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猫(精霊)になりました。  作者: あさづき ゆう


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ブクマ、評価、本当にありがとうございます。



 結論から言おう。


 手紙は返してもらえなかった。


 何故なら、手紙を回収したら精霊の森に帰ると知られてしまったからだ。ノエルは自分だけ魔法師団で働くのは許せないといって、手紙を返してくれなかった。

 時折、思い出したかのように部屋の中をうろうろして探すのだが、どこにもない。身に着けているのかと思い、お風呂に入っている時に探してみたがやっぱりなかった。


 どこに隠しているのか、本当に不思議だ。


 魔道具の件が片付いた後、コンラッドにもすぐに会いに行った。勝手に死んでしまってごめんなさい、と謝ると泣きながら許してくれた。時々会いに行くと約束をして、治療院の手伝いをしてノエルとまた王都に帰っていった。


 のんびりと人間達の生活を見ながら、ノエルのずっと側にいた。ある日、大量の魔力を送りこまれて、人型になるとすぐさまドレスを着せられた。コンラッドやオスカー、エミリアなど知り合いが集まる中、簡単に結婚式が行われた。わたしの指に指輪を付け、ノエルは優しくキスしてくれた。あまりの感動に涙が止まらず、おいおい泣いてしまったが皆笑ってい見ていた。


 そんな毎日を精霊であるわたしはずっと猫のまま、時折人型になりながら、ノエルの側に寄り添っていた。


 何年も、何十年も。


 その間に、コンラッドも、オスカーもみんな年を取ってそれなりに幸せな中で死んでいった。最後はいつもありがとうと送り出した。皆満足そうな笑顔だったから、涙は出たが辛くはなかった。


「ノエル、聞こえるにゃん?」


 ノエルの皺の増えた顔をぺろりと舐めた。ノエルが薄く目を開く。


「ああ」

「愛しているにゃん」

「幸せだったな」


 ほんのりと笑みが浮かんだがすぐに目が閉ざされた。


「ゆっくりして欲しいにゃん」


 するりとノエルの頬に顔を寄せ、呟いた。


 精霊は長生きだ。しかもわたしは精霊王になるから余計に長い。ノエルがいなくなってこれからどうなるかわからないけど、今以上に辛いことなどないんだろうと思う。他の人と違って、ノエルがいなくなる喪失感は心を重くした。


「お姫さま、行こうよ」

「そうだにゃん」


 迎えに来た精霊たちと一緒に精霊の森へと戻っていく。


 しばらくは沢山泣くだろう。何を見ても何をしてもきっとノエルを思い出してしまうに違いない。そして、その後は少し休むつもりでいた。


 ちょっとだけ、微睡んで元気になったら起きればいい。


 ……そんな思いを抱いていたのに。


「遅かったな」


 精霊の森についたとたん、立ち尽くした。そこにいたのはノエルだ。しかも若い時のノエルだった。20歳くらいのぴちぴち……。


「はにゃ??」

「ほら、人型になれよ。できるんだろう?」


 言われるまま、人になる。そして強い力で思いっきり抱きしめられた。


「はあ、長かった。ようやく同じになれた」

「ええええ???」


 目を白黒させて、ノエルの胸の中で首を捻る。


「俺、精霊になったんだ。しかも、次代の精霊王の守りの精霊」

「なんで??」

「だってお前ひとりだと、心配だろう?」


 まじまじとノエルを見上げる。彼はいつもよりも屈託なく笑っていた。


「本当に?」

「ああ、本当に」

「ずっと一緒?」

「ああ。死ぬまで一緒」


 死ぬまで、と言われてぶわっと涙が出てきた。

 長い間一人だと思っていたのに。大好きなノエルと一緒にいられることが嬉しかった。


「ノエル、ノエル、ノエル」

「ほらほら、泣くな」


 ぽんぽんと背中を撫でられ、しゃくりあげた。


 無理だ、涙なんて止まらない。


「止まらないよ~」

「じゃあ、これで止まるかな?」


 そう言って出てきたのは一通の手紙。


 目を大きく見開いた。


「は?」

「ずっと返せって言っていただろう? まだ読んでいないけど」

「え??」

「どうする? ここで読んでもいいか?」


 見間違いのない手紙。

 ずっと探していた。これを回収するためだけにノエルに会いに行ったのだから。そして色々なことがあった。


「ダメよ! 返して!」

「ふうん、よっぽどのことが書いてあるんだ」


 ノエルが意地悪な笑みを浮かべる。そして封を切った。


「うきゃううう」

「……」


 しばらくの沈黙の後、読み終わったのか、ノエルがかさかさと音を立てて手紙を片付けている。その後、ぎゅっと抱きしめてくれた。


「ノエル?」

「ちょっと感動した」

「「「え?」」」


 反応したのは周りの精霊もだ。彼らはわたしが何を書いているのか知っている。


「愛溢れる手紙だった?」

「ああ」

「ウソだぁ! あれはすでに呪いレベルでしょう??」

「そうだよ。死後にあの手紙が届くんだよ!」


 精霊たちのワイワイと言う声が響くが、ノエルはちょっと顔を赤くしている。


「やだ、照れているの?」

「文字になっているのを見たら、胸にぐっときた」

「良かった」


 一言呟くと、そのままノエルに抱き着いた。ノエルも嬉しそうに抱きしめてくれる。


 これからずっと一緒にいられる嬉しさと、ちゃんとわたしの気持ちが伝わった嬉しさに笑みがこぼれた。



Fin. 




本編はこれで完了です。最後までお付き合い、ありがとうございました。



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