日はこの四人でバンド演奏し、四季姫には大陰さんと一緒に演奏を見に来てもらう手筈となっている。
あとは演奏後、いよいよ公開告白となる訳だが。
「あと二週間……」
「なんとか形にはなってきたよな」
「とりあえず公太が良く見えればいい訳だろ? なら大丈夫じゃね?」
なんでもそつなくこなす公太は、当たり前のようにいい声を出していた。カラオケとは違い演奏が俺達の微妙なものでも、問題ないとばかりの美声だった。
月ちゃんも問題ないし、後は俺と央平がそれなりに出来るようになれば。
「はい九郎くん。お水にタオル」
「ありがと、春香」
「汗、いつもみたいに拭いてあげようか?」
「お~頼むわ」
「いつもみたいにってどういう事よ?」
「確か春香ちゃんとクーちゃん、空手をやってるって聞いたような」
「春香が空手!? 嘘でしょ? 想像できないんだけど……」
まあ春香は、道場には来ているがほとんど俺のマネージャーみたいになっていて、空手をしているという感じではないのだが。
しかし、空手着春香は可愛かったな。戦闘力が倍増していた。
「あ~あ。公太にも彼女が出来たら、イチャイチャすんだろうな……」
「い、いや。あの人たちみたいに出来るわけないよ」
「大陰先輩って、またタイプが違いますしね。敵もいない訳ですから、のんびり愛を育むのではないですか?」
同じく休憩をする三人の会話が聞こえてきたが、俺達ってそんなにイチャイチャしているだろうか?
よく恋愛ゲームや小説では、付き合いたてのカップルなんかはずっとイチャイチャしているけど……あれ、普通に考えたらありえなくね?
どんなに好きでも、四六時中そんな雰囲気を出すだろうか? そういう描写はありふれているけど、いまいち現実感がないというか。
なにを言いたいかっていうと、俺達ってそこまでじゃなくないか? という事。
「そんな言われるほどイチャついてないだろ」
「「……本気で言ってんの?」」
いや、普通に本気なんだが。こいつら、恋愛ゲームや恋愛小説を読んだ事ないのだろうか? あまあまなんだぞ。
そりゃプレイヤーや読み手としてはその方がいいのかもしれないが、ああいうのに比べたら俺達なんて可愛いもんだろ。人数が少し多いだけで。
もしかしてゲームとか小説って、イチャ場面だけを切り取っているのか?
「クーちゃん。紅茶も飲みませんか?」
「ああ、もらうよ」
「じゃこれも飲んで。カフェオレ」
「いただきます」
「はいっ! 炭酸、好きだよね」
「ありがとう」
「「「……間接キス」」」」
そう呟くと三人は、俺から回収したペットボトルに口を付ける。なぜだろう? なぜかもの凄くエロい。
しかし間接キスくらいで……俺達はもっとすごい事を……してない?
あれ? 俺達ってまだ、してない? なんてこった。どうやら俺の文化祭でのメインイベントは決まったようだな。
「く、九郎くん! それ返してっ!」
「えっ!? お、おう」
先ほど春香に渡された水、返せと言うので差し出すともの凄い勢いで分捕られた。
勢い其のままに春香は、俺が口を付けたペットボトルに躊躇なく口を付け水を飲む。
「お、おいしいね。このお水」
「そ、そうか? 普通だと思うけど」
「はいっ! もう一回飲んで!」
「え……もう喉かわいていな――――」
「――――いいから飲んで! 今ならまだ新鮮だから!」
なにが新鮮なの? どこかヤバイ気配と目をした春香に気圧され、タプタプしだした腹に再び水を流し込んだ。
なんだろう……どことなく……。
「……甘い?」
「あ、甘い!? え……なんだろう? えっち……」
「なんで!?」
急に頬を染める春香の様子に驚いていると、異様な雰囲気を纏った三人が飲み物を突き出してきた。
だがもうお腹一杯。今日はもう何も飲みたくない。
しかし圧倒され仕方なしに受け取る事に。やっぱりなんか、心なしか……みんなのも甘い。
「あれでイチャついてないって言ってんだぜ」
「せんぱ~い! 私の甘いジュースも飲んでください」
「月乃! なんかその言い方いやだからやめて!?」
文化祭、そしてバンド演奏発表、酒神公太の告白まで、あと少し。
――――
――――
「なぁ、俺達ってさ」
「「「「うん?」」」」
「そんな言われるほどイチャついてないよな?」
「「「「うん」」」」
「だよな? イチャつくってこう……一日中ベタベタしてたりとか、四六時中愛の言葉を囁いたりとか」
「「「「う~ん」」」」
「ちょっと普通の人より仲が良いだけ……みたいな?」
「「「「うん!?」」」」
「え!? あ、いや、そうじゃなくて……! えっと……イチャつく?」
「「「「うん!」」」」
「よし! じゃあ、えっと……好きだよ、みんな」
「あたしも、好き♡」
「ウチも、大好き♡」
「愛していますよ♡」
「私だって、好き♡」
「……えぇと……好きだよ……?」
「え……うん。あたしも……♡」
「う、うん! 分かってるよ♡」
「きっと私の方が好きですよ♡」
「恥ずかしいけれど……好き♡」
「…………好きです」
「「「「…………ん♡」」」」
「…………好き」
「「「「んふふ♡♡♡♡」」」」
「……なぁ、なにあれ?」
「恐らく、イチャつき方が分からないのでしょう」
「周りが見えなくなっている時点で……」
「月乃ちゃんは参加しないのか?」
「今は危険ですね。割って入ったら、本気で先輩方に怒られます」
「というか入らなくていいから……」
「……イチャつくって難しいな」
「「「「そうだね♡」」」」
「もっと、頑張るか」
「「「「うん♡」」」」
「「マジで? これ以上? 勘弁してくれ……」」
「恋は盲目ですね~。ではそろそろ私も……♡」
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