【137】会話の中に
スライムの完了報告を終えて冒険者ギルドを出た4人は、そこでデュオーニと別れた。
その後はシュバルツと合流し、一旦町中へ出て食材の買い出しを済ませると、ルース達は冒険者ギルドの宿へと戻り部屋で夕食を済ませた。
今ルース達は今日の反省会として、お茶を飲みながら話しているところだ。
「あの森は人が多いから、スライムは少ないな」
「そうね。狩人達は常に森にいるみたいだし」
「じゃぁ、もうスライムは受けない方が良さそうだな」
「スライムと言うよりあの森に入るためには、シュバルツを護る何かが必要ね」
「そうだなぁ…」
話し合いの席にいるシュバルツは、大人しくフェルの肩に留まっている。
『今日ハ獲物ニ気ヲ取ラレテ,油断シタダケダ』
「そう言って、前も同じような事がなかったか?シュバルツ…」
フェルの言いたい事が分かったらしいシュバルツは、聴こえなかったように横を向いてしまった。
「まぁシュバルツにも気を付けてもらう事は確かだけど、何とかならないのかしら…」
ソフィーも、ルース達がシュバルツと出会った時の事は話に聞いて知っているが、今はこれからの事を心配しているのだった。
「そう言えばあいつら、印って言ってなかったか?」
「あっそう言えば、言ってたわね」
ルースは、あの場での会話をあまり覚えていなかった。ただ目の前が赤く染まっていた事しか、正直覚えていないのだ。
「ルース、どうする?」
全く発言をしないルースに、フェルが尋ねる。
いつも纏めるルースが黙り込んでいる為、フェルは訝し気に眉をひそめていた。
「大丈夫か?」
「はい…ただ、あの人たちの事を私はあまり覚えていないので、何とも…」
「まぁ覚える必要もないから、それは問題ないが…ルースはガチで怒ってたもんなぁ。流石の俺も、ちょっとビビった」
そうだったかなと、ルースはコテリと首をかしげる。
「そうでしたか?」
「ええ。ルースの魔力がいつもよりピリピリしてて…ちょっと私もびっくりしちゃった」
ソフィーまで怖がらせてしまったらしいと、2人に謝るルースだった。
「ふだん怒らない奴を怒らせると、怖いという事だな」
と、それに軽く流したフェルとソフィーは、笑って返したのだった。
「それで、その印というのは何ですか?」
「あいつらがそう言ってたんだよ。何か目印を付けないとダメって事なんだろうな」
「そうね…じゃぁ明日はクエストをお休みして、シュバルツに似合いそうな物を探しましょうよ」
「そうするか」
「そうですね、そうしましょう。そのついでにマジックバッグも見たいですね」
「「確かに」」
ソフィーとフェルが同時に言えば、それで笑いがこぼれる。
「それでは明日は休日にして、シュバルツの身に着けられる物を探し、マジックバッグも見てみましょう」
「あ、だったら俺は又、防具屋とかも見たい」
そう話すフェルにルースは頷き、そしてソフィーを見る。
「ソフィーも今使っている防具が小さくなっているようですから、明日はフェルと一緒に見てみましょう」
「そうね。まだ使えるかなとは思っていたけど、確かに少し小さいかもね」
バレていたのかというように笑ったソフィーは、2人と出会った頃より身長も少し伸びているし、体形も変わってきているため、2人には言っていないが胸当てが少々キツイと思っていたのだ。それで有難く、ルースの話に頷いたソフィーなのである。
こうして翌日は休日とすることにしたルース達は、部屋で魔法の練習をしたり明日の事を話しながら、この日の夜を過ごしていったのであった。
-----
一方、この日ルース達と別れたデュオーニは、町の北東にある自宅へと真っ直ぐに帰っていった。
湖音鈴より奥にあるこの地区の住人は、狩人も多く、割とさばさばした者達が住んでいると言えた。今日森で会った者達は知り合いではなかったが、きっと狩人ギルドに所属している者だろうとデュオーニは思っている。
そこへ戻った彼らが、従魔を連れている冒険者がいると報告してくれていれば、シュバルツもネージュと呼ばれている犬も、安心して森の中に入っていけるはずだとデュオーニは考えていた。
従魔を連れた者もたまにこの町に来ることがある。
そして、その時には間違えてその従魔に手を出さない様にと、狩人ギルドに知らされる事になるのだ。
以前、狩人が間違えてその従魔を攻撃してしまった為に、その冒険者と問題を起こしたことがあったのだ。
それ以降従魔だと判別できるように、何かしらの印を身に着けて欲しいと冒険者ギルドへも伝えていたのだが、今回彼らはそれを知らなかったようだし、ネージュと呼ばれている犬には首輪がついていたので、デュオーニも大丈夫だと思っていたのだ。
しかし、そのネージュ以外にも鳥の魔物まで連れているとは、冒険者ギルドもデュオーニも気付いていなかった為に今回の事が起きてしまった。
確かに鳥の魔物であれば、冒険者ギルドにわざわざ連れて入る必要もなく、外で自由にさせていた為にその話を聞く事もなくそのままでいたのだろう。
自分が紹介された時に先に気付いていればと、デュオーニはまた自分の不甲斐なさにため息を吐いたのだった。
デュオーニは帰路につきながらそんな事を考え、次回会った時には印の事を彼らに伝えようと家の扉を開けて中に入っていった。
「ただいま」
「お帰り」
すぐに男の声がして、デュオーニはそちらへ顔を向けた。
「ただいま父さん」
「おう、お帰り。今日も無事で良かったな」
そう言って笑った父親は、慣れた様子でお茶を入れてくれる。
そしてテーブルの上にデュオーニの分のお茶を置くと、お茶を置いた手で椅子を引いて自分も腰かけた。
デュオーニの父親は、弓士で元狩人だった。
しかしデュオーニが小さい頃に大怪我をして、利き腕である右腕が使えなくなりそれで狩人を辞め、今は片手で出来る家事をしたり、左手でナイフを投げる練習をしている姿を見る。
父親がなぜ怪我をしたのかデュオーニは知らないが、傷跡を見れば右腕がズタズタに切り裂かれており、その時に腕の筋まで傷めてしまったらしく、そのまま動かない右腕になってしまったのだ。
その時にすぐポーションがあれば良かったのかも知れないが、それも用意がなく処置が間に合わなかったという事だった。それに回復魔法をかけてもらえる程の金も用意できなかった様で、今は母親が狩人ギルドの職員として働きに出て生計を支えていた。
その為本当なら、デュオーニがこの家の生計を支える位に金を稼がないとならないのだが、それも現実的には難しく、なるべく家族に迷惑をかけない様にと頑張って冒険者を続けていたのだった。
「今日のクエストは、スライムだったんだ」
出してもらった茶に礼を言って椅子に座ったデュオーニは、今日のクエストを報告する。
「ほう、スライムか。俺も一度見た事があるが、こちらに気付いたスライムが跳ね回って逃げて行ったのを見て、流石に追いかけるのは諦めたなぁ」
懐かしい記憶を見ているかの様に目を細めた父親は、デュオーニのいつになく嬉しそうな様子に、それを仕留めたのかと笑みを見せる。
「今日は、そのスライムの対峙方法を教えてもらって1匹射させてもらったんだけど、その方法だと殆ど動かないスライムに当てた状態になったから、自慢できるような事は何もないんだ。昨日話した人達…いたでしょう?」
「ん?リヴァージュパンサーから、助けてくれた人達か?」
「うん。その人達と今日またギルドで会って、それで一緒にそのスライムのクエストを受けてきたんだよ」
「そうか」
「その人達がスライムのコツを教えてくれてね、それで苦労もなしにスライムを捕まえる事が出来たんだ」
「そうだったんだな。スライムは低級の魔物だが買い取り額は良いと聞くからな。そうやって教えてもらったなら、次回からはデュオーニもスライムの買い取りを目指して、クエストを熟せるようになるかもしれないな」
「そうなんだよ。その買い取りはね、1匹8,500ルピルにもなったんだ。小さい魔物が1匹200ルピル位と考えると、とっても効率が良い魔物だったんだよ。それに今日僕が仕留めた分は、僕の買い取りにしてくれたんだ…」
「そうなのか?」
「うん。それと今日は薬草も摘んでいたから、その分とクエスト代で銀貨分位もらう事ができたんだよ。いつも失敗ばかりしてて余りお金を入れられないけど、今日はしっかり稼げたから安心してね」
そう言ったデュオーニは、嬉しそうに父親に報告した。
「そうか、親切な冒険者もいるもんだな。その人達は旅の冒険者なのか?」
「うん。昨日助けてもらった時に、この町に着たばかりだと言っていたよ」
「では、その人達がいる間に、恩返ししなくちゃな」
「そうだね。もう既に色々と助けてもらってるから、それは僕も考えてたんだ。彼らは2か月位はこの町にいるって言っていたから、その間に僕が出来る事は何でも手伝いたいと思ってる。あ、その人達は冒険者ギルドの宿に泊まっててね…―――」
いつになく楽し気に話すデュオーニに、父親である“トーマス“はその笑顔が曇る事がないようにと、微笑みながら見守っていたのだった。




