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チハルでいいの?

 「今日は図書館に行く約束してるから」チハルが母に言った。

「誰と?」と母。

「姉ちゃんとだよ。姉ちゃん、昨日言ってたろ。ちゃんと着替えて待っとけよ」

「…」母の前で返事が出来ない私だ。

「なんで?」と母。「なんでその歳でわざわざキョーダイで図書館なんか行く?」

「いや」とチハルが2階を指しながら言う。「別に部屋でもいいけど」

「部屋?」と母。「だから、どうして高校生のキョーダイが一緒に部屋で勉強したりすんのよ!?」


 「アツコちゃん!」

いつになく大きな声を出した父に母が驚いている。

「いいでしょう別に」と父はすぐにいつものもの柔らかい感じに戻って言った。「キョーダイで仲良く勉強しても」

「…」無言で父を睨む母。

 父が母を諭すように言う。「今まで離れて暮らしてたんだし、キョーダイとして仲良くしたいってチハル君も改めて言ってくれてるんだから。別にいいんじゃないかな。そんななんでもかんでも目くじらたてなくても。勉強だよ勉強。良い事だよ」

「あなたは」とまるで相いれない他人に言うように冷たく父に言う母。「チナちゃんが大事じゃないんですか?」

 母の言い草に驚く私だ。チハルは呆れた顔で母を見ている。

「チナも大事だけど」と父。「チハル君の事も大事だよ。じゃあ逆に聞くけど、図書館で二人が何をすると思ってんの?アツコちゃんは。図書館だよ?二人きりで密室にいるわけじゃないんだから。外泊するわけでもないし」

「じゃあ私も逆に聞くけど」と母。「あなただって二人きりで密室にいたらチハルがチナちゃんに何か…」



 「お母さん!!」慌てて止めた。

「お母さん、あの…」

止めたはいいが昨日の事やチュウされた事で、母に気が引けてその後が続かない。

「約束したんだよ」と母に言う父。

え、何言い出すつもりなんだ父。


 「チハル君と約束したんだよ」と父が続ける。「チハル君がチナの事を好きだと思ってくれていても、チナが心からチハル君を受け入れて、いいって自分から言うまでは、無理矢理押し倒したりとかはしないって。だから今は二人を見守ってあげようよ」

あ~~~~…言ったな父…

 「バカじゃないの!?」と母が私の代弁をするかのように言った。

ほっとしたのもつかの間、母はこう続けた。「チナちゃんは優柔不断で情にもろいからバカみたいにすぐにほだされちゃうんだって」

え、お母さん…

 母が続ける。「他に好きだと思ってる男の子がいたって、チハルがしつこく『姉ちゃん』て言ってきたら、結局チハルの思い通りにされちゃうんだから!すぐにチハルに無理矢理…」

「お母さん!!私そこまで呑気じゃないからっ!そんな思い通りになるとか…」

全く!夫婦で無理矢理無理矢理って、マジで止めて欲しい。



 チハルが母を指差しながら私に言った。「もういい。この人に何言っても同じだから。早く行こ」

「ちょっと」と低い声の母。「この人って何よ?ちゃんと座りなさい」

それでもチハルは母に言う。「本当に父さんと約束したから。取りあえず仲良くすんのはいいだろ?キョーダイなんだから。なあ姉ちゃん?」

「…」

即座に返事が出来ないがチハルは続ける。

「姉ちゃんもオレが中学の時みたいな感じは嫌だって言ってるし」

そうだけどでも、また『ブス』呼ばわりしたじゃん昨日。


 母が私を見つめた。

 お母さん、さっきの言い草、何気にひどかったよね?



 母は私を優しい目で見つめた。「チナちゃんはどうしたい?チハルと行きたいの?行きたくないの?」

 私?行きたいか行きたくないか?

 嫌だなそんな二択。だってどっちも嫌。

 行っても帰って来た後の母の反応がどうだか心配だし、行かないのも…チハルがせっかくやって来たのを無下にするようで…昨日、あんなに私に気持ちを訴えてくれったのに…


 「チハル」と母。「あんたもうチナちゃんに自分がどれだけチナちゃんが好きかをぶちまけたんでしょう?」

え?

 私の答えを待たずにチハルにそう言った母に唖然とする。

「だからほら、チナちゃんが私とあんたの顔いろを伺いながらもう迷ってるじゃん!私がどう思うか心配して、チナちゃんに告白したあんたが嫌な気持ちにならないか心配して」

なんで母が知ってるの!?やっぱりチハルが話してたって事?

母は殊更語気を強めて言い放った。

「もうチナちゃんには好きな子がいるんです!あんたは諦めなさい」

お母さん…



 「アツコちゃん…」と父。

チハルは苦笑した後「バカじゃねえの」と言った。

「関係ないから」とチハル。「姉ちゃんには好きなヤツがいるかもしんねえけど、オレらはキョーダイだから。そんなの関係なく一緒にいるしいろんな事を一緒にすんだよ」

「何開き直ってんの!?キョーダイなんて、あんた少しも思ってないじゃんむかしから」

そして母は私に言った。「なんでチナちゃんヒロセ君と出かけないの!?日曜なのに!」

え、…そんな…

「向こうから誘って来ないんならチナちゃんからガンガン誘いなさいよ!何してんのよもう」

え~~~~…



 「アツコちゃん」優しく母に話す父。「アツコちゃんは何が嫌なの?チハル君がチナを好きでいてくれて、それでも今はキョーダイとして仲良くするってちゃんと約束してくれてるんだから」

「そんな約束、この子はすぐに破ります」

確信を持って言う母が怖い。

「そんな事ないよ何言ってんの。ねえ?」と苦笑してチハルを見る父。

「チナちゃんはどう思ってるの?」母が聞く。「本当にチハルでいいの?」

「えっ!?」

思い切り素っ頓狂な声を上げてしまった。



 何…?今の話の流れで母は何で急にそんな事を…

「私はチナちゃんが好きだから」と母。「チナちゃんがちゃんと受け入れてくれるなら」

受け入れてくれるなら?

 何言ってんの母。

「でも今はヒロセ君の方が好きなんでしょう?」

ふん?という風に私の顔色を伺いながら母は言い、それでも続けた。「どうなのチナちゃん?本当にチハルでいいの?」

や、もう本当に何言ってんの?



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