表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千羽鶴はお日さまのにおい  作者: 立川ありす
第3章 体育館の妖精と、小夜子さんの願い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/12

最高のステージ

 気がつくと、おかしの国にいた。

 そのまま、


「魔法のステージへお願い!」

 パステル色の空にさけんで、【白昼夢の世界】の魔法に連れて行ってもらう。


 そして、わたしはステージのまん中にあらわれた。

 大きなケーキの形をしたステージだ。

 ステージのまわりで、たくさんの神さまがわたしを見ている。


 ステージのまん中には、妖精の形をした黒いドアが開いている。

 ドアの中からは、ふん水みたいに光がふきだしている。


 あれは小夜子さんがパックを使って作ったドアだ。

 小夜子さんは、元の世界から、あのドアを通して魔力を送りこんでいるんだ。


「テスカトリポカさま、力をかして!」

 目の前の、3人のネコの神さまに、お願いする。


 テスカトリポカさまにお願いするのはちょっとコワかった。

 前にお願いをしたときに失礼なことをしちゃったからだ。でも、


「元の世界で、わたしのお友だちの小夜子さんが、だれもかなえられないお願いを続けているの! わたしは小夜子さんの魔法を止めたい!」

 勇気をふりしぼって、お願いする。


 わたしは、ぜったいに小夜子さんをたすけたい!

 だから、コワがってる場合じゃない。


 ステージのまわりの神さまたちは、わたしをおうえんしてくれた。

 クッキーを配ったときと同じかんじだ。

 わたしの想いが通じたのかな? そして、


「われわれも、力をかそう」

 3人のテスカトリポカさまたちも、そう言ってくれた。

 よかった。

 わたしは思わず笑顔になる。


 その目の前が、ピカーって光った。

 すると、そこに小夜子さんがあらわれた。


「ここは……?」

「小夜子さんがお願いしていた神さまのいる【白昼夢の世界】だよ」

「そうなんだ。でも、どうしてチカちゃんがここに……?」

 小夜子さんは不思議そうに首をかしげて、あたりを見回す。そして、


「あなたたちは、まさか、テスカトリポカさまですか!?」

 3人のネコの神さまを見つけてビックリした。


 ひとめ見ただけで神様のことがわかるなんて、さすが小夜子さん!

 そんな小夜子さんは、神さまにお願いする。


「テスカトリポカさま、お願いです! ようすけ君をよみがえらせてください!」

「それはできない」

 テスカトリポカさまは、はっきり言った。

「いなくなった人は、もういないんだ。だれにも、よみがえらせることはできん」

 お願いしていたテスカトリポカさまたちは、できないって言った。でも、


「わたしの魔力をぜんぶあげます! だから!」

 小夜子さんは、聞かない。

 もう、自分のお願いをかなえてもらうことしか考えられないんだ。

 いなくなったお兄ちゃんに、もう一度会うことしか考えられないんだ……。


 3人のテスカトリポカさまは、あきらめて、わたしを見た。そして、


「チカよ、今こそ歌うのだ! そなたの歌と魔力で、この者の目をさますのだ!」

 わたしに言った。


「うん!」

 わたしは、力いっぱい答える。


 すると、いちごのスポットライトがわたしを照らした。

 わたしの服がプリンのドレスに変わる。


 そして音楽が流れてきた。

 聞いたことのない曲だ。

 でも、楽しくて、やさしくて、お兄ちゃんみたいにあたたかい。

 どうしてだろう、自然に歌いたい言葉があふれてくる。


――さみしいとき、いつもそばにいてくれた♪

――太陽みたいな笑顔で、つつみこんでくれた♪

――わたしの大好きな、お兄ちゃん♪


 歌に合わせて、開きっぱなしのドアのむこうに、何かがうつりこんだ。


 だれかの夢だ。

 ドアから魔力を送りこんでいた小夜子さんが【白昼夢の世界】に来ちゃった。

 だから、ほかのだれかの楽しい夢が、魔力になって流れこんでるんだ。


――お兄ちゃんの手は、大きくてやさしい手♪

――つかまっていると、なんだかフワフワやさしい気持ちになれる♪


 マイと安倍さんの夢が見えた。

 はじめてお兄ちゃんと会ったときの夢だ。


 マイたちが歩いていたら、よっぱらいにからまれてるお兄ちゃんを見つけたの。

 力じまんのマイは、もちろんお兄ちゃんをたすけようとした。

 そんなマイたちに、お兄ちゃんは、なんて言ったと思う?


「にげろ、君たち!」

 そう言ったんだよ。

 自分はよっぱらいにつかまって、ぶたれるかもしれないのに!


 そんなお兄ちゃんを見て、マイも安倍さんもビックリした。


 それまで、マイは力が強すぎて、周りにたよれる人がいなかった。

 安倍さんは頭が良くてお金持ちで、年上も大人も、ちょっとバカにしてた。


 でも、お兄ちゃんみたいに、自分よりほかの人を思いやれる人だっている。

 そう気づいて、自分たちも、自分の力をみんなのために使うヒーローになりたいって思ったの。

 だから、マイも安倍さんも、わたしのことをたすけてくれるんだ。


――お兄ちゃんのカレーは、ハチミツみたいにとろけそう♪

――お日さまの光をいっぱい浴びたいみたいに、ポカポカあったかくなる♪


 ゾマは、家に遊びに来た時に、お兄ちゃんに料理を教わったんだ。


 ゾマはほかの子より大きいからって男子にからかわれることがあった。

 だから、男の人はこわいって思ってた。


 でも、お兄ちゃんはだれにでもやさしかった。

 それに料理もおせんたくも、家のことはなんでもできた。

 だからゾマも、お兄ちゃんのことだけは、そんけいするようになったの。


 それだけじゃないんだよ。

 パパとママだって、お兄ちゃんから笑顔をもらっていた。


 病気だったわたしは、パパとママと会えなくてさみしかった。

 それと同じくらい、仕事でおそくまで帰れないパパとママも、わたしとお話しできなくてさみしかったし、心配だった。


 でも、お兄ちゃんは、わたしのことをパパやママにお話ししていてくれた。

 だから、パパとママは安心してお仕事をがんばれた。

 ママが作ってくれるたまご料理も、甘口カレーも、はじめは、お兄ちゃんがわたしのために考えてくれたの。

 そのレシピをママに教えてくれたから、ママが作ってくれるようになったんだ。


――わたしと、お兄ちゃんと、小夜子さんと、すごした日々♪

――いつまでも、わすれないよ、大人になっても♪


 みんなの夢を見て、なんだか、うれしくなった。

 だって、いなくなったはずのお兄ちゃんが、まるで、みんなの心の中で生きているみたいなんだもん!


 みんなの心の中に、お兄ちゃんがいる。

 みんなをポカポカの太陽みたいにはげまして、楽しい気持ちにしてくれる。


 そう思うと、さみしい気持ちなんて、ふき飛んでしまう。そして、


「……そうだよね、こんなことしても、ようすけくんは喜ばないよね」

 それは小夜子さんも同じだったみたい。


「ようすけ君がいなくなって悲しい人は、わたしだけじゃなかったんだ」

 そう言って、小夜子さんは笑った。

 少しさみしそうだったけど、心から笑ってくた。


「でも、みんな、さみしさにまけずに、ようすけ君みたいなヒーローになろうとしてる。わたしだけが、こんなことしてちゃ、ダメだよね……」

 小夜子さんが言うと、ドアから流れ出していた魔力が止まった。


 よかった。

 あのまま、みんなの夢が【白昼夢の世界】に流れ出っぱなしだったら、元の世界のみんなの魔力がなくなっちゃうところだった。


 小夜子さんは、別の呪文をとなえる。

 すると、ドアがゆっくりと、しまっていく。


「ふう、これで、ひと安心だね」

 ポチが、あいかわらずすごいいきおいで羽ばたきながら、器用に笑う。けど、


「あ、あれ……?」

 ドアは、もうちょっとのところで、しまらない。

 小夜子さんは、あせりながら呪文をとなえる。

 でも、ドアは完全には、しまらない。


「どうしてドアが、しまらないの?」

 なんだかコワくなって、思わず言った。


「おそらく、ドアが開きすぎて、この者の魔力だけでは、しまらないのだ」

「ええ!? それって、どういうこと!?」

「いけない! このままでは、元の世界の人たちの魔力が【白昼夢の世界】に流れてきてしまって、みんなの魔力がなくなってしまう!」

 テスカトリポカさまは、あせって言った。

「そんな……。わたし、なんてことを!」

 小夜子さんも、まっ青になって、あわてる。


 わたしは、そんな小夜子さんの手をにぎって、はげますように笑いかけた。

 お兄ちゃんが、いつもわたしにしてくれたみたいに。


「小夜子さん、2人で止めようよ! ライブでみんなの魔力を集めて、テスカトリポカさまにお願いするの!」

「チカちゃん……」

 小夜子さんは、わたしを見つめた。

 わたしも小夜子さんを見つめて、笑う。

 そうしたら、小夜子さんも笑顔になった。


「うん、わかったわ!」

 言ったとたんに、小夜子さんが光った。

 そして、わたしとおそろいのコーヒーゼリーのドレスすがたになった。


 お兄ちゃんが持っていたクロシロネンのストラップに、ちょっとにてる。

 ミルク色のブーツには、カットしたバナナの形のかざりがついている。

 頭にも黄色いリボンがのっていて、とってもおしゃれだ。


「チカよ、小夜子よ、そなたたちのライブで、ドアをしめる魔力を集めるのだ!」

「「はい!!」」

 そして、小夜子さんといっしょに、わたしは歌う。


――悲しいとき、いつもなぐさめてくれた♪

――お日さまみたいな笑顔で、つつみこんでくれた♪

――わたしの大好きな、おさななじみ♪


 また開きかけたドアの中に、だれかがうつった。

 小夜子さんと、お兄ちゃんと、もうひとり。


 これは小夜子さんの心の中にしまってあった、お兄ちゃんの夢だ。


 今よりちょっと前、小夜子さんはお友だちを作りたかったの。

 だけど、今よりもっと気が弱かったから、話しかけられなかったんだ。


 でも、お兄ちゃんが小夜子さんとクラスメートの両方にニコニコ話しかけた。

 だから、小夜子さんとその人も友だちになれた。


――ようすけ君の手は、たよれる大きな手♪

――手をつないでいると、なんだか勇気がわいてくる♪


 次の夢では、小夜子さんは、すごく重そうなプリントの山をかかえていた。


 そんなところをお兄ちゃんが見つけて、半分持ってあげた。

 小夜子さんはすまなさそうにする。

 だけど、お兄ちゃんは気にしないでって笑って、先に行く。


 小夜子さんだけが知っている、お兄ちゃんの夢。


 そうだよね。

 お兄ちゃんは小夜子さんのおさななじみで、ずっと同じ学年だったんだ。

 だから小夜子さんは、わたしの知らないお兄ちゃんを、たくさん見てるんだ。


――ようすけ君の目は、すんだきれいな目♪

――とってもやさしくて、見つめられるとポカポカ心があたたかくなる♪


 小夜子さんがお兄ちゃんの部屋のまどガラスに小石を投げる。

 すると、お兄ちゃんが顔を出す。


 それまで暗い顔をしていた小夜子さん。

 だけど、お兄ちゃんと話しているうちに、だんだん笑顔になっていく。


 そうやって、お兄ちゃんはいつも、小夜子さんのなやみを聞いてあげていた。

 気が弱くてネガティブな小夜子さんがくじけなかったのも、そんなお兄ちゃんがいてくれたからだ。


――わたしと、ようすけ君と、チカちゃんと、すごした日々♪

――いつまでも、わすれないよ、どんなに時が流れても♪


 わたしたちのライブを聞いて、神さまたちは、なみだをながして感動した。

 小夜子さんが、わたしが、みんながお兄ちゃんを想う気持ちを見て、知って、感動のあまりピカピカ光る。

 光は魔力になって、わたしたちのところに飛んでくる。


 たくさんの魔力が、わたしたちの目の前で、かがやく魔力の玉になった。

 その魔力を使って、3人のテスカトリポカさまにお願いする。


「「【白昼夢の世界】と元の世界の間のドアをふさいで!(ください!)」」

「そなたたちの願い、かなえよう!」

 3人のテスカトリポカさまたちは、わたしたちが集めた魔力の玉に手をかざす。

 すると光の玉はロープになって、ドアに向かってのびる。

 光のロープは開きかけたドアをしばる。

 しばられたドアが、しまっていく。


「今度こそ、やった!」

 わたしは笑う。

 小夜子さんも笑う。


 けど、今度もドアは、しまらない。


「むむ……これは……!! いけない!」

 3人のテスカトリポカさまは、くるしそうな顔で言った。

「ドアが大きく開きすぎて、これほどまでの魔力をもってしても、しまらない!」

「そんな……」

 小夜子さんは、まっ青になる。

 わたしも同じだ。


 ドアをしめようとする光のロープはだんだん細くなっていく。


 このまま元の世界のみんなから、魔力がなくなっちゃうの?

 そんなのイヤだよ!


 そのとき、小夜子さんが、何かに気づいた。


「そういえば、なんでテスカトリポカさまは3人しかいないんですか?」

「小夜子さん、どういうこと?」

「あのね、チカちゃん。テスカトリポカさまは4人いるの」

「えっ?」

 わたしはビックリした。


 そして、思い出す。

 最初のライブのとき、ポチはテスカトリポカさまを4人って言いまちがえた。


「黒のテスカトリポカさまと、青いテスカトリポカのケツァルコアトルさま、赤いテスカトリポカのシペ・トテックさま。そして――」

 小夜子さんは、言った。


「――白いテスカトリポカのウィツロポチトリさまよ」

「え!? ウィツロポチトリって……」

 わたしは、思わずポチを見やった。


 わたしたちが初めて会ったときにポチが言った、長い名前だ。

 ポチはつぶらな目でわたしを見て、小夜子さんを見て、


「小夜子さんはそんなことまで知ってるんだね。チカちゃんとは大ちがいだ」

 そう言って笑った。

 もう、ポチったら……。


 ポチの体が白く光って、白い大きなネコの神さまになる。


「「「「わたしたち4人が力を合わせれば、だいじょうぶ」」」」

 4人の神さまは、声をそろえて言った。


「この魔力を使いこなして、ドアをしめることもできるだろう」

 白いテスカトリポカさまが、ほかの3人といっしょに、魔力の玉に手をかざす。


 すると、ドアへとのびる光のロープが太くなった。

 光はどんどん太くなって、そして開きかけたドアをのみこんでしまう。

 光はそのまま、目の前いっぱいに広がる。


 そして光がおさまると、ドアは完全にしまっていた。

 しまったドアは、わたしたちが見守る前で、とけるみたいに消えた。


「よかった……」

 わたしがほっとするのと同時に、目の前が白い光につつまれた。

 いつもなら、この後、すぐに元の世界にもどる。


 けど、まっ白な目の前に、ハチドリのポチがあらわれた。


「ポチは妖精じゃなくて、神さまだったんだね」

 わたしは、ちょっと意地悪な声で、そう言った。


 でもポチは答えない。

 いつもみたいにすごいいきおいでホバリングしながら、静かな声で言った。


「チカちゃん。お兄さんがいなくても、もう平気?」

「平気じゃないよ、そんなわけないじゃない!」

 わたしは、さけぶ。


 小夜子さんだけが自分勝手なわけじゃない。

 もし、わたしが小夜子さんみたいに頭がよかったら、ポチに神さまのルールのことを聞いていなかったら、小夜子さんと同じことをしていたと思う。だけど、


「……でもね、だいじょうぶだよ。わたしには小夜子さんがいるもん。パパもママもゾマもマイも安倍さんもいるもん。みんなの心の中に、お兄ちゃんがいるもん」

 わたしは言った。

「そっか。よかった……」

 ポチはさみしそうに笑った。


 だって、わかっちゃったんだ。


 ポチはわたしのために、ハチドリのすがたになって来てくれたんだ。

 でも、ほんとうは4人のテスカトリポカさまのうちの1人だった。

 だから、あの場所に帰らないといけないんだね。

 遠いところに行ったお兄ちゃんみたいに。


 わたしが「行っちゃヤダ」ってわがままをいったら、困るんだよね。

 お兄ちゃんがいないってことを言わなかった、みんなみたいに。だから、


「ありがとう、ポチ。楽しかったよ」

 わたしはポチを心配させないように、ニッコリ笑った。

「ボクもだよ」

 ポチはものすごいいきおいで羽ばたきながら、器用に笑った。


「チカちゃん、元気でね」

 ポチは、やさしい声で言った。

 ちょっとお兄ちゃんに、にていた。


「チカちゃんには、たくさんの時間が残されてるんだから、人生を楽しんで。そうだ、ボーイフレンドとか作ってみるのはどうかな?」

「ポチったら、おせっかいなことばっかり。……でも、考えておくね」

 わたしは笑う。

 すると、ポチも笑う。


 2人とも笑ったまま、ふたたび目の前が白くなった。


 そして、気がつくと、今度こそ元の世界にもどってきていた。


 小夜子さんが、魔法のもようの中心から出てきた。

 もようのはしっこには、空っぽのビンが転がっている。

 パックは、いなくなっていた。

 きっと【白昼夢の世界】にもどったんだ。


 ここには、もう、ポチもパックもいない。

 魔法の世界から来た神さまも妖精も、みんな帰っちゃったんだ。でも、


「なんてこった! いきなりこうげきをくらっちまった……」

「ふかくをとったわ……」

 マイや安倍さんや、ガードマンたちも目を覚ました。


「そうだ! チャビー、ぶじか!?」

 マイが、わたしを心配してくれる。

 起きたばかりでフラフラしてるのに。


 マイの心の中にも、お兄ちゃんがいるんだ。

 自分の力をだれかを守るために使う、ヒーローのお兄ちゃんが。だから、


「うん、だいじょうぶだよ! ぜんぶ、ぶじに終わったから!」

 わたしは思わず笑った。そして、


「帰ろっか!」

 元気な声で言った。


 そして、わたしたちは安倍さんの車で家まで送ってもらった。


「チカちゃん、今日は本当にごめんなさい」

「ううん! 気にしないで! また明日ね!」

「ありがとう、また明日」

 小夜子さんを見送ってから、げんかんのドアを開ける。

 すると、パパとママが、まっていてくれた。


「チカ、お帰りなさい」

「夜の学校は楽しかったかい?」

 心配そうにそう言ってくれた。

 わたしは「うん! 面白かったよ!」と元気に答えようとした。

 けど、お兄ちゃんのスリッパを見たら、なみだが出ちゃった。


 泣いたらダメなのに。

 パパとママが心配しちゃうのに。

 そう思うけれど、なみだは止まらなくて、


「ポチが……いなくなっちゃった!」

「ポチ……って、だれなの?」

 ママは思わず首をかしげる。


 そんなママのむねに飛びこんで、わたしは大声で泣いた。

 そしてポチのこと、神さまのこと、【白昼夢の世界】のことをパパとママに話してしまった。


 でもパパもママは、わたしのことを頭のヘンな子だなんて言ったりしなかった。

 ちゃんと話を聞いてくれた。

 そして、わたしが泣き終わってから、


「ひょっとしたら、ようすけが鳥になって、会いに来てくれたのかもしれないな」

「きっと、そうよ。ようすけは、いつもチカのことを思いやっていたんですもの」

 そう言ってくれた。

 すると、なんだか、むねのあたりがポカポカして、あったかい気持ちになった。


 もう一度、スリッパ立てを見た。

 けど、今度はそんなに悲しくはなかった。


 そしてパパとママと、お兄ちゃんのお話をしながら夕ご飯を食べた。

 それからママといっしょにおふろに入った。


 おふろから出てから、お兄ちゃんの部屋をちょっとのぞいた。

 小夜子さんの部屋の明かりは、ちゃんとついていた。

 よかった。

 わたしはニッコリ笑ってから、自分の部屋にもどった。


 なんだか、急に部屋が静かになったみたいだ。

 だって、部屋でひとりでいるのってひさしぶりだ。

 ポチがあらわれてからは、部屋ではずっとポチといっしょだったもん。


 だから、千羽鶴に「おやすみなさい」を言ってからベッドに入った。


 お兄ちゃんがくれた千羽鶴は、もう光ったりはしなかった。

 光の中から妖精が出てきたりはしなかった。


 でも、お兄ちゃんがわたしのために作ってくれた千羽鶴は、わたしをやさしく見守っていてくれる気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ