酒神公と大陰、恋の行方・その五
「は~い静かにっ! それじゃクラスの出し物を決めるよ~」
学級副委員長である夏菜の声で、騒がしかったクラスが静まりを見せる。
季節は秋。秋にあるメインイベントは球技大会と文化祭。球技大会は先日終わり、残すイベントは文化祭。
今日は文化祭に向け、クラスでなんの出し物を行うかの学級会議を行っていた。
「とりあえず候補を上げてもらえる? 九郎は書いてちょうだい」
「へい」
どう見ても俺が副委員長だが。イベント事にメインを張るのは夏菜ばかりで、俺は下手をすればただの置物だ。
つまりあれだろ? 何かあった時に責任を取る奴。なにも起こらない事を祈るばかりだ。
「ん~……喫茶、演劇、お化け屋敷……ド定番だね」
「というか二年は露店もあるだろ? 校門から校舎までの道に出すやつ」
「露店はやっぱり飲食だよね! そっちの人員を考えると……」
「大掛かりな出し物は厳しいよな~……荒先はなんか意見ないっすか~」
「文化祭は生徒主導! 私は見守り、何かあった時に責任を取るだけだ」
なにかあった時に責任を取る奴はここにいたか。となるといよいよ俺には何もなくなってしまった。
仕方ない。着ぐるみでも被ってプラカードでも持つとするか。
――――
――
―
露店で出す飲食物は決まったが、クラス発表の方は中々決まらなかった。
各々やりたい事がバラバラで、多数決をとっても不満が残ってしまうであろう事から行われなかったのである。
そこに鶴の一声を投じたのが担任の荒木先生。文化祭は三日間行われるため、やりたい事を三回に分ければいいという事だった。
その分、準備は大変になるだろうが。その案にクラスの全員が賛同したのだった。
そして現在は放課後。生徒会室にて――――
「……マジでやるの?」
「ご、ごめんね九郎。巻き込んじゃって……」
「いや、公太が悪い訳じゃないんだけど……」
クラス発表とは別に、第一体育館か第二体育館を使用して、個人が発表を行う事ができる。
その個人発表に、俺と公太と央平が参加する事になりそうだった。
「いい機会なのです。大陰さんが四季姫グループの一員であるとの認識が、定着しつつあります。後ろ盾があるのですから……いよいよクライマックスです」
あのデート以降も、親睦を深めていた大陰さんと四季姫。学園内でも一緒にいる事が増え、誰が見ても友達である状態になっていた。
その四季姫の近くにいる俺。俺の近くにいる公太。
友達の彼氏の友達という、微妙に遠そうな関係ではあるが、公太と大陰さんは学園でも俺達の近くにいる事が増え、会話も普通にしていた。
もともとサッカー部員とマネージャーという関係性もあり、楽しそうに会話をし始めるまでさほど時間は掛からなかった。
「この文化祭で――――告白してしまいましょう。兄さん」
そしてブレインが提案する最終作戦。文化祭個人発表の場を使い、大勢の生徒の前で告白しようというのだ。
大勢の前で行う事で、四季姫以外にも味方を付ける事ができる。衆目が認知すれば、ちょっかいを出そうと考える者もいなくなるだろう。
そもそも、妬みの目というのは俺達が勝手に想像しているだけで、そんな事はないのかもしれないし。
「……でもなんでバンド演奏? 俺、楽器なんて触った事もないんだけど」
「俺もねぇよ。ピアニカとリコーダーくらいだ」
「ピアノならあるけど……」
ピアノって、いいとこのお坊ちゃまかよ? 大体、本当にやるならお前はボーカルだろうが。
「人数の関係もありますが、兄さんを一番目立たせなくてはいけませんので。バンド演奏がピッタリです」
「文化祭まで一か月しかないぞ? 無理だろ」
「最悪、エアーでもいいです。音楽を流せばいいので」
公太のためになるなら構わない。公太が望むなら力を貸すが、肝心の公太が迷っている様子。
気後れしているのだろうか? 俺だったら嫌だ。どこの物語の主人公様だよ……現実にやるのには相当な勇気が必要だ。
「……そんな大勢の前で告白したら、大陰さんがビックリするんじゃ……」
「そっちかよ。主人公はやっぱりスゲーな」
自分の心配ではなく相手の心配をしていたようだ。
公太の言う通り、いくら後ろ盾ができても大陰さん自身がどうなのか。そもそも大前提として、公太の事が好きなのだろうか?
後でみんなに聞いてみよう。女性同士ならそういう話もしてそうだし。
そんなこんながあり、俺達は文化祭の準備とバンド演奏の練習の日々が始まるのだった。
――――
――――
「へぇ~。C組は2つもやるんだ」
「うん。中々意見が纏まらなくてね、一日目と三日目に。二日目はお休み」
「D組はなにをやるんですか?」
「うちは三日ともクラス展示をして休憩室解放。露店の方に力をいれるんだって」
「露店は収益が見込めるからなぁ。トーリのクラスは?」
「……メイド喫茶」
「え、マジ? トーリ……メイドになるのか?」
「そう決まったのだもの、仕方ないわ」
「いいな~メイドさん。ウチも着てみたい」
「出来るものなら代わってほしいわよ」
「あたしも着てみたい……というか見てもらいたいな」
「そうですよね。男子ってそういうの好きって聞きますし」
「……なるほど。いいクロー? 必ず見に来るのよ?」
「おお行く行く! トーリなら人気が出るんじゃないか?」
「「「……ずるい」」」
「仕方ないわ、そう決まったのだもの」
「みんなのメイド姿も見てみたいな。きっと可愛いぞ」
「「「「…………」」」」
「……お、お帰りなさいましぇっ、ご主人様っ」
「春香はドジっ子メイドだな。新人って感じだ」
「お帰りなさ~い! ご主人様っ!!」
「夏菜は元気メイドだ。一人前って感じ」
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「アキは……エロメイドか? ベテラン臭がする」
「お帰りなさい、ご主人様」
「トーリはクールメイド。メイド長だな」
「す、すみませんご主人様……また花瓶を割ってしまいました……」
「まったくこの子は……お仕置きだ。後で私の部屋に来なさい」
「はい……服を脱いで参ります……」
「いや、服は着て参りなさい」
「ご主人様~! お風呂の準備が出来てますよぉ~!」
「ありがとう。ではさっそく……」
「いつも通りお背中をお流ししますねっ! タオルを使わないで」
「いや、タオルは使いなさい」
「ご主人様。今晩は私が夜伽をさせて頂きます」
「ドストレート!? そんなサービスが!?」
「いつでもどこでも、私はオッケーですよ」
「いや、時と場所は選びなさい」
「ご主人様。食事の準備が整いました」
「流石はメイド長! 安定感が……」
「食後のデザートは私で宜しいですか?」
「いや、フルーツがいいです」
「きっとこんな感じになるよね」
「というか基本、みんなエロくない?」
「エロはエロメイドの私が引き受けます」
「メイド長権限よ。あなた達は引っ込んでなさい」
「……なぁお前ら。俺達がいる事を忘れてないか?」
「……さすが、バカップルだね」
「はわわ……みんな、凄いですね……」
「私の事を忘れていませんか? 私は何メイドですか?」
「えっと、月ちゃんは……なんか裏切りそう。潜入メイドみたいな……」
「なるほど。しかしそういうのは大概、最終的には味方になりますよ」
「いや、君は最後まで敵っぽい」
「一応聞いておくわ。アタシは?」
「戦闘メイド。スカートの下に重火器を仕込んでそう」
「まぁ一人くらいは、そういうメイドが必要よね」
「いや、貴女の場合メイドじゃなく冥土でしょ」
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