酒神公と大陰、恋の行方・その三
とある日の昼休み。夏菜が大陰さんを昼食に誘い、そこに春香達を含めた五人は学食に来ていた。
簡単な自己紹介のち、みんなでお昼を取った後で色々と会話をしているようだが……大陰さんが進んで話しかけているのは夏菜だけであった。
それも仕方のない事だろう。夏菜のような性格の子ならまだしも、急に友達に友達を紹介されては面をくらってしまう。
「零那は休みの日は、何をしてるの?」
「えっと……部活がない日は、本を読んだりしてるよ」
大陰零那。趣味は読書と。そんな文学少女が、なぜサッカー部のマネージャーをしているのだろう?
公太に聞いた話によると、大陰さんは去年の夏休み明け頃からマネージャーになったらしいが。
「どんなジャンル? やっぱり恋愛とか?」
「色々……かな。最近はミステリーが多いかも。これとか」
横目で確認すると、大陰さんは鞄から一冊の本を取り出していた。相変わらず人懐っこい笑顔を見せる夏菜に、その本を手渡す。
大陰さんは口数が多くない人だと聞いていたのだが、夏菜と会話しているとそんな感じは受けなかった。
「あ、これあたしも持ってるよ。この作者さん、好きなんだよね」
「ほ、ほんとですか……? えと、蓮海さん」
「春香でいいよ。あたしも零那さんって呼んでもいいかな?」
「は、はい。じゃあ……春香さん」
同じ本好きという事で、会話を広げる春香。大陰さんの性格上、なかなか難しいと思われたが、やはり共通の趣味というのは大きいのだな。
アキとトーリは積極的に会話に加わらないものの、所々に相槌を入れたりしてる。
「あの子がサッカー部のマネージャーって、意外じゃねぇか?」
「まぁ正直な。でも女子ってサッカー好きだろ? 春香もサッカー部のマネージャーに興味があったらしいし」
俺と央平は隣のテーブルに着き、彼女達とは無関係ですという雰囲気を出していた。向こうの会話には参加せず、聞き耳を立てながら下らない話をしていた。
ちなみに公太はいない。いたら目立つし、なによりお互いに意識してしまうだろうからな。
「ほんで? 四季姫と大陰さんが仲良くなったとして、その後は?」
「月ちゃんの話だと、色々と遊びに出かけたりして……色々と写真を撮って……SNSに公開……とか言っていたな」
「なにそれ? 仲良しアピールって事か?」
「知らね。あの子の…というか女子の考えはよく分からん」
我がグループのブレインである酒神月乃。その指示に従う先輩四人。そして最終兵器である酒神陽乃。
依頼者の酒神公太。ターゲットの大陰零那。その他脇役の俺。傍観者の央平。
作戦としては単純で、大陰さんが四季姫たちと友達になり、みんな仲良く色々な事をやっているという噂が広がれば、大陰さんもグループの一員として見られる事になるという。
そんな理由で友達になるってどうなんだ? 初めはそう思って乗り気ではなかったのだが、彼女達の様子を見ていてそれは吹き飛んだ。
「零那ちゃん、たまにうちにパンを買いに来てくれますよね」
「パン……ですか? もしかして、bakery AIOの……?」
「そうです。あの店、うちの両親がやっているんですよ」
「そ、そうだったんですか。あそこのパン、好きなので」
友達になろうとした切っ掛けとしては、あまり良いとは言えなのかもしれないが……彼女達の笑顔や雰囲気を見ていると、関係ないのかもしれない。
切っ掛けは切っ掛けだ。どんな切っ掛けであれ、彼女達が友達となり、これからもずっと仲良くしていきたいと思えれば、それでいいのではないだろうか。
「あの、冬凛さん。そのアクセサリー……麻雀牌ですよね?」
「ええ、そうよ。もしかして零那、麻雀に興味があるの?」
「以前読んだ小説に、麻雀牌を使ったダイイングメッセージが出て来たんです。大三元でした」
「どんなメッセージよ。私もその小説に興味が出て来たわ」
笑い声が響き、雰囲気はとてもいい。そして徐にスマホを取り出したと思ったら、番号を交換し始めたようだ。
公太が喉から手が出るほど欲しいであろう番号が、こんな簡単に。てっきり知っていると思ったんだが、なんと番号すら知らないらしい。
まずは番号交換ですね、公太君。私、自慢じゃないですけど、彼女達の番号は出会って間もなく交換しましたよ。
「ねぇ! 今度みんなで遊びに行こうよっ!」
「賛成です。せっかく仲良くなったのですから」
「そういえば、そろそろ冬物の服が欲しいわ」
「じゃ~ショッピングだね。零那さんも行くよね?」
「あ、はい。その……部活がない日であれば、行きたいです」
出会って即座にデートの約束か。なんてコミュ力の高い奴らだ。
とりあえず、大陰さんの事は彼女達に任せれば問題なさそうだな。
「あの……みなさんに聞きたい事があるのですけど」
そしてそろそろ昼休みも終わろうとしている頃、大陰さんが口を開いた。
俺達も引き上げようとしていたのだが、どこか真剣な大陰さんの声を聞き留まった。
「みなさん、その……か、彼氏がいますよね?」
「「「「うん」」」」
「お、同じ人が彼氏って聞いたのですが……」
「「「「そうだよ」」」」
「ほ、本当なんですね。その……どうして……」
「「「「どうしてって、好きだから」」」」
「好きだから……ですか。でも……その……四股……」
「「「「五股だね」」」」
「ごっ……その……周りの目は、気にならないのですか?」
「「「「気にならないほどに好きだから」」」」
「…………」
……引き上げれば良かった。めっちゃ嬉しいけど、めっちゃ恥ずかしい。こんな人が多い中で、よく恥ずかしげもなく言えるものだ。
俺に聞こえるように言っているのか、ハッキリと聞こえた。しかしそれならば、ちゃんと反応しなければ。
九< 俺もみんなが好きだZE!
メッセージを送信。さあ引上げよう。恥ずかしいし時間もないし。
「「「「(にまぁ~)」」」」
「ど、どうしました? 急にニヤついて」
喜んでくれたのなら良かった。でも急にニヤついたら不気味だぞ。
「好きになったらね、何も気にならなくなっちゃった」
「周りなんて気にしないよ! そんな事より一緒にいたいもん」
「誰にどう思われようが、関係ないですよ」
「まぁ、みんなが一緒って言うのも大きいけどね」
「そうなんですか……みんな凄いですね。私は……」
だから恥ずかしい。普通こういうのは女性が照れるもので、男側が照れるのは誰も望んでいないだろ!?
流石は強姫。俺は……あとでメッセージを送っておこう。
「……九郎。あとで校舎裏に来い」
「な、なんだよ急に――――」
「――――あの……その彼氏さんって、隣の席のあの方ですよね?」
なんと大陰さん、気づいてらっしゃった。そりゃこんだけ近ければ気づくか……央平の声もデカいし。
なんか急に恥ずかしくなってしまった俺は、央平を置いてそそくさと学食を後にした。
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