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ふざけんな!

 背後の殺気を感じた私は振り返る事なく、今まさに膝蹴りで沈みかけている令息の肩を借り逆立ちした。ヒュンと木剣の風を切る音を聞いたすぐ後、逆立ちから戻る反動で木剣を振り抜いた彼の腕に足を振り下ろす。痛みに木剣を落とした令息は、勢いのまま前につんのめってしまった。私は、彼の後ろの首筋が露になった瞬間を見逃さず、両手を組みハンマーのように振り下ろす。


「う、うわああぁ」

一人木剣を持ったまま立ち尽くしていた令息は、奇声と共にめちゃくちゃに振り回しながら襲って来た。

「いや、いや。当たらないから」

簡単に躱した私はその場でしゃがみ込み、立ち上がった勢いのまま彼の顎に掌底を打ち込んだ。


「あら?終わっちゃった?」

気が付けば私たちとセレート嬢以外、誰も立ってはいなかった。

「やはり魔王だったな」

途中から正気に戻ったらしいラウリスが馬鹿にしたような目を向けた。


「本当に。5分もかからなかったんじゃないか?」

ロザーリオも呆れた顔をしている。

「俺も参加したかったのになぁ」

オレステは残念そうだ。


「流石アリーね」

双子とジュリエッタ殿下はニコニコだ。ジュリエッタ殿下に関しては、ブラウンの瞳をキラキラさせている。


そして……

「わあ、アリー。凄いね。戦乙女のようだったよ」

もの凄い勢いで拍手をするエンベルト殿下とお兄様がいた。その後ろではメリーまで拍手している。


三人の事はとりあえず無視して、一人でガクガクと震えながら立ち尽くしているセレート嬢の前に立つ。

「つくづく恐ろしい女ね。どれだけ強い魅了をかけたわけ?皆ゾンビみたいで怖かったんだけど?」


「ヒロインである私の為に、皆が犠牲になるのは当然なのよ」

震えているくせにキッと私を睨む根性は凄い。凄いけれどムカッとする。

「は?何を言っているの?私の為?あなた一体何様よ。ここではね、皆がヒロインでヒーローなのよ。どうして自分だけがだなんて思えるの?」


「だから!ここは私の為の世界なの!私が幸せになる為に存在している世界なの!」

「あなた……馬鹿なの?」

私の答えにセレート嬢がキレた。


「は!?馬鹿って何よ!?私はね、この世界を何度も経験しているの!ラウリスもオレステも……ロザーリオもセヴェリンだって。順調に攻略して来たのよ。後は隠れキャラだったエンベルトだけだったのに。エンベルトルートの為にずっと頑張って来たのに……」


彼女の言葉に、今度は私がキレた。

「冗談じゃないわ!!」

頑張って来たと言う言葉に怒りが湧く。

「あなたのそのエゴの為に、一体何人の人間が犠牲になったのかしら?皆に魅了をかけて、過去のアレクサンドラの婚約者を奪うだけじゃなく孤立までさせて……挙句の果てには冤罪で国外追放?ふざけないでよね!」


「アリー」

エンベルト殿下が止めに入った。でも、私はここで止めるつもりはない。

「ルト、邪魔はしないで頂けるかしら?」

一瞬の瞠目の後、とってもいい笑顔になったエンベルト殿下。

「そうなのですね、わかりました。邪魔はしないでおきましょう」

そう言って、黙った。笑みを浮かべながら。


再びセレート嬢へと向き直る。

「5度も傷ついたアレクサンドラの気持ちがあなたにわかる?彼女はね、もう心が壊れかけていた。ギリギリの所だったのよ。幼い頃に見初められ、学校に入るまでは誰もが認める仲睦まじいカップルが、魅了という馬鹿みたいな魔法のせいで、一瞬で壊れてしまうのよ。愛しい婚約者の心が魅了の持ち主に目の前で奪われ、邪険にされ、挙句の果てに学校中で孤立させられる……あなたは考えた事がある?それが、どれだけ辛い事なのか」


いつの間にか、私の頬には涙が流れていた。


「ねえ、あなたは知っているんでしょ。国外追放されたアレクサンドラの行く末を。みすぼらしい馬車に乗せられて、国境に到着する前に野盗に襲われ殺されて……森の奥で獣の餌になってしまう彼女を!!」


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