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聞いたりしないで


 私とヒロセの前を行くチハルたち。チハルがサキちゃんに言うのが聞こえる。

「サキさん、ちょっ…、足ブラブラさせんの止めてください。あぶないから」

「そう?」と悪びれない様子のサキちゃん。「なんかちょっと嬉しいんだよね~~。友達の弟だとしてもイケメンさんの後ろに乗せてもらってさぁ。こんな事もうないかもしれないもんね。写真撮って挙げていいかな」

「いや、勘弁してください。…ちょっ…!だからあんまいごいごしないでくださいって」

チハルの自転車がぐらぐらと揺れる。


 「なあ、」とそこでヒロセに言われてドキッとする。

なにしろ私は今、ヒロセのお腹に手を回しているのだ。

「…何?」ドキドキしながら少しうわずった声になるのはもうどうしようもない。

「くすぐったい」とヒロセ。「そんな緩い感じで腹持たれたら力入んねえわ。もちっとちゃんと、ぎゅって感じで手を回して」

わ~~~…「…うん」

恥ずかしい!でも言われた通りにぎゅっとヒロセのお腹に回した手に力を入れる。

 うわもう、ギュってしてるよヒロセのお腹。

 もうないかも。こんな素晴らしいシチュエーション。あんなにヒロセに突っかかっていたチハルがヒロセの後ろに乗る事には何も言わなかった…


 「なあ、」と今度はさっきより小さい声でヒロセが言う。「やっぱ急に家に行く事になったらちょっとマズかったろ」

「ううん。嬉しいよ来てくれて。でも…」

「でもなに?」

「あの…ごめんね、本当に。弟が態度悪くて」

「もういいって」

「うん」

「でもオレが家に行くの、絶対本当は嫌がってるよな、弟」

「…」

 私はチハルがヒロセに対してまた失礼な事を言う事よりも、母と父の反応が怖い。




 家について二人にも上がってもらって、父と母に少しドキドキしながら友達が来たからと言う。

出て来た母が二人を見てニッコリと綺麗に微笑んだ。

 元気に「こんにちはお邪魔します!」と言うサキちゃん。そしてヒロセも「すみません、お邪魔します」とかしこまって挨拶してくれる。

「え?もしかして?…」

母が私をチラッと見た。

 ほら、さっそくだ。


 母が聞いた。「もしかしてヒロセくん?」

「え!?」と言い当てられたヒロセが驚いている。

「ヒロセ君よね?」と母。

「はい、同級生のヒロセです。今日は突然お邪魔してすみません」

ヒロセが少し戸惑いながら、それでもきちんとした感じの良い挨拶をしてくれる。

「そっか…」とぼそっとつぶやく母。「チナちゃん、ヒロセ君を連れて来たか…」

ヒロセが「ふん?」という顔で私を見た。慌てて「図書館で会ったんだよ」と母に教える。

 母が余計な事を喋らないでいてくれたらいいけど…。



 サキちゃんのお土産のロールケーキを母はとても喜んで受け取り、サキちゃんの家がやっている店の事も少し話もしたりして、それは私もとても嬉しいのだけど、サキちゃんがこのまま母に余計な事を聞かないでいてくれたらいいのにと思う。

 私の部屋に早く連れて行けばいいんだよね。…でもどうしよう…ちょっと散らかってるかも。ヒロセに散らかってる所を見られるのは嫌だな…かと言ってリビングでみんなでお茶を飲むのもどうかと思う。迷っている所に母がチハルに聞く。

「あんた今日晩御飯どうすんの?おばあちゃんとこ帰っ…」

「お母さん!…お母さんちょっと…ちょっと来てお願い」


 母を洗面所まで連れて行き、かいつまんで事情を話した。チハルがヒロセに嫌な事を言ったのは話していないけれど。

「チハルと義理の姉弟だって事も、今チハルだけおばあちゃんとこ住んでるって事も、誰にも教えてないの」

「…そう。…ねえチナちゃん。ヒロセ君は自分から来たいって言ったの?」

「ううん。…私が言って来てもらったの。図書館で会って、サキちゃんも来たいって言ってくれたからヒロセにも来てもらった」



「それはチナちゃんが?ヒロセ君には自分から言ったの?」

自分からかと言われたら微妙にニュアンス違うけど。「うん。…まあ」

「そっか…。…ヒロセ君、素敵な男の子だね」

母に言われてドキッとする。

「…うん。すごく良い子なんだよ」

「そっか…」

何となく力なさげに笑う母。

「部屋に連れて行くけど、」と母に言う。「お茶は自分で出すから」

「お茶!」と母が急に大きな声で言うのでビクッとする。「お茶、私が持っていって出してあげたいんだけど…チナちゃん嫌かな」

どちらかといったら嫌だけど、そんな風には言えない。「大丈夫だよ。自分で運ぶから」

 やんわりと断った私を母がじっと見つめた。



 母がもう一度言う。「ヒロセ君、素敵な子だね。すごく感じの良い子みたい」

「…うん」

「やっぱり…」と母。「今日連れて来たのは、…やっぱりチナちゃん、チハルよりヒロセ君の事が好きだからよね?」

「…何言ってんのお母さん…」

「だって出かける前に私がチハルでいいのかとか聞いたから」

「それは関係ないです」

「でも…」

「もうそういう事を言ったり聞いたりしないで。恥ずかしいし。すごく嫌だよ」

私が言ったら母が驚いた顔をした。

それでも私は頑張って言う。「簡単にそう言う事、いろいろ聞くの止めて下さい」

「…うん」と母が少し困った顔をしてうなずく。

言い過ぎたかな。キツい言い方になってしまった…。お母さんごめんなさい。




 一旦下で待っていてもらって、急いで2階の自分の部屋へ行き、散らかっているものを取りあえずクローゼットに押し込んで、サキちゃんとヒロセを案内した。

 サキちゃんがヒロセにふざけて言う。「どうヒロセ。ちょっとドキドキしてんじゃないの?ここか~ここがチナの部屋か~~って。ワタナベいなかったらなって思ってるでしょ?次来る時は邪魔しないから頑張りな」

「うるせえよ」とヒロセ。「ワタナベがいなくても、もっと大きな壁があんだよ」

…それってもしかしなくてもチハルの事かな。

 チハルはまだ下にいる。隣のチハルの部屋はずっと使っていないから、下にいて、しばらくしたら祖母の家に帰るかな。帰って欲しいな…ヒロセにこれ以上変な事を言って欲しくない。






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