4-2 いろんな歌を試そう
二十一階、地下だというのになぜか明るく、ちょっとした草原が広がるフロア。その中でも結構開けたエリアでオレたちはいろいろと試していた。さっきから歌いっぱなしでノドがヤバいぜ……。
歌の効果なんだが……う~ん、どうだろ? ハッキリわかった事と言えば、歌わないと体が普段どおりにしか動かないって事くらいか。少なくとも、歌に身体能力を上げる効果があるのは確かなようだ。それと、効果は竪琴に負う部分が大きいらしく、伴奏を弾いているだけでも結構効果はあるらしい。
「やっぱルイは歌ってナンボだよ」
「私も素敵だと思います」
「いやー、テレるなあ」
「ここで調子に乗らないヤツだったら、彼女の一人や二人とっくにできててもおかしくないのにねー」
「ほっとけ!」
それはむしろこっちのセリフだ! 余計な一言を言わなけりゃコイツはそれなりにはカワいいのによ! だから男の一人もできねえんだよ!
「いえ、でも本当に素敵ですよ?」
「え、あ……サンキュ……」
ステラは逆にそんなに気を遣わなくていいから! オレ褒められ慣れてないからリアクションに困るって!
「でも、ホント体が軽くなるんだよねー」
「はい、ルイさんの歌を聴いていると、どんどん力がみなぎってきます」
実験ではリアとステラにその辺の木の棒で模擬戦をやってもらってるんだが、その凄まじい事凄まじい事。リアが残像できるくらいのスピードで切りこんだかと思えば、ステラの一撃が地面に大穴開けるんだぜ? 一体どんな威力なんだよ! てか、その衝撃に耐える木の棒もどうかしてんだろ!
「これでどの歌でどのステが上がるのかまでわかれば、いろいろと戦略の幅も広がるんだけどなあ……」
「すて?」
「力の強さとか素早さとか、そういうもろもろの能力値の事だよ。固い敵なら力上げるとか、ノロマ相手ならスピード上げて完封狙うとか」
ウィンドウ開いて各ステータスを数字で確認とかできればわかりやすいんだが、そんな便利なモンはない上に、歌で強化されてるのはオレじゃなくリアたちだもんなあ……。そのリアたちが「なんかちょっとは違うかもー」とか「あまり変わらない気がします」とかあやふやな事しか言わないんだから、オレには判断のしようもないわけだ。
「あー、それは確かに便利だね。それと、そういうのは普通戦略じゃなくて戦術って言うんじゃない?」
知るか! オマエは国語の先生かよ! てか、戦略と戦術って何がどう違うんだよ!
「まーでも、どの歌でもすっごく体が動きやすくなってるよ」
地面に腰を下ろしたリアが、後ろに手をつきながら言う。
「あ、でも自分の名前が歌に出てきた時はさらに力が湧いてくる気もするかな」
「え、マジで?」
それがホントならスゴい発見じゃないか? それって歌詞によって効果が変わってるかもしれないって事だろ? まあ、単に気のせいなだけかもしれないが、試しに動きが速くなりそうな単語盛りこみまくった曲とか作ってみるかね……。
「まあ、さすがにラブバラードだと他の曲より体は動かないように見えたけどな。歌によって強弱もあるっぽいか」
オレがバラードに話題を移すと、二人の顔が赤くなる。
「あ、あれは力がみなぎると言うより、なんかヘンな気持ちになるんだよ……」
「そ、そうですね……」
そうなのか? て事は、精神に作用するとかそういう特殊効果もあるって事? なるほど、一応歌によっても違いはあるみたいだな。もっとも曲のどの要素に関係してるのかが今イチわからんけど。まあ、とりあえずいろんなジャンルの曲を試す必要がありそうだな……。こんな事なら、もっとマジメに音楽勉強しとけばよかったわ。
それにしても、二人ともなんでそんなに赤くなるのかね……。やっぱシスヤンのラブソングは、国境(?)の壁に関係なく女の子には鉄板って事なのか?
ひとしきり歌の実験と模擬戦を終え、オレたちはしばし語らう。
「そろそろお弁当食べよっか」
「そうですね」
女性陣が、持ってきた弁当を出して準備する。こうして三人草むらに腰かけて弁当食うとか、誰がどう見てもただのリア充ピクニックだよな。
「あー、おにぎり食いてーなあ……」
「おにぎり?」
「あー、わかんねえよな。米っていう粒々の食い物を丸く握った食いモンだ」
「へー、粒々なのにちゃんとまとまるの?」
「そこは適度な粘り気があってだな、中にいろんな具が入ってるんだよ」
「なんだかおいしそうですね」
彼女らの頭の中には一体どんな料理が浮かんでいるのだろうか……。そんな事を考えながら、パンを一切れ手に取り口に運ぶ。
「今日はりんごの手作りペーストも持ってきたんだよ」
「私はバターを用意しました」
「へえ、それも手作りなのか?」
「はい、この日のために作ってみたんですが……」
「それは嬉しいな。オレにもくれよ」
「も、もちろんです」
頬を赤らめて、ステラがバターの入った袋をオレに手渡す。その弾みで胸の谷間が目に飛びこんできて、オレまで顔が赤くなる。
「あのー」
やや、いや、かなり不機嫌そうにリアがつぶやく。
「こっちにも、手作りペーストあるんですけどー」
「あ、ああ、もちろんもらうぜ」
いや、頼むから昼飯にまでムダな緊張感持ちこまないでくれよ……。女が二人になると、こんなに気を遣わなきゃいけなくなるのか……。
どうやらリアの機嫌も直ったのか、わいわいとメシを食うオレたち。そんな中、バターたっぷりのパンをほおばりながら、ふとリアが声を上げた。
「あ、そうだ!」
「ん、どうした?」
「えんか! ルイ、えんか歌ってよ!」
「あ、そうだった」
なんか忘れてる気がしたんだが、そういやこれがまだだったな。てかわざわざこの日のために作ったのに、何忘れてんだオレ。
あらかたメシも食い終わってたので、口をぬぐうと竪琴を手にとる。
「それじゃ一曲……」
「いよっ、待ってました!」
「ふふっ」
いや、ホントおっさんなんじゃないのかコイツ? まあいいや、行くぜ! はるぅうかぁ~、きたぁ~にぅわぁ~……。
「あっはははははは!」
おい! 人がマジメに歌ってるそばから爆笑すんな!
「何それぇ~? うぉまうぇぬぉうぉうぉうぉ~。あっははははは!」
コブシのモノマネがいかにもバカにした感じで腹立つな、おい! ま、ある意味これもウケてると言えなくもないのか……?
一曲歌い終わると、そこには笑いすぎで悶絶するリアの姿があった。
「ひぃ~、もうダメ、最高……。死ぬ、死ぬ……」
「お前なあ……」
「これなら、ハァ、バトルでもきっと、ヒック、敵が動けなくなるよ……」
「まず真っ先にリアが戦闘不能になりそうだけどな」
やれやれ、これじゃバトルには使えそうもないな……。
「でも、なんだかとっても心に沁みる感じがしました」
お、さすがステラ、よくわかっていらっしゃる!
「だろ? 正直オレもバカにしてたジャンルだったんだけど、作ってみるとなかなかいいんだよな。やっぱ食わず嫌いは良くないわ」
「ヒッ、そだね、これならすぐに、イッ、人気者になれるよ……」
リアの回復を待って、オレたちは三十二階へ向かう事にした。




