ドラゴンとお茶会
「あれ?クストーデ。認識阻害かけてないの?」
『いや、かけているが。アリーと魔力の質が似ているからか、どうやら私が見えているようだな』
意外と暢気なドラゴンだ。
今度は殿下がテラスから顔を出した。やはりこちらを見て驚いた顔をしている。
「あなたの認識阻害、弱くない?」
『見えるようにしたんだ』
ちょっと傷ついたように、金の瞳がウルウルになる。
「ごめんね」
素直に謝ると太い尻尾がパタンと地面を叩いた。そしてニヤッと笑ったように見えた。このドラゴン、意外に性格も黒いのかもしれない。そんな事を密かに思っていると、物凄い勢いで二人がやって来た。
「どこからどう見てもドラゴン……そんなもの、何処で拾って来たのです?」
いやいや、ドラゴンってその辺で拾えるものではないと思う。
「いくらなんでも、大き過ぎてうちで飼うのは難しいよ」
お兄様も発言がおかしい。
「拾って来てないし、飼わないから。このドラゴンは私を助けてくれたの」
事の経緯を話す。
「あの女は、わざわざ私のいない時を狙いましたね」
「自分の取り巻きの命すら軽んじるとは。もう見逃す時期は終わりましたね」
二人のイケメンがにこやかに怒っている。空気がピリピリして痛い。
「ところで」
にこやか継続中で、私を見たエンベルト殿下。なんだか寒気がして、思わずクストーデの足に縋りついてしまう。
「落ちた時、何故助けを呼ばなかったのですか?」
「え?だって……」
口をつぐんでしまう私の両頬を手で覆う。そのままエメラルドの瞳としっかり向き合わされてしまう。
「アリーが助けを求めれば、私は転移であなたを助けに行けたのに。もう2度経験しているのです。わかっていたでしょう」
「わかっていたからよ!」
思わず声を荒げてしまう。
「わかっていたから呼ばなかったの。だって真っ逆さまに落ちてる最中よ。それで助けを呼んでしまったら、ルトも一緒に落ちちゃうじゃない。そんなの嫌だもん」
予期していなかった答えだったのか、エメラルドの瞳が大きく見開かれたまま微動だにしなくなった。
「アリー……あなたという人は」
動かなかったはずの殿下の腕が、私の頬から外れた。そのまま気付けば殿下の腕の中に収まっていた。
「アリー、あなたはどこまで惚れさせるのですか?私を気遣って呼ばなかったなんて……」
声が震えている。
「とても嬉しい言葉ですが、間違っています。どんな危険な状況で呼ばれたとしても、私はあなたを助けてみせます。状況判断は得意なのですから」
抱きしめていた腕をほどき、再び頬を覆われる。エメラルドの瞳の中に、驚いた顔の私がいた。
「だからお願いです。危なくなったら私を呼んで。私に助けさせて」
泣きそうな顔で懇願されてしまった。
「でも、ルトが私の代わりにどうにかなってしまうのは嫌なの」
泣きそうな顔が一転して笑顔になる。
「大丈夫、私があなたを置いて、どうにかなる事はあり得ない」
もの凄い自信だが、何故か本当にそうなのだろうと思ってしまう。
「……わかったわ。次はちゃんと呼ぶ」
「ありがとう、アリー」
そう言うと、とびきりの笑顔で私の頬にキスを落とした。私も殿下の頬にキスを返した。
「ふふ、安心したら喉が渇いてしまいました。このままお茶にしましょうか?」
中庭に設置されているテーブルで、急遽お茶会が開かれた。クストーデは、中型犬ほどの大きさに縮まって、お菓子を堪能している。
『この甘いのは、堪らないな。これからもこれを食しに、定期的に足を運ぶとしよう』
「クストーデって、ずっと火山にいなくちゃいけない訳じゃないの?」
『あそこは私の住処なだけだ。別にいなくてはいけない場所ではない』
「そうなんだ。てっきり火山が噴火するのを防いでくれているのかと思ってた」
『私がいるから噴火しない訳ではない。あの火山は、小規模の爆発を繰り返しているから、大きな噴火に至らないのだ』
「そっか。ならたくさん遊びにおいで」
『ふっ、そうしよう』
「二人で仲良さげに話しているみたいだけれど、そろそろ本題に入ってもいいですかね?」




