興味を引かれる
ラウリスの顔に、興味津々と書いてある。
「それ、聞く?」
「なんだ?聞いてはいけなかったか?」
「そうではないけれど……黒歴史だから」
「くろれきし?」
また前の世界の言葉を使ってしまった。
「あのね」
仕方がないので、5歳の時の落馬の話をする。勿論、魔力の事は避ける。
「あの頃からなのよね、なんとなく動物たちと意思の疎通が出来るようになったのは」
「おっきなコブが出来ていたわよねえ」
チタがコブの大きさを手で表した。
「そんなに?」
オレステが目を丸くした。
「ええ、大きかったわ。このままコブが引っ込まなかったらどうしようって話してたもの」
「ふふ、そうだったわ。本人は気にしてなかったけれどね。私はずっとこの家の子のままでいる事にしているからって」
「今でも思っているけれど?」
「そうよね。まあ、実際はそうもいかないと思うけれど」
「お父様たちはそれでいいって」
「あはは、アリーの家族はねえ」
そんなに呆れ交じりで言わないで欲しい。
「甘々なのはジャンネスだけではない、という事だな」
ラウリスがニヤリとした。
「家族全員よ」
「なるほど」
そう答えたラウリスが首を傾げる。
「だが……父上の傍にいる時のヴィストリアーノ公爵は冷たい印象で、とても甘い雰囲気を出せる男には見えないが……違うという事か」
「違ってはいないわ。基本、表情はあまり変わらないわね」
「でも平気で甘々発言するわよね」
チアが笑う。
「そうそう。私たちがいても全然気にしないの。私たちがいる前でもおば様に愛を語るのよ。おば様も嬉しそうに返事をするわ。お互いが想い合っている事が手に取るようにわかるのよ。私もアリーの両親のような夫婦になりたいわ」
チタが夢見がちに言う。
思わずチアと二人でオレステを見てしまう。
「そうか。なるほどな。確かにいいな、そういう夫婦」
「でしょ。オレステはわかってくれるのね」
チタが嬉しそうに笑った。
こうして初めての茶会で、思わぬ友人たちが出来たのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
アリーと別れてからエンベルト殿下は真っ直ぐに魔馬の厩舎へと向かった。暴走した赤い魔馬の前へ立つ。
「すまなかったね。気付くことが出来なくて」
エンベルト殿下が、魔馬の鼻をそっと撫でた。臀部の傷は治療されていた。先程の暴れっぷりが嘘のように大人しくなっている。
「それで?犯人はわかったのですか?」
後ろに控えていた馬丁に問いかける。
「はい……」
「もしかして言いにくい相手でしょうか?」
「はい……ポリドロード伯爵令嬢でした。若いのが数人、ポリドロード伯爵令嬢が鞭を手にして厩舎に入って行く所を目撃していました」
「なるほど」
ポリドロード伯爵令嬢と言えば、つい先日、婚約者候補から外された令嬢だ。同じ伯爵位の候補である令嬢に嫌がらせをしていた事がわかった事が原因だった。
「ホント、美しく着飾っている女性ほど腐っているのは何故なんでしょうね」
冷たい声で呟いたエンベルト殿下。もうすぐ14歳になる殿下は、未だに婚約者が決まっていない。少しずつ絞ってはいるが、当の本人がその中から選ぶ気がない事が手に取るようにわかる。
「ジャン」
「はい」
「アリー、アレクサンドラは可愛いですね。今はまだ幼さが勝っているけれど、今の私くらいの年齢になったらきっと、誰もが振り向く美しい女性になりますよ」
「アリーは嫁には行きませんよ。アリー本人が言っています」
「はは、それは残念」
おどけたように答えるエンベルト殿下。私は今、驚いている。殿下の傍にいるようになって3年以上経つが、それまで異性に対して全く興味を示さなかった殿下が、アリーに興味を抱いているようだ。
「いいなあ、頬にキスしてもらって。私にもしてくれないでしょうか」
「させません」
「ジャン、そういうのをシスコンって言うんですよ」
「シスコン上等です」
「はは、開き直っていますね」
楽しそうに笑う殿下を見て、小さく溜息を吐いたのは内緒だ。




