酒神公と大陰、恋の行方・その二
「はいクロー。あ~ん」
「あ~ん……」
隣に陣取ったトーリからケーキを一口。人の目など気にしていないのか、恥ずかしがっている素振りなど微塵も見えない。
向かい側に座る央平の目は、まるで呪いでも掛けられそうなほどに仄暗い。
そんな呪いの瞳を向けられているというのに、特に何も感じなくなってきている自分がいる。自分の彼女とイチャイチャして、なにが悪いんだっての。
「……時と場所を考えてよ。というかさ、二人とも恥ずかしくないの?」
央平はともかく、良識人である公太に言われると若干刺さるが。やはり、傍から見たら恥ずかしい事なのか。
今まで止めるどころか、逆に乱入してくる人しかいなかったからな。よくよく考えれば、人目を憚らずイチャつくカップルを見て俺もイラついていた記憶がある。
「別に。こんな事をしているカップルなんて沢山いるじゃない」
「……それより冬凛さん。そろそろ場所代わってよ」
「そうです。一人占めはダメですよ」
「そ、そうだよ冬凛! 代わってあげなよ!」
「……夏菜。あなたが代わればいいじゃない。なにさっきからくっ付いてるのよ」
冬凛の反対側に陣取っているのは夏菜。俺の右腕を抱き込む彼女は、我関せずと小ぶりな胸を押し付けてくれていた。
そんな夏菜の様子に驚いていたのは、幼馴染である公太。今、彼はどんな気持ちなんだろう? ずっと一緒にいた幼馴染が、他の男の彼女になった訳だが。
「そ、そうだ九郎! 今度から起こしに行ってあげようか? 九郎が遅刻しないように」
そしてなんという寝取られ発言。以前聞いた記憶があるのだが、夏菜は主人公の事を起こしに行く系の幼馴染だったという話だ。
起こしに行かなくなり……というか公太が大陰さんのためにワザとやった事らしいが。それだけならまだしも、他の男を起こしに行くようになるなんて。
「……なぁ公太。いま、どんな気持ち?」
「あはは。ぶっ飛ばすよ? 九郎」
「じょ、冗談だよ……」
怖い。流石は陽乃姉さんの弟か。普段怒らない人が怒ると怖いと聞くが、公太はそのタイプなのかもしれん。
しかし公太はこんな可愛い幼馴染に起こしに来てもらって、本当に恋愛感情が湧かなかったのだろうか? ゲームなら真っ先に人気が出るキャラだろうに。
「そんな事しなくて大丈夫だよ? あたしがいつもモーニングコールしているから」
「春香ちゃん、そんな事してたんですか。だからたまに通話中……」
「明日からは私もやる。というか、そういうのはローテーションでしょ」
正直、春香のモーニングコールには助かっている。我が母は絶対に起こしてくれない系の母親だから。
ただ春香、時々悩ましい声を出すんだよな。起きて……ねぇ……起きてよぉ……なんて、他の所が起きてしまうわ。
「そのローテーションには私も加わるとして……とりあえず、さっさと兄さんの相談に乗りませんか?」
「アタシ朝早いから、ちょっと九郎の家に寄って蹴り起こすくらいなら出来るわよ?」
蹴り起こす……文字通りなんだろうな。容易に想像がつく。逆に陽乃姉さんが優しく起こすなんて事をしたら心配してしまう。
ともあれ月ちゃんの言う通り、公太の相談に乗ろう。これだけの姫がいれば、悩みなんて即解決するだろう。
公太が恥ずかしがらなければの話だが。
「さっさと話しなさいよ? 時間は限られているんだから」
「兄さん。面白くもない話は早く終わらせましょう。なにせ普通の恋愛なのですから」
「ううぅ……なんでこんな事に……」
圧倒的なイケメンが、恋話であんなに縮こまって……なんて哀れな。
彼はどうしてあんな苦しそうな顔をしているんだ? ただ友達に恋愛相談しようとしただけなのに……。
誰が悪いのかは分からないが、こうなった以上は彼女達にも知恵を借りよう。
俺は近くにいる四人に相談内容を説明した。月ちゃんと陽乃姉さんには、公太が苦しみながらも話したようだ――――
「――――で、どうすればいいと思う?」
「「「「う~ん……」」」」
「とりあえず告白すれば?」
「とりあえずデートですね」
頭を悩ます四人と、俺達と同レベルの二人。
公太の話から、告白しても恐らく……しかしとりあえずデートというのはアリかもしれない。
大陰さんが、周りの事など関係ないほどに公太の事を好きになれば問題ないのではないだろうか? 彼女の自信については、公太が付けさせればいいだけの話。
「そ、そもそもさ……デートには誘った事があるんだけど……断られたんだ」
「ふ~ん。アンタさ、嫌われてるんじゃないの?」
「可能性はありますね。ウザがられてる可能性も」
「そ、そんな……」
悲壮感を浮かべる公太。家族の二人は容赦なく公太に口撃を仕掛ける。
とても見ていられなかったため、助けあげてっ! という意思を込めた視線を四人に送り、公太のフォローに回ってもらう。
「え、えっと……嫌われているって事は、ないと思うんだよね」
「そ、そうですよ。ウザいって事もないと思います」
いいぞいいぞ、昔馴染みの言葉なら公太によく響く事だろう。
さあ追撃だ。大陰さんだけじゃなく、公太まで自信を無くしてしまえばお終いであろう。
「嫌いだったら、あたしだったら話したくもないなぁ」
「そうね。ウザかったら、近づいてもほしくないもの」
「そ、そうだよ! 話す事も近づく事も出来る公太は、嫌われてもウザがられてもいないって!」
「そ、そうかな? そうだよね……」
四季姫に便乗し、公太のフォローを行う。話す事や近づく事くらい、誰でもする事だと思うが。
というか公太の事を嫌う理由が分からん。そりゃもしかしたらいるのかもしれないが、大多数は好感を持つはず。
好きになった人がたまたま嫌悪していたなんて……そんな事だったらあんまりだ。
「でも彼女、言ってたんでしょ? アンタの近くには女が沢山いるから、近づきたくないって」
「兄さんと仲よくなれば、他の女子の嫉妬を買う。それを撥ね退けられる女性なら問題ありませんが、彼女はどうなのでしょうか」
「…………」
「ねぇ、君達は敵なの? 味方なの? それでも家族なの?」
なんでこの二人はそんな事しか言えないのだろうか。二人の言っている事は間違ってはいないのだろうが、言い方というものがあるだろう。
……もしかして、取られたくないのか? 弟を、兄を他の女に取られたくなくてこんな事を……?
「そういう事か。ひーちゃんも月ちゃんも、可愛い所があるじゃないか」
「……ひーちゃん? ぶっ飛ばすわよ? なにを勘違いしているのか知らないけど、アタシは現実を見ているだけよ」
「先輩。可愛いと思うなら頭を撫でて下さい」
一瞬で可愛さが吹き飛んだな。しかし姉さんの言う通り、嫌われていないとしてもこれ以上の進展は望めない状況。
いくら公太の行動が変わったとはいえ、人気男子という事実は変わらない。
その人気男子の彼女になるという事は、女子の反感を多少でも買ってしまうだろう。
「女生徒の嫉妬……こちらの問題なら、なんとかなるかもしれませんが」
「なにかいい案でもあるの? 月ちゃん」
狡猾代表の月乃が提案する案、あまり良い予感はしないが。
「ダブルデートとかどうですか? 私と先輩、兄さんと大陰さんで」
「「「「却下」」」」
提案された案を四季姫が即座に却下。後輩を睨みつけるのは大人げないと思います。
「仕方ないわね。ならアタシがするわ。月乃よりはいいでしょ?」
「「「「「ダメです」」」」」
再提案された案を四季姫と月姫が拒絶。先輩の事は睨みつけられなかったようです。
「とりあえずですね、他の女子から大陰先輩が攻撃されるというのであれば、守ればいいだけです」
「守る……なるほど。公太が身を挺して、俺の彼女に手を出すなッ! っていう事か」
まさにヒーロー、まさに主人公だ。公太にピッタリじゃないか。
そんな姿を見せられれば、大陰さんはベタ惚れ、他の女子生徒も納得してくれると。
「はぁ……これだから童貞は。それでは火に油を注ぐだけです」
「な、ななな……ど、童貞……ちゃうし」
「「「「童貞ちゃうのっ!?!?」」」」
「あ……いや、その……童貞っす……」
「「「「驚かせないで……」」」」
なんで俺はいきなり恥をかいた!? なんでみんなの前で童貞宣言しなければならないのだ!?
おのれ月姫。やはりこいつは要注意人物だ。
「先輩の童貞は私が頂くとして……いいですか? 兄さんが大陰さんを庇えば、他の女子の反感は強くなるでしょう」
「それはあげないよ?」
「それはウチがもらう」
「絶対に私が頂きます」
「私だって負けないわ」
「つまりアタシが貰えば一番平和ね」
「「「「「――――ッチ」」」」」
「……お前の彼女達、めっちゃ怖いな」
「あれ? いたのか央平」
「いましたよ、最初からね」
すぐ話が逸れる。内容はなんとも魅惑的ではあるが、他にも客はいるのだから自重して欲しい。
ただでさえ目立つんだ。俺と央平以外は存在感がヤバいのだから。
「女子からの攻撃は女子が守ればいいのです。このパーティーに大陰さんを入れてしまえば、手出しなんて出来ないでしょう」
「……えっと? つまり……?」
「九郎先輩。大陰さんもハーレムに加え――――」
「――――ふざけんな九郎ーーー!! それだけは許さねェェェ!!」
「おおおお落ち着け公太! 少し冷静になれっ!」
鬼気迫る公太、初めて見る表情であった。知らない一面を見れば見るほど、完璧と思われていた酒神公太の主人公っぷりは崩れていくが。
「冗談ですよ。でも……あはは、それも面白いですね」
怪しく笑う月ちゃんが不気味であったが、流石に友を失いたくはないでお断りだ。
しかしとりあえず方針は決まった。
大陰さん。僕達とお友達になろう大作戦。すでにお友達と呼べる関係性を築いていた夏菜を筆頭に、作戦が行われる事になった。
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