酒神公と大陰、恋の行方・その四
「こ、これなんか大陰さんに似合うんじゃないかな……?」
「そ、そうですか? ちょっと派手な気も……」
「そ、そうかな? 似合うと……思うんだけど」
「……酒神君がそういうなら、試着してみます」
すぐ近くで繰り広げられているラブコメ。主人公とヒロインの、ショッピングデートと言う訳だが。
しかし公太の挙動がおかしい。完全無欠の主人公も、色恋沙汰ではああいう感じになってしまうのか。
週末の今日、俺達は隣町に買い物に来ていた。メンバーは俺と公太、それに央平。いつも通りのメンバーで、そこに女性陣の姿はなかった。
公太と大陰さんをデートさせようという案が上がったのだが、直接誘ってもダメであろうと言う事から、偶然を装い現地に集合したのだ。
大陰さんの事は四季姫が誘い出した。もちろん公太には話しているため、心の準備をする余裕はあったはずなのだが……大陰さんの方が落ち着いている気がする。
「こ、これもいいんじゃないっ!?」
「これはちょっと……」
「そ、そう? いいと思うんだけど……」
「……これ半袖ですよ? これから寒くなるのに……」
どうしたの公太君!? いつもの君らしくない。あのセンスのいい酒神公太はどこに行ったんだ!? 俺でもそのチョイスが微妙なのが分かる。
隣で様子を見ている央平も驚いている様子。このままでは、デートは失敗してしまうのではないか!?
「な、なぁ? あの二人……大丈夫なのか?」
「ん~? 大丈夫だと思うよ? それより九郎! これとかどうかな?」
「クローには黒の方が似合うわ。こっちの方がいいわよ」
「そうかな~? こういう赤系も似合うと思うんだけど」
「クーちゃんクーちゃん! これ、ペアルックです!」
後は知らね……とでも言うかのように、彼女達は大陰さんを放っている。下手に構うより公太に任せた方がいいという判断なのかもしれないが。
まあこういうのに口は出さない方がいいな。もしかすると公太には選択肢が表示されているのかもしれないし。
それなら俺も自分のデートを満喫しようか。何が楽しいのか、さっきから俺を着せ替え人形扱いして騒いでいる彼女達に意識を向ける。
「ねっ! 連れてっちゃおうよ!」
「本気なの? まぁ……クローならいいけど」
「少し恥ずかしいけど……選んで欲しいかも」
「好みがありますもんね。いつか見せる事になるのですし」
そんな彼女達、いつの間にか着せ替えごっこは飽きたのか、今はお話に夢中のようだ。
俺はどうしようか? 正直、服を買うお金が心もとない。アキの家でのバイトは、職場環境に全振りしているから、そこまで収入は多くないのだ。
「行くわよ、クロー」
「は? ど、どこに行くんだよ?」
「いいからいいから! 行くよ」
トーリに手を引かれ、背中を夏菜に押される。
「真中くん、九郎くんは借りていくね」
「大陰さん達の事は、お願いしますね」
「え……? お、おう」
春香とアキが根回しをし、そのまま売り場を後にした。
――――
――
―
「これとか……似合うかな?」
「いい感じですね」
「この生地は? ツルツルだよ」
「いい生地ですね」
「これは? 派手かしら?」
「いい塩梅ですね」
「この色、私にどうですか?」
「いい色合いですね」
俺はなぜこんな場所に連れてこられた? からかっているのか? 俺が恥ずかしがる様子を見て、楽しもうとでもしたのか?
彼女達は恥ずかしくないのか? 分からない……普通こういうのは、女性の方が恥ずかしがるものじゃないのか?
それに周りの人だって、俺という異物にいてほしくないだろう。男子禁制ではないようだが、それほどデリケートな売り場だと思うのだが。
「さっきからそればっかりじゃん!」
「そんなこと言われても分からん!」
「九郎くんが好きなのを選べばいいんだよ」
「そう言われても、直視しづらいんだっ!」
「好みくらいあるでしょ? やっぱり紐?」
「紐……!? 別に紐が好きな訳では……」
「じゃあこれとかどうですか? Tですよ」
「ティー!? アキが……アキティー!?」
もう分かるだろう、俺のいる場所が。
人生で初めて足を踏み入れた、秘密の花園。というか、踏み入れる事は生涯ないのだと思っていた。
いくら彼女がいたとしても、この場所には入れない。しかしよくよく周りをみると、チラホラとカップルの姿があった。
彼女のを選んでいるのか? それが普通なのか!? 我が彼女達の様子も、そこまで恥ずかしがっている様子はなかった。
履いているのを見られるのは嫌がるのに、なぜこれはオッケーなんだ?
「も~。じゃあせめて色だけでも選んでよ」
「それいいね! デザインはお楽しみって事で!」
「別にデザインも選んでいいんですよ?」
「あまり変なのじゃなきゃ、なんでもいいわよ」
羞恥心を持たない彼女達。その手に持っている布……それを身につけている所を想像してしまっていいのか?
何はともあれ、選ばなければこの場所から出る事はできないようだ。他の女性客の目も心なしか厳しいし、パパっと選んでしまうか。
(いやしかし……パパっとと言っても、これは……)
何てカラフル、なんてデザイン性。男の物とは天と地ほど違う。
なかなか手に取る事などない、それどころか見る事すらない布が……目の前に沢山!?
「じゃ~あたしから選んでもらおうかな~」
「まずは春香か……」
なんとなく、ピンクをイメージしてしまった。淡い色が似合いそうな気がするが……想像すると色々と危険だな。
イメージはピンクだけど、それでは面白くないだろうか? 敢えて、あまり選びそうにない色を選ぶのも面白いかもしれない。
「……黒、とか?」
「く、黒……? 黒を穿かせたいの?」
「い、いや。穿かせたいとかではなくて……」
持っていなさそうだから。春香の反応を見るに、そうそう選ぶ色ではなさそうだ。
この調子で、意外性だけを狙えば乗り切れるか!?
「次はウチだね。何色にする?」
「夏菜は……う~む……」
元気娘で明るい夏菜のイメージは……爽やか系の色だろうか? 青とか黄とか。
となれば深い色……黒か? いやでも春香と被ってしまう。黒以外の深い色……。
「む、紫?」
「紫!? え~と……ワインレッドってこと?」
「う、うむ? ワインレッド……?」
見せられた色は、俺の想像した紫とは違うが……少しでも明るい色に誘導されたか。
まぁどちらにしろ、あの驚きようでは初の色なのではないだろうか。
「私の番ですね。穿いて欲しい色は何ですか?」
「アキは、そうだな~……」
この子は本当になんでも履きそう。あるのか知らないけどスケルトンでも躊躇なく履きそう。
夏菜とは逆に深い色や濃い色のイメージ。なら薄い色、薄いといえば……やはりスケルトンか?
「スケルトンか限りなく白に近い赤」
「スケルトン生地ってあるんですか? ピンクって事ですかね」
「そうだね、薄いピンクとか」
流石のアキもスケルトンはダメか。これもなんとなくだけど、アキって白とかピンクのイメージがないんだよな。
普段の言動からだと思うが。冗談のスケルトンにも動じてないし、本当にどんなデザインでも色でも穿いてくれそう。
「最後は私ね。変な色はいやよ?」
「トーリはなんでも似合いそうだな……」
トーリのイメージは白とか黒とか。ピンクとかそういうのは穿かなそう。
でも何色でも似合いそう。そのスタイルに雰囲気、モデルの様に着こなし……穿きこなしてみせるのだろう。
「難しい……ピンク……緑……ん? こ、これだっ!」
「は……なによこれ? 水玉……? こ、こんな子供っぽいの!?」
「ああ、それを穿いてほしい」
唯一取り乱してくれたトーリ。嫌ならいいと伝えるも、最終的には水玉を選んでくれたようだ。
あのトーリが子供っぽい……妄想が捗るな。
その後はおのおの気に入ったデザインのものを選び、購入したようだ。
やっと楽園から解放された俺は、つまらなそうに服を見ている央平と合流し、公太たちの様子を聞いた。
央平のイラつき具合を見るに、どうやら公太は上手くやったようだ。このままいけば、すんなり付き合ってしまうのではないだろうか?
――――
――
―
「デートはどうだったんだ? 公太」
「と、とりあえず、問題はなかったと……思うんだけどね」
「俺が見てた感じも、大陰さんは楽しそうにしてたぞ」
「そ、そっか! それなら良かったけど」
「楽しそうに服なんか選んじゃってよ……カップルにしか見えなかったぜ」
「公太も服を選んでいたのか……」
「公太も……? そいうや九郎。お前はどこで何をしてたんだよ?」
「いや、俺も彼女の……選んでいただけだ」
「九郎も服を? 凄いね、四人のを選ぶのは大変そうだ」
「ああ、大変だったよ。恥ずかしくて」
「恥ずかしいって……公太のようにセンスがない事が恥ずかしいって?」
「でも本当、女性の服を選ぶのは難しいよね」
「俺が選んだのは色だけだ」
「なんだよ。それなら誰にでも出来るじゃねぇかよ」
「いやいや、色を選ぶのも結構難しいよ?」
「色だけでデザインは彼女任せだろ? 簡単じゃん」
「簡単じゃねぇよ……着だぞ」
「え……九郎、いまなんて?」
「だから、下……だ」
「……大人だね」
「……公太の服選びなんか目じゃねぇな」
「お前達もいつか行く事になるさ。地獄の楽園にな」
「「すげーな、お前」」
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