2-7 オレって、もしかして信頼されてる?
ゲートを抜けてようやくギルドに到着。さっさと受付に向かう。
はぁぁ、マジ疲れたぜ……。誰だよ、こんな石集めて来いとか言ったヤツ……。相変わらずリアは手さげカバン持とうとしないしよぉ。ダンジョン抜けたんだから、お前が持たない理由ってもうないだろ。
「はー、疲れた疲れたぁ」
オマエがそれを言うのかよ! 石を背負ってるオレの前で!
「ルイ君、今日は本当お疲れね……」
受付に行くと、アンジェラが憐れみの目でオレを見る。わかってくれるのはアンタだけだよ……。
「もう、絶対こんな仕事やらねえ……」
「なーに生意気言ってんのさ。仕事選べるような身分じゃないでしょ。働かざるもの食うべからず、だよ」
だから石持ってないオマエがそれを言うな! てか、コイツわざと言ってるだろ!
「リアもあんまりルイ君いじめちゃダメよ?」
オレからリュックと手さげカバンを受け取りながら、アンジェラがリアをいさめる。てか、ずい分軽々と持つなあ……。前も思ったけど、この人って実はすごい高ランクプレイヤーなんじゃないか?
「はい、オッケーよ。それじゃ報酬持ってくるわね」
「今回は結構もらえるんだよねー。900リルだよ、900リル」
「そりゃこんな重労働で報酬安かったら誰もやらんわ」
それに高いって言っても、三十階付近なら相場は700リルから800リルってとこだしな。大してありがたみもないわ。
「さて、今回はリアのレベルアップね」
アンジェラが最早おなじみとなった腕輪を持ってくる。それをはめるリアも慣れたもんだ。
「さー、いっくよー」
腕輪をはめるとまず九個の珠が光り、次にググッとバーが伸びていく。そして腕輪を一周し、十個の珠が全て明るくなった。
「やったー!」
「おめでと。レベル31ね」
思いのほか喜びをあらわにするリア。そんなに嬉しいもんなのね。
「これでリアも晴れてCランクプレイヤーよ」
「へへーん、これで仕事の幅がぐーんと広がるね」
「正直、リアはずい分前からCランク相当のプレイヤーだったからなんだか今さら感があるわね」
「いやいや、DとCじゃ天と地ほどの違いがあるよ」
ああ、わかるわかる。カップもDとCじゃ大違いだもんな。リアはAか、せいぜいBってとこか。
「……ルイ、今なんか凄い失礼な事考えてたでしょ」
「え? い、いや、何にも?」
コイツ鋭いなオイ! てかこの世界にも胸のカップって概念あんのかよ!
「さて、次はルイ君よ」
「へいへい」
オレはもう一つの腕輪をパチッとな。今レベル22なので、まず一つ珠がつく。おお、バーがグングン伸びる伸びる。そのまま三周して、球が全部で四つ点灯した。
「また3レベルアップね」
「もー、ルイ、ずるいー」
リアが不服そうにオレにつっかかる。いや、そんな事言われてもな。
「歌わないと成長遅れるって言ったのはリアだろ」
「確かに言ったけどさー、ついこないだまではこんなに急成長しなかったじゃん」
こないだってのがいつの事なのかわかんないけどな。
「ルイ君がこれでレベル25だから、パーティーランクがCになるのも時間の問題かしらね」
「あー、そうだ!」
なんだよ、いきなり大声で! 人の耳元で叫ぶんじゃねえ!
「今度うちのパーティーに新しい子が入るんだよ」
「あら、そうなの?」
「中央ギルドの子なんだけど、今度シティに移ってくるはずだよ。あ、そうだ! アンジェラが仕事なら、あさって紹介するね」
「中央の子なの? あさっては仕事だから楽しみね」
「それじゃ、忘れてなかったら来るね」
「わかったわ。今日はお疲れ様」
「うーっす」
「またねー」
微笑むアンジェラに手を振り、オレたちはギルドを出た。あー、なんか体がすっげえ軽く感じるぜ……。
で、家への帰り道。
「あ、そうだ」
「どうした?」
「報酬、ステラにあげる分考えなきゃ」
「あ、そうだった」
不当な重力からの開放感ですっかり忘れてたぜ。
「今回の報酬が900リルだからー、100リル渡せばいいかな? 残りも分けやすいし」
「ああ、いいんじゃないか? それで」
ま、オレはその辺はよくわからんから、リアにまかせきりなんだけどさ。
「てかよぉ」
「ん? なになに?」
「オレたちいつも報酬等分してるけどさぁ、ホントにあれでいいのか? いつもリアが戦ってんじゃん」
ま、今日に限ってはむしろオレの方が多くもらいたいくらいだけどな!
「え、何? ルイってそんな事気にしてたの?」
ポカンとした顔で、リアがオレを見つめる。
「二人でクエストやってるんだから、報酬を山分けするのはあたりまえじゃない」
「いや、でもリアの方が働いてるのにオレと分け前が同じってのは不公平と思わない?」
「え、ルイはそんなに私にたくさんもらってほしいの?」
「そういうわけじゃないけどよ」
ふーっと息を一つ吐き、頭をかきながらリアがかぶりを振る。
「それはさ、発想が逆なんだよ」
「逆?」
「そ。仕事しただけ分け前をもらうんじゃなくて、分け前の分だけ仕事するんだって考えればいいじゃん」
手を頭から離し、リアがこちらに顔を向けた。
「だから、仕事の分だけ分け前をどうこうするってんじゃなくてさ」
リアが言葉を続ける。
「もらい過ぎだと思うんだったら、それに見合うだけがんばって働けばいいんだよ」
そんなの当たり前じゃん、って顔で言うリアに、正直オレは頭を鈍器でぶん殴られたような衝撃を受けた。そんな発想、全然なかった……。なんかちょっとだけ、リアがまぶしく見えるのは気のせいだろうか。
あれ、でもそれってやっぱリアには損な話じゃないか? オレがサボっても分け前半々って事だろ? リアはその辺わかってて言ってるのか?
「なあリア、その考えだとさ、もしオレがサボったらどうすんだよ」
「はぁ?」
オレの疑問に、リアが呆れ顔で声を上げる。
「ルイってば、わかってないなあ」
やれやれと肩をすくめて頭を振るリア。
「アンタは、そんな事するようなヤツじゃないでしょ?」
……え? あれ? オレってもしかして、リアにメチャクチャ信頼されてる?
「そういうわけだから、ルイが気にすることは何もないよ」
オレの背中を一叩きして、リアが笑う。てか痛てえよ! ちったぁ加減を考えろ! せっかくちょっといい話してたのが台無しだろ!
「とは言っても、これからはそうもいかなくなるんだよねえ……」
後頭部で手を組みながらリアがぼやいた。
「ステラが入ったら、あんまりいい加減に分けるわけにもいかないし」
「ああ、確かに」
もっとも、ステラがオレたちのやり方に文句を言う光景ってのも想像しがたいけど。
「ほら、ステラって私たちの決めた事に口出ししなさそうじゃない? それに甘えきるのはよくないからね」
「ああ、そっちか」
確かに、放っておいたらひたすらワリを食いそうなタイプだもんな。
「てか、リアって意外と周りに気を配ってたんだな」
「えー、何ー? 今頃気づいたの?」
「つーか、いつもやりたい放題のイメージしかねえよ」
「はぁ? アンタいつも私のどこ見てんのさ」
右眉を吊り上げてリアがオレをにらむ。それから前に向き直り、明るい声で言った。
「まあ、人気者ってのは大変なんだよ」
なるほど、リアがあちこちで可愛がられるのはこういう地道な気配りがあってこそなのな……。ちょっとカワイくて気に入られてるだけじゃなかったって事か。そんな事を思ってると、リアがこちらをにらんできた。
「また失礼な事考えてたでしょ」
「い、いや? 全然?」
コイツ、ホントにエスパーなんじゃないのか?
「じゃ、あさって迎えに行くからね」
「おう」
軽くあいさつを交わすと、いつもの交差点でオレたちは別れた。それにしても、あさってはどうなる事かねえ……。




