酒神公と大陰、恋の行方・その一
大影零那→大陰零那に変更
素で音読みを間違ってました
彼女四人と投資者一人、監視者一人との学園生活が始まって、幾日か経った。
あれから特に大きな問題は起こっていない……と思う。相変わらず厳しい目を向けられる事はあるが、大多数の生徒の関心は薄れたようだ。
そもそも四六時中ベタベタしている訳ではないし。みんなと一緒なのは昼休みと放課後くらいのもので、他はほとんど公太や央平といる。
俺はちゃんと友情も深めているのだ。今日だって放課後のデートを断ってまで、公太の相談に乗っているのだから。
「やっぱり俺には見えないんだよね、選択肢」
「そういや、俺も最近みてないな」
「もう九郎はゴールしてるじゃない、必要ないでしょ」
「いや、めっちゃ必要なんだが。四人を喜ばせる選択肢が欲しい」
「……九郎? 一人忘れてないかい? こうなった以上、責任を取ってもらうよ」
「ああ、月ちゃん――――」
「――――陽乃姉の事はよろしくね」
そっちかよ。あの人は彼女じゃないぞ。
というか俺の事はいいんだ。今日は公太の恋愛相談に乗るために来たのであって、そんな事を話しに来たのではない。
しかし公太は話そうとしない。別に恥ずかしがっているとかではなく、隣の席にいる人達が問題なのだ。
断ったはずなのに……なぜここにいる?
「う~ん……この大学はどう? 学部も色々あるしさ」
「この大学、それなりに難関大学よ? 彼は相当頑張らないと」
「今のままじゃ厳しいね……彼が、主に彼が」
「まだ一年半もありますし、なんとかなるんじゃないですか?」
「月乃、おかわり持ってきて、紅茶ね」
「またですか? 自分で行って下さいよ」
「「…………」」
「さ、酒神先輩っ! ドリンクバーなら俺が代わりに行ってきますよ!?」
「部屋は……五人だから5LDKかな?」
「ちょっと春香先輩、次の年は私も加わるのですから、部屋を一つ追加して下さい」
「そんな物件あるんですか? 一軒家じゃないんですから」
「なら家建てちゃう? トイレは二つ以上、お風呂は大きいのを一つでいいね!」
「それならお金が必要ね……学生の内から起業でもするべきかしら」
「アンタ達、夢を見るのはいいけど、現実も見なさいよ」
「「…………」」
「ゆ、夢の家だ! 俺、毎日遊びに行くぜっ!」
「お金ですか……みんなで色々とやるには、やっぱり必要ですよね」
「卒業するまでに? そんな簡単にいくのかな?」
「不可能ではないけど、簡単でもないわね」
「アルバイト……なんかのお金じゃ無理だよねぇ」
「先輩方、最近流行りのアレとかどうですか? 動画投稿など」
「アンタ達、本気で家を建てるつもりなの? 馬鹿なの?」
「「…………」」
「四季と陽月の動画!? チャンネル登録、高評価お願いしますっ!!」
「動画投稿? いやよ。あんな下らない企画ばかり、失笑しかないわ」
「冬凛? いつもどんな動画見てるの? 他にもいっぱいあるけど」
「制服姿で座って雑談でもすればいいのです。たまに足を組みなおして、チラして下さい」
「なるほど。故意ではなく、たまたまを演出するのですね」
「で、でもネットは怖いって聞くよ? それに恥ずかしい……」
「仮に収益が出たとして、誰が管理するのよ? 色々と大変なのよ?」
「「…………」」
「頼む、俺をスタッフとして雇ってくれぇ……」
「秋穂先輩の家はパン屋さんですよね? お父様にお願いすればいいのでは?」
「でもうちのお父さん、許可するか微妙です……」
「そこはほら! あるじゃん必殺技が! お父さん嫌いっ!」
「というか、それならパンの紹介動画を投稿すればいいんじゃないかな?」
「それじゃ弱いわね。とてもじゃないけどパン紹介で家は建たないわ」
「なに、本気なの? 本気だって言うなら手を貸さない事もない」
「……良かったね九郎。卒業後には家が建つらしいよ」
「……俺に選択肢はないのか? 大学とかも初めて聞いたぞ」
「その家にあの六人がいるんだろ? なにハウスだよ、ハーレムハウスかよ」
放課後、公太と央平と近くのファミレスに来ていた。
例の恋の相談という事で、何時間居座っても大丈夫そうな場所を選択したのだが……気が付いたら隣のテーブルに彼女達がいた。
俺達の会話には特に介入して来ようとはせず、自分達の話に盛り上がる彼女達。
それなら離れたテーブルでやってほしい。他にも空いているのに、わざわざ俺達のすぐ傍に陣取ったのだ。
「……ねぇ九郎。なんで彼女達を呼んだの? 俺は家族の前で恋愛相談をしなきゃならないのか?」
「よ、呼んでねぇよ。気が付いたらいたんだよ!」
「こわ、お前の彼女達こわっ」
彼女達には断ってやってきた。彼女達もそれを了承し、今日は男だけで話し合いをするつもりだったのだが。
しかしこのままじゃ公太は続きを話さないだろう。姉と妹の前で、好きな人の話をするなんて俺だったら嫌だ。
仕方ない。ここは彼氏として、ガツンと言ってやらなければ。
「な、なぁ……ちょっとうるさいから他のテーブルに移って――――」
「――――もしもしお義父さん? 冬凛です。ちょっとご相談がありまして」
「なに? あの子は誰に電話してるのよ?」
「彼のお父さんだよ! 力になってくれるかもって!」
「冬凛さん、お義父さんって言ったよ? どさくさに紛れて」
「春香ちゃんがそれを言いますか? あなたが一番のどさくさ女ですよ」
「お義父様の電話番号……これは手に入れる必要がありますね」
ダメだコイツら、まったく聞き耳を持っていない。目を合わせる事もないし、たまたま席が近かっただけの他人といった感じだ。
もしかして自分達は近くにいるだけで、俺達とは別行動だとでもいうつもりか? こっちの話には介入しないし、こっちにも介入するなと?
というか、いつの間に父の番号を……? あの企画好きな父が出てきたら、面倒な事になる予感しかしない。
「……公太? 彼女達は……近くにいるだけっぽい。置物だと思って、話の続きを……」
「無理だよ!? 声は絶対に聞こえるし……あの姉妹の顔みてよ!? 聞き耳立ててやがる!!」
「お、落ち着けって公太。というかさ、女性目線の意見も……必要じゃないか?」
確かに央平の言う通りな気がする。大陰さんがどう思っているのか、どうしたらいいのかなど、同じ女性なら分かるかもしれない。
俺達が考え付くのなんて、とりあえず告れとか、とりあえずデートしろとかしか言えんし。
「いやいやいやっ! 参考になる訳ないよ!? 彼女達ってどこかおかしいだろ!?」
「おい、人の彼女をおかしいとか言うな」
「まぁ確かに。こんな男の彼女に、全員でなるような人達だもんな」
でもこのままじゃ、ただドリンクバーを飲みながら女子高生の会話を聞いているだけになってしまう。
普通ならそれもいいかもしれないが、話されている内容が心臓に悪い事ばかりだ。俺としては早々に引き上げたい……ん?
「ああ、引き上げればいいんじゃん。他の店に行こうぜ?」
「そ、そっか。それもそうだね」
「え~? 俺もう金ねぇぞ……」
地味に高いドリンクバーは痛手だが、俺としても離れたいため致し方ない。
会計を終え、別のファミレスを探して歩く三人。そして見つけたファミレスに入り、出迎えてくれた可愛らしいウェイトレスにこう言われた。
「いらっしゃいませ! え~……九名様ですね? こちらへどうぞ~」
「「「……えっ!?」」」
こわっ。俺達は三人だというのに、このウェイトレスのお姉さんには九人に見えるという。
俺達はなにか、この世ならざる者を引き連れて入店してしまったのだろうか?
「このファミレスはドリンクバーが豊富だよね」
「ウチがスペシャルドリンクを作ってあげるよ」
「ちゃんと飲めるものにして下さいね?」
「お腹空いたわ、なにか食べようかしら」
「すみません。ドリンクバーを六つお願いします」
「それとチーズケーキを。月乃、紅茶持ってきて」
「「…………」」
「あっすみませ~ん! ドリンクバー三つお願いしますっ!」
案内された席は先ほどのファミレスとは違い、完全に一つの大テーブルだった。
九人が座れる席がある事も驚きだが、彼女達の行動にも驚きだ。隣の席の別グループが、同じ席の別グループに……意味分からん。
「……公太、諦めよう。彼女達にも……知恵を借りようじゃないか」
「あはは……もう、どうでもいいや……」
意を決して彼女達に話しかけた。偶然だねとか、同じテーブルに着いておいてどの口がいいやがる。
公太の相談に彼女達も協力してくれる事に。月ちゃんと陽乃姉さんに、ニヤニヤと笑われている公太が可哀そうで仕方なかった。
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