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喪われし記憶と封印の鍵 ~月明かりへの軌跡~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
第三章 ~聖~

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【85】心の準備

 ルース達は道具屋を出た後には薬屋を巡り、そして防具屋によった。

 薬屋は言わずもがな、最低限必要となる物を購入する。

 ソフィーが聖魔法を使えると分かってはいるが、実際どこまでをソフィーでカバーできるかもわからない為、これは当然、必要な備えだといえる。

 ソフィーの魔法については全くこれからであり、そこは追々確認していく事になるのだ。


 そして防具屋は、フェルの希望で立ち寄った。

 フェルの昨年買った胸当てが、もう小さくなっているのだと言う。

 身長も伸びているし体格も変わった為、今まではギリギリ、装着具の皮紐部分で何とか調整していたらしいが、それももう限界という事だった。

 これは必要な物だという事で3人は防具屋に行き、フェルが今まで使っていた物を下取りに出し、新しく胸当てを買い直す。


「なぁ、ソフィーもあった方が良いんじゃないのか?」

 自分の胸当てを購入し終えたフェルから、そう言えばとそんな話が出て、ルースも装備は万全にした方が良いなと頷く。


「そうですね。ではソフィーの分も購入しましょう」

「いえ…私は大丈夫…」

 ソフィーは目を泳がせながら、手を前に上げて遠慮するという。

「ん?いいや、あった方がいいだろうな…」

「私もそう思います。なるべく負担の少ない、軽い物にしましょう」

 ソフィーの言葉には構わずルースとフェルが話を進めていれば、ソフィーがおずおずと口を挟んだ。

「いえ…私、そんなに大金は持っていないから、まだ買えないわ…」


 ソフィーの発した言葉を聞いたルースとフェルは、それで戸惑っていたのかと合点がいく。防具は野菜を買うような値段ではない為、当然銀貨単位になる。それをポンと払える少女は、まずいないだろう。


「ソフィー、これは必要経費なので私達がお支払いします」

「そうだぞ?俺らだって少しは持ってるから、大丈夫だ」

「いえ、でも…そこまでしてもらうなんて…」

 ソフィーは買ってもらえると喜ぶでもなく、困ったように恐縮してしまった様だ。


「でも、防具は必要な物なので、用意しないとなりません。もし気になるのであれば、後の出世払いという事にしてください」

「そうだな」

「出世払い…?」

「はい。ソフィーのお金に余裕が出たら、私達に返す…という事です」


 ルースの提案に納得したのか、ソフィーは笑顔に戻り頷いた。

「ええ、そうするわ」

「では、ソフィーの胸当てはどれにしましょう…」

「コレなんかどうだ?」

 こうして3人は、防具屋でフェルとソフィーの胸当てを購入して店を出たのだった。



 ルース達はある程度の買い物も終え、並んで歩きながら町中の様子を見ていた。

「何だかまだ、ここを離れるって実感がないわ」

 ポツリとソフィーが言葉を落とす。

 その声に気付いたルースとフェルがソフィーを見れば、ソフィーは通りを行交う人々を見つめていた。


「ソフィー。急な話で申し訳ないのですが、買い物も順調に済みましたので、少し日程を繰り上げて出発してもよろしいですか?」

 ソフィーにはまだ数日とだけ伝えていた予定だが、今日で出発の準備も殆ど終わった為、急ぎの日程に変更したい。


「早々に出発するという事?」

「おう。ちょっと俺達が、冒険者ギルドに居づらくなったんでな」

「何かしてしまったの?」

 ソフィーが心配そうにフェルを仰ぎ見る。

「俺が何かしたって訳じゃないぞ?この前捕まえた魔物、あっただろ?」

 ソフィーと一緒にいた時に捕まえた魔物といえば、あのスライムしかいない為、ソフィーはこくりと頷く。

「あれがちょっと…ここじゃ言えないけど、ヤバかったんだ」


 フェルの言い方では不安をあおりそうだなと、ルースは苦笑して口を挟む。

「話題になりなりそうな物でしたので、その話が表に出る前にここを離れたいのです」

 フェルの話にやはり勘違いしそうになっていたソフィーが、危険な物じゃなかったのねと笑みを浮かべて頷いた。


「それに昇級の話があったもんで、パーティに入れろって人まで出てきたんだ。だからギルドに顔を出し辛い」

「え?パーティに?」

「そうなのですよ。自分から売り込みに来る方がいるとは思ってもいませんでしたので、少々面食らってしまいました」


 ルースとフェルの話に、ソフィーは目を見開いて「すごいわ」と呟く。

「な?凄い奴がいるだろう?」

「そっちもそうだけど、入れてくれって言われる事が、すごい事ではないの?そんなパーティに私が入って良いのかしら…」

 ここにきてソフィーの不安を煽ってしまったのか、そんな言葉を発する。


「良いに決まってるだろう?俺達はソフィーを仲間だって認めたんだ。さっきルースも言ったけど、ただ強いからってだけで、仲間には入れてやんない」


 何だか子供の様に言うフェルに、ルースとソフィーはクスリと笑う。

「なんで笑ってんだ?」

「いえ、フェルの言い方が…“やんない“って、子供みたいだなと思いまして」

 ルースがクスクス笑いながらそう言えば、「“やんない“もんは“やんない“んだ」と意地になって言い返す。


 その言い合う2人にソフィーは笑みを深め、3人は笑いながら町中を進んで行った。


「そんな事もありまして急な話になりますが、明後日の早朝にはこの町を出ようと考えています」

 ルースの話にソフィーは目を瞬かせると、神妙な面持ちで頷く。

「分かったわ。女将さん達にもそう伝えておくから」

「では、これから私達もそちらへ一緒に伺いますので、その時にでもお伝えしましょう」


 そろそろ夕方にもなろうかという時間のため、ソフィーを店まで送っていくつもりでいたルースがフェルに目配せをすれば、フェルからも同意の視線が返ってきた。


「ありがとう。女将さん達も2人にはちゃんと会いたいって言ってたから、嬉しいわ」

 3人は賑わう通りを歩き、程なくすればソフィーがお世話になっている食堂へと辿り着いた。



 幸い店はこれから夜の営業をするため、準備中となっていた。

 店の扉を開けて中に入って行くソフィーを見送り、ルースとフェルが店の前で待機していれば、時を置かずにソフィーが扉の中から顔を出した。


「今、大丈夫だって。入って」


 ソフィーに促され、人のいない食堂に入っていくルースとフェル。

「こんにちは。お邪魔いたします」

「お邪魔します」


 2人が店内に入り扉を閉めれば、カウンターの傍に先日見た女将と、始めて見る大将らしき人が並んで立っていた。

 ソフィーはルース達の傍に立つと、まず2人を紹介した。

「こちらが話した冒険者の人達で、金茶の髪がルースさん。こちらの蒼い髪の人がフェルゼンさん」

 紹介された2人は、それぞれに頭を下げる。


「私はこの前、お店で顔は見たわね。私は“ケリー“、こっちは旦那の“マイク“よ」

 そう続けて話し始めた女将は、口を閉じた後じっと2人を見つめている。少々品定めの様な視線にも感じるが、それは隣に立つ大将にも感じるものであった。


 少々緊張感が漂う店内に、そこでルースの声が響く。

「私達は、C級冒険者パーティで“月光の雫“と申します。これからソフィーさんと行動を共にし、国中を巡るつもりです」


 ルースの言葉を聞いた女将達は、ピクリと身じろぎをした。

「…C級?」

「はい。昨日、C級に上がりました。ですのでそのランクに恥じぬよう、全力でソフィーさんをサポートしていきます」


 淀みのないルースの言葉に、先に緊張を解いたのは女将だった。

「そうかい…ソフィーを護ってくれるって事だね?」

 念押しするように女将が言えば、ルースとフェルは大きく頷いて返す。


「ソフィーはね、私達の友人の娘なの。今では私達にとっても、本当の娘の様に可愛く思ってる。そんな大切な娘が、いきなり冒険者になるって言い出したから何かと思えば、貴方達と出会ったから、なのね…」

「そうとも言えますが、そうではないとも言えます」

 ルースの言葉を聞いた女将たちは、不思議そうな顔をしてルースをみた。


「ソフィーさんは今まで、魔法使いになるべく勉強をしてきました。それは何があろうとも諦めず、これからも延々と続けていく事でしょう。もし私達と出会う事がなくともそんなソフィーさんには、私達と同じような出会いが待ち受けていたと思います」

 ルースは何を根拠にしてか、確証を持ってそう言い切った。

「何でそう言い切れるんだ?」

 黙っていた大将も、いぶかし気にルースに問う。


「それは、ソフィーさんが聖魔法使い、だからですね」


 その言葉を聞いた女将と大将は勢いよく顔を向け、唖然とした表情を浮かべてソフィーを見つめたのだった。


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