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75. 死闘、旧跡に轟き、なのですわ!

 リリアは、目の前の光景に圧倒されていた。


 しかしてそれは、彼女の生来持ち合わせた気の弱さ故ではない。


『グハハハハ! 中々楽しませてくれる!』

「こっちは欠片も楽しくねえですわ!」


 ルヴィアリーラが振るう星剣アルゴナウツと、ボルグートが振るう魔剣グランヴォルカがぶつかり合うたびに飛び散る、黒き炎の渦とでもいうべきものが余波として自身に降りかかってくるために、彼女を支援しようにも動けないのだ。


 それは、ルヴィアリーラもまた理解していた。


 サングレトロール、トロール族の最上位種に限りなく近いボルグートの腕前は、御前試合で戦った、ロマーノ伯や、下手をすればスタークにも匹敵しかねない。


 加えて、ボルグートが持っているあのグランヴォルカなる黒炎の魔剣は、以前にガーロンが持っていたグラトニーターと同様に刃が触れた相手や、魔炎が掠めた相手から魔力を吸収するという性質を備えていると見た。


 ルヴィアリーラは打ち合うたびに己の中から力が少しずつ削り取られていくような感覚に辟易しながらも、なんとか「鑑定」を、そうでなければリリアが支援できる時間を作り出せないかと思案する。


『策に頼るか、人間よ!』

「うっせえですわ! 頭でもなんでも……使えるもんは使うのが戦いってもんでしてよ!」

『グハハハハ! その通りだ! ならば……それを潰すのもまた戦いということだ! オオオオオオッ!!!』


 ルヴィアリーラからの一撃を敢えて喰らう形で左肩に大きく傷を負いながらも、ボルグートは大きく振りかぶった魔剣グランヴォルカを薙ぎ払い、攻撃に姿勢を向けたルヴィアリーラに向けてその魔炎を纏った一撃を直撃させた。


「が……っ……!」

「……お姉様!」


 しかし、魔炎はルヴィアリーラを包み込み、舐め取っただけに留まらず、リリアに向けても襲い掛かる。


 回復魔法を撃たせる暇など与えるかとばかりに、魔炎を強制的に振り切ったルヴィアリーラの頭上に向けて、ボルグートは再び振りかぶった魔剣グランヴォルカを唐竹割りの形で振り下ろす。


 形勢は、極めて不利だ。


「ちいっ!」


 ルヴィアリーラは辛うじてその一撃を回避しながらも、余波として発生する魔炎に体力を蝕まれながら舌打ちをする。


 聖衣ローズリーラも、母の形見として持ち出してきたものであって、詳細な性能については把握していなかった。


 だが、魔炎に呑まれても燃え尽きることなく護ってくれている辺り、相当頑丈に作られている代物なのだろう。


 ルヴィアリーラは拾い上げた幸運に感謝しつつも、未だに不利な状況をどう覆すべきかと、剣戟を交えながら頭の片隅で思案する。


 少なくとも、自分はともかくとしてリリアがボルグートから攻撃をもらえばただでは済まない以上、前線から離れるという選択肢はない。


 リリアも巻き起こる魔炎や爆炎から逃れつつもルヴィアリーラに詠唱を完全に破棄した初級回復魔法をかけるなど、支援に奔走しているが、この魔炎の性質の厄介なところは、継続的にダメージを与えることだ。


 加えて、魔剣グランヴォルカの性質も相まって、長期戦になればなるほどこちらが不利だということも火を見るより明らかだろう。


「『霧氷よ(Glacies)』!」

『生半可な魔法ではなあ!』



 リリアが一瞬の間隙を縫う形で一説詠唱による水系統の上級魔法を、ボルグートは自慢の魔剣で文字通り断ち切ると、擦り切れたような声で高笑いを上げた。


 振るわれた魔剣から走る炎がリリアを再び追跡し、その細い身体を焼き尽くさんと迸る。


「リリア!」

「……っ、お姉様……!」


 ルヴィアリーラが間一髪といったところで介入し、魔炎を断ち切ることでリリアはなんとか無傷で状況を切り抜けることができたが、しかし、それで何かが変わったかと問われれば、答えは否だ。


 どうにか戦線を維持できているだけマシなのかもしれないが、それにしたって長期戦になればなるほどこちらが不利になるのだからどうしようもない。


 ルヴィアリーラは何かないかと、ボルグートを挑発するように剣先を向け、再び彼と舞い踊るような剣戟を繰り広げながら、ただひたすらに考える。


『迷いながら戦うとは! この俺も舐められたものだ!』

「挑発のおつもりでして? でしたら残念でしたわね!」

『挑発? 弱者に策を弄する必要があるどこにある!』


 言うにも事欠いて、と、ルヴィアリーラは反駁しかけたが、事実として今のところ二人がかりであるにもかかわらず、このボルグート相手には有効打を打てていないのだからそう詰られるのも無理はない。


 ましてや相手はより強き相手との戦いをこそ誉と考えるトロール族の最上位種に近いところまで上り詰めた存在だ。


 確かにそう考えればジリ貧とはいえ、ただ食らいついてくるだけの相手との戦いなど、退屈にすぎないのだろう。


 それでも、ルヴィアリーラは冷静に、しかし内心では激しくブチ切れていた。


 一方的な弱者扱いもそうだが、そもそも後手に回らされて有利を取ることができない状況というのは人を苛立たせるのに十分なものだ。


 だが、逸れば死ぬ。


 ここで血気に任せて攻勢をかけること自体は簡単だ、だが、それはただの悪手にしかすぎないと理解しているからこそ、ルヴィアリーラはもどかしさを覚えているのだ。


 策はないかと問われたのなら、あるにはある。


 迸る魔炎を掻き消し、万能ポーチから取り出した「爆炎筒」を投擲しながら、ルヴィアリーラは一つの可能性を脳裏に浮かべた。


 それは今、星剣アルゴナウツの鍔に収まっている「素たる土の宝珠」の力を解放することだ。


 だが、それがどんなものであるかわからない上に、属性との相性を考えればぶっつけ本番で試すにはリスクが高いと、そう考えて躊躇していたのだが、もうここまで来ればやる他にあるまい。


 案の定、魔剣の力で「爆炎筒」の一撃をも耐え凌いでがむしゃらに剣を振るうボルグートの姿は、どこか「王認勇者」リーヴェの姿を思い起こさせる。


 いや、比べるのはリーヴェに失礼なのだろう。


 彼女にルヴィアリーラが勝てたのは、あくまでも一瞬の隙を、油断をついたからであって、正面から打ち合いを続けていれば勝てる道理はそこになかった。


 ボルグートは──確かに強い。


 強いのだが、それが魔剣と己の膂力に任せた力任せの戦術であることは明白だ。


 ならば、勝てないという道理はない。


 ルヴィアリーラは半ば自分に言い聞かせるように、内心でそう叫ぶと星剣アルゴナウツに秘められた土の力を解放することを決意する。


「『根ざせ』、星剣アルゴナウツ……ジルコン!」


 瞬間、ボルグートも圧倒するほどに凝縮された土の元素、その力がルヴィアリーラを中心に収束し、聖衣ローズリーラもまた、琥珀色と黄金といった色合いにその装いを改める。


 そして、何にでもなれるというその可変性をこそ最大の武器としている星剣アルゴナウツが変じた姿は、大楯と戦斧という、さながら王城の門番を務める正騎士のような、そうでなければ重装歩兵のようなものとなっていた。


『面白い! よもや装いを改めようとはな! だが……我が一撃、その盾で受け止められるか!? グハハハハ!』

「さっきからごちゃごちゃうるっせえですわね! やるといったらやるのでしてよ!」


 ボルグートが哄笑と共に大上段から振り下ろしてきた一撃を、ルヴィアリーラは星剣アルゴナウツ・ジルコンが変化した大楯で見事に受け止めると、副産物として発生する魔炎による二次的被害もまた吸収してみせた。


 星剣アルゴナウツ・ジルコン。その本質は守る力にこそある。


 攻撃こそ鈍重で重くなるものの、現状で、ボルグートが操る魔炎や爆炎からリリアを守るという目的にはこの上なく合致した装備であることに違いはない。


 賭けに勝ったことへ、唇の端をニヒルに吊り上げながらも、ルヴィアリーラは決して油断することはない。


「リリア! こいつはわたくしが抑えますわ、貴女は魔法を!」

「……っ、わかりました、お姉様!」

『グッハハハハ! 切り札まで持っていたとはなあ……ならばその守り、我が魔剣で貫き通してくれようか!』

「させねえと言ってるのでしてよ!」


 金属同士がぶつかり合う甲高い音と、そして魔炎と爆炎が猛る音と熱を旧都に撒き散らし、ルヴィアリーラとボルグートはその矛と盾のどちらが優れているかとばかりに打ち合い続ける。


「おおおおおおっ!」

『グオオオオオオッ!』


 さながら、ここからが第二ラウンドであるとばかりに、ウォー・クライの響きに代えて咆哮を上げると、ルヴィアリーラの星剣アルゴナウツ・ジルコンとボルグートの魔剣グランヴォルカは高らかに、そして猛々しくぶつかり合うのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっとこのボルグートですら規格外のクソチート強いだと思います。。。これからは流石にヤバ過ぎかも。
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