その表情はアウトでしょ
目の前で不気味に微笑むセレート嬢。もう可愛らしさも何もない。
「今回は、あなたを操ってしまえばいいんだってわかったのです」
セレート嬢の魔力が膨らんだのが見えた。
「あつ!」
左手の小指に着けていた、ピンキーリングが急に熱くなる。どうやら私に魅了をかけたようだ。
『これは思った以上に熱いじゃない』
皆、この熱さに耐えていたのかと驚いてしまう。
『これは一度、改善した方が良さそうね』
そんな事を考えているうちに、彼女の魔力がふっと消える。
「どう?私の操り人形になった気分は?」
「……気分は別に変わらないかな。特に違和感もないし」
思ったまま答えると、セレート嬢の顔が歪んだ。
「……あんたもなの?」
どこかから、恐ろし気な声が聞こえた。私も二人の令嬢もキョロキョロしてしまう。
「どうして?どうしてどいつもこいつも、主要なメンバーは皆、私の魔法が効かないのよ!?」
恐ろし気な声は、目の前から聞こえました。いや、どこから出してるのよ?
「何度も、何度もかけたというのに……皆、かからない。一体どうしてなの!?」
なんか狂乱状態?怖いんですけど。
「大体、なんであんた、ラウリス様の婚約者じゃないの?」
「え?何でって言われても。そんな話は上がらなかったから?」
「だから、それが何でなのかって言ってんのよ!?」
ああ、もう怖いから。鬼婆みたいになってるから。
「それに、今回の本命であるエンベルト様。私の最推しなのよ!なのに、ちっとも私に気のある素振りすら見せない……どんなにかけても……ムカつくわ」
何やら後の方はブツブツ言っているからよく聞こえない。
「ねえ、あんたって転生者じゃないの?」
「転生者?私が?」
ここは誤魔化しますとも。
「乙女ゲーム、知っているんじゃないの?」
「オトメゲーム?」
それは本当に知りません。メリーから聞いた知識しかありません。
「おかしいわね。あなたが悪役令嬢をやらないせいで、上手くいかないのは確かなのよ。そもそもラウリス様の婚約者ではない事がおかしいのよね」
またブツブツ言ってる。怖いなぁ。
「そう言えば、どうしてエンベルト様と仲がいいの?知り合い程度のはずだったのに」
なるほど、ゲームの設定ではそういう位置関係だったのか。
「どうしてと言われても。暴走した魔馬を止めた事が切っ掛けで知り合ったのよ。お兄様が側近だった事もあって、小さい頃から親しかったわ」
「やっぱりおかしいわ。なんか色々規格外な事が起こっていたのね。もう、面倒だな。どうしたらルート通りに戻れるかな」
完全にご自分の世界に入っていらっしゃる。これは、帰ってしまっていいのだろうか?正解がわからない。
「ふう、やっぱりこれしかないわね」
何か結論が出たのか、溜息を吐きながらこちらを見た。
「ねえ、アレクサンドラ様。死んで?」
「へ?」
「多分だけれど、あなたが死ねば元に戻る気がするわ」
「嫌だけど?」
「なんでよ?」
「なんでよって、当たり前でしょ。死んでって言われて了解ってなる方がおかしいわ」
「いいもの。私の魔力でアレクサンドラ様をふっ飛ばせばいいだけだし」
そう言ったセレート嬢は、本当に魔力を再び膨らませた。
「デルフィーナ様。流石にそれはまずいですわ」
一人の令嬢が、彼女を止めようと肩に触れた。
「うるさいわね。邪魔をするならあんたも死んで」
魔力を令嬢に叩き込む。
「キャッ!」
短い悲鳴と同時に彼女はテラスの柵にぶつかった。老朽化が進んでいた柵は彼女の衝撃に耐えられなかったらしく、ガラガラと音を立てて崩れた。一緒に令嬢も下へと落ちる。無意識に走り出した私。
彼女が落ちる寸前、手を伸ばして力の限り彼女を引き上げた。その反動で、まるで交代するかのように、私は崩れた柵と一緒に地面めがけて落下した。




