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3-15 強い女の子に守られるのもいいかもね






「よう! お前ら王様から褒美もらったんだって?」

 詰所に戻ると、さっき行く時に声をかけていた兄ちゃん他数名がオレたちの方に集まってきた。さてはあのオッサン、コイツらに言いふらしやがったな……。オレとリアがニラむと、知らん顔してあっちの方を向きやがる。野郎、後で覚えていやがれ……。

 わいわいと騒ぐ詰所の連中に、もう何度言ったかわからない説明を繰り返しメダルを見せる。ああ、すっげぇ盛り上がってるよ……。きっとこの後、さっきのミーナちゃんたちのパーティーを起点にさらなるウワサが広まっていくんだろうな……。これはもう、ホントにあきらめるしかないかもね……。







 そして、受付。

「おつかれさま! 久々のクエストはどうだったかしら?」

 アンジェラが、満面の笑みでオレたちを迎えてくれる。ああ、今日はもうあんまり話したくないな……。

「あれだけレベルアップしたんだから、今までとは身体の動きが全然違ったでしょう?」

「ああ……うん……」

 暗い表情で、リアが斜め下の方へと視線を逸らす。決してアンジェラと視線を合わせようとはしない。もちろん、オレも。

 それを察したのかどうなのか、アンジェラはターゲットをステラへと変更する。

「ステラちゃんはどうだったかしら? Bランク以上の斧兵なんて、私今までに二、三人しか見た事がないからぜひ話を聞きたいわね」

「は、はい……」

 鬼畜だ、アンジェラ! ステラが押しに弱い事をわかってて集中的に狙うつもりか!

 ああ、ステラさんが困った笑顔で自分の戦いぶりを説明してる……。なんかステラが一つ話をするたびに、アンジェラがすっごい嬉しそうな声を上げてる。こりゃまた新たな伝説として語られるんだろうなきっと、この人の事だから……。

「ねえアンジェラ、依頼の品のチェックお願い……」

 そう言いながら、リアがカバンをかけてるオレをアンジェラの前に突き出す。おい! オレをモノみたいに扱うな! ステラへの助け舟のつもりなんだろうけど! アンジェラも、それに気づいてようやくステラを解放する。

「あら、ごめんなさい。私ったら、つい夢中になってたわ。それじゃルイ君、そのカバン渡してくれるかしら」

「あいよ」

「はい、ありがと。さて……はい、はい、はい。いいわ、全部OKよ。それじゃ、これが報酬の1800リルね。三等分でよかったかしら?」

「うん、ありがと」

 リアが袋を三つもらうと、オレとステラにひとつずつ手渡す。どれどれ……お、銀貨五枚と銅貨が十枚か。最近は1リルが五、六十円くらいとして考えるようにしてる。だから今回の報酬はざっと三万円から三万六千円ってところか。これだけあれば、一週間かなり贅沢な食事ができるな。さすがにモンベールクラスは無理だけど。



 その後、恒例のレベルチェックを行う。リア、ステラともにレベルアップなし。そしてオレも、今回はレベルアップなしだった。

 アンジェラが言うには、オレがレベルアップしなかったのは以前コボルドたちに追い回されたクエストの前のクエスト以来、つまりオレがこっちに来てからは初めての事らしい。よく憶えてんな、そんな事。リアなんか「レベル上がりすぎたんだからちょうどいーじゃん」とか言いながらニラんでくるし。

 ま、どーせオレはレベルアップしても強くなるわけでもないし、どうでもいいんだけどな。




 自分たちが本当にBランクになっていたという事もあり、次回のクエストは相談してから改めて決める事にして、オレたちは終始ゴキゲンなアンジェラに手を振ってギルドを後にした。ふぅ、やっとあの赤毛の魔女から解放されたぜ……。

「ところで、さっきもらったこれはなんなんだ?」

 オレはアンジェラからもらったプレイヤー証明書とやらをピラピラする。

「あ、それ大事だから。誕生日には忘れずに持ってきてね」

 オレに人差し指を突き立ててリアが言う。へいへい、わかりましたよー。

「それでは三日後、夜の鐘の頃にモンベール前ですね?」

「うん、お互いプレゼント忘れないようにしようね」

「はい。それでは、失礼します」

「おう、気をつけろよ」

「ばいば~い」

 ギルド前でオレの誕生会の確認をし、ステラとはそこで別れる。報酬もたんまり入ったし、いつもならこれから打ち上げと行くところだが、今日の感じじゃまた周りのギルドメンバーに何言われるかわからんからな……。しばらくあの店はリストから除外だ。







「まったく、ルイは幸せ者だよ? こ~んな美少女二人に誕生日祝ってもらえるんだから」

「誰が美少女だって? 美女がお子ちゃまのお守りをしてるの間違いだろ」

「はぁ!? 誰がお子ちゃまなのさ!」

「ぐはぁ!?」

 オレとリアは、いつもの帰り道をこれまたいつも通りにやり合いながら歩いていた。リアのローリングソバットをかわし切れなかったオレは、しばらく往来の中うずくまり、やがて再び歩き出す。くっそ、コイツ本気でオレを殺す気か……?

 それからぱたりと会話が途切れる。なんだ、急に黙りやがって……。まさか、意外と本気で怒ってるのか? マズいな、ちょっと声かけにくいぞ。

「あ、そうだ」

 思い出したようにそう言うと、リアが袋をひとつオレに手渡す。

「はい、これあげる」

「なんだこれ」

「なんだはないでしょ。ルイの分のキノコだよ」

 え? オレの分? あれって全部リアの分じゃなかったの?

「いいのかよ? これお前が集めたヤツだろ?」

「いつも言ってるじゃん、私とルイの報酬は半分こだって。いいから、ほら」

「お、おう、サンキュ……」

 ぐいぐいと袋を押しつけてくるリア。オレもそれじゃってんでありがたく受け取る。こいつ、オレの分も集めてたのか……。なんか悪いな……。

 そんな事を思いながら歩いていると、徐々にいつもの交差点が見えてきた。この気まずいフインキのまま別れるのもヤだなあ……なんて思ってたら、リアの方から声をかけてきた。

「ねえ、ルイ?」

「な、なんだよ」

「ルイはさ……強すぎる女の子って、どう思う?」

 はぁ? どうしたんだコイツ? 急にヘンな事聞いてきやがって。

「なんでそんな事オレに聞くんだよ」

「な、なんでって……」

「ははぁ、さてはお前、自分が強くなりすぎたの気にしてるんだろ」

「は、はぁ!? 違うもん、ステラが気にしてたから聞いてるだけだもん!」

 顔を真っ赤にしたリアが、オレの肩をポカポカ殴る。イテ、イテテ! なんだよホント!

 その拳を払いのけて、オレはぶっきらぼうに言う。

「そんなんで嫌いになるわけねーだろ。むしろ守ってもらえる安心感があるから、すっごくいいと思うぞ」

 てか、オレはこいつらにさんざん守ってもらってるし。オレって意外とヒモ気質なのかもな。

「そ、そうなんだ……」

 リアがもじもじと下を向く。あ、ステラの事ばっか言うからヘソ曲げてるのか?

「もちろんリア、お前もだぜ」

「は、はぇ!?」

 オレの一言に、リアが過剰に反応する。なんか目が白黒してんぞ。

「な、何言ってんのさ!? ステラの話なんだから、私は関係ないじゃん!」

 え? なんでオレ怒られてるの? お前がヘソ曲げるからフォローしたんだろが。やっぱ女はわからん。

「そっかぁ……気にならないかぁ……」

 理不尽なキレ方したかと思うと、一転晴れやかな表情になるリア。おい、まさかお前、今単にオレをストレスのはけ口にしたんじゃないだろうな?

 オレがニラみつけるのを気にするでもなく、交差点まで来るとリアが振り返った。

「それじゃ、誕生日楽しみにしててね。プレゼントも用意してあるんだから」

「お? おう……」

「じゃあね。おやすみ」

 明るい声でそう言うと、リアはるんるんと家の方へ行ってしまった。な、なんであんなに上機嫌なんだ……? むしろ、ちょっと怖くなってきたぞ……。

 まあでも、家族以外の誰かに誕生日祝ってもらうのってすっごい久しぶりだしな。ここは素直に楽しみにしてよっと……。







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