46. 怪異物語 転(1)
「本当は隠しとくつもりだったんだけどね。見つけられちゃったなら、仕方ない。全部話すよ」
『画面グルグルなった』
『配信止まらないで〜』
『仕方ない、他の配信でストーリーを・・・』
(モミジたちは配信が止まったことに気づいていない)
観念したようで、風里は謎を一つ一つ説明し始めた。
「まず、わたしが迷い人であることは間違いない。わたしが異界に巻き込まれたのは確か・・・2011年だったかな」
「20年以上前?でも風里、さっき長居すると怪異化するって」
「確かに長居すれば怪異化するよ。実際に何人も怪異化した人を見たもの。よく行方不明とかで捜査打ち切りになる事があったり、そもそもニュースにならなかったりすることがあるでしょ?その人たちは、結構な確率でここに来てる。で、怪異化するトリガーは、怪異に襲われるのもあるけど、その人の精神によるんだと思う。例えば、筋トレとかで『もう無理!』ってなったらできないけど、『まだまだ!』って思えば続くでしょ?そんな感じ。あと戦えるかどうかも関わってくるね」
「それは、怪異に襲われても撃退できるということですか?」
「その通りよ。丸腰で襲われるのと、あなたたちみたいに対抗手段持って襲われるとじゃ、全然違うでしょ。わたしは一族の力で何とかなってたの」
「だったら、どうして安全な校舎じゃなくて森に居たのです?それも、お札を持たずに」
「それを説明する為に、わたしの友人について説明しなきゃいけないね。わたしがここに来てしまった原因でもある」
それから風里が語ったのは、ボクの生まれる前の話だった。
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2011年3月末、ボクは映像でしか知らない大震災が東日本を襲った月、日本全国が自粛ムードになっていた頃、風里は任務で深夜の学校にいたらしい。お友達を連れて。
「そのお友達が、四宮香さん?」
「そうよ。かおってば、わたしが止めても意地でも着いてこようとして、最終的にわたしが折れたの。今思えば、なんとしてでも止めておくべきだったわ」
そうして夜の緑谷学園を訪れていた2人。当時は連日降り続いた雨で、校庭はぬかるんでいたそうな。
「で、校舎に特に異常がなかったから、校庭の調査をしてたんだけど・・・」
雨の中、傘とレインコートを身につけて校庭を調査していた2人。すると、どこかから地響きが聞こえてきたらしい。
緑谷学園は裏が山となっていて、風里はまず土砂崩れの可能性を考えたみたい。
「その時、かおの腕を引っ張って逃げようとしたんだけど、ぬかるんだ土に足をとられて上手く走れなくてね。おまけに真っ暗だからどこで土砂崩れが起きてるかも分からなくて」
昇降口に行ったら間に合わないと思った風里は、教室の窓を開けて逃げ込もうとしたらしい。けど後ろを振り向いた風里は、すぐ近くまで迫る土砂を目にした。
「かおを連れて教室に入ったんだけど、窓を閉める前に土砂が流れ込んできて、もう駄目だ〜って思ってさ」
衝撃に備えていた風里だったけど、いつまで経っても衝撃はやってこなかった。恐る恐る目を開けた風里の視界に入ってきたのは、教室の窓に映る、鬱蒼とした森だった。
「それがここだったわけ。当時は何が起きたのか理解するのに時間かかったし、わたしはともかくかおに何かあったらいけないと思って」
「それで、1人で?」
「そう。ただ、最近まではかおもここにいてくれたんだけど・・・」
ボクたちがやってくる少しばかり前、いつものように教室に戻ってきた風里は、四宮さんが居なくなっているのに気づいたそう。
「今までずっとわたしの帰りを待ってくれてたかおがいなくなっちゃって、もうどうしたらいいか。必死になって探したけど、見つからないし」
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「それで、あなたたちと出会って、今に至るわけよ」
「そうだったんだ・・・」
「それで、その四宮さんは見つかったのです?」
サクラが聞いた。聞いてしまったの方が正しいかも。風里は俯き、力なく首を横に振った。
「まだ・・・。痕跡も見つからないし、もしかしたらもう・・・ぐすっ」
「よしよし・・・」
涙を流す風里に、いたたまれなくなったのかマリアが優しく抱きしめた。しばらくマリアの胸で泣いていた風里だったけど、なんとか持ち直したみたい。
「ごめんね。今はそんな場合じゃないよね。これ以上がないように、あなたたちを帰してあげないと!」
『ようやく再開したわ』
『グルグル治ったー!』
『今どんな状況?』
『モミジちゃんたちコメント見れてないっぽい?』
覚悟を決めた風里だけど、少し思い当たることがある。
『仕方ないからネタバレするが、他の配信で語られたのは風里ちゃんが異界に来たのが20年くらい前ってこと』
『それだけ?』
『四宮さんは?』
『他の配信でちゃんとトゥルーエンドルート踏んでるのがまだないんじゃ!』
『なるほど納得』
『四宮さんはどういう関係なんやろか』
「ねえ、風里。もしかしたら、四宮さんはまだ無事かもしれないよ」
「え?それってどういう・・・」
そこで、2つのメモを取り出す。
「これ、多分風里に向けたメッセージだよ。当時は気づかなかったのかもだけど」
メモを読んだ風里の目から水が溢れる。
「これを読んだだけじゃ駄目だと思うかもしれない。けど、前にビル行ったでしょ?そこにこれが」
四宮さんの生徒手帳、そして校章を渡す。
「これ、ビルの引き出しに入ってた。てことは、少なくともあそこまでは無事だったってことじゃない?」
そう、もし怪異に襲われていたのなら、引き出しの中にこんなものを入れる余裕なんて無いはず。
『確かに!』
『じゃあまだ生きてる説』
「それに、ロッカーにこれが」
ブレザーを手渡す。
「ブレザーがここにある。けど、ビルにシャツも、靴も、勿論下着も。落ちてなかったでしょ?なら、そこでは無事だったはずだよ」
それに、ビルや道中で女子高生の姿をした怪異とは出会っていない。もし森の中に逃げ込んで、そこで襲われたんだったら分からないけど、それは伝えない方がいいかな。
「もしかしたら・・・まだどこかで・・・?あ、ちょっと待って!」
弾かれたように風里がお札に駆け寄る。
「このお札、最後に見た時より減ってる・・・」
「最後に見たのは、四宮さんが居なくなる前ですか?」
「そう。てことは、お札を何枚か持って・・・?」
「でも使えるのかしら?」
「使える。力を持ってなくても、お札の術式で怪異に対抗できるのは確認してるから」
だったら、ますます四宮さんが無事な可能性があるね。
「風里、希望を持っていこう。もしかしたら、もうこっちに戻ってきてて、上の階にいるのかもしれないよ」
「そうね。大きな気配は、最上階から感じる。それまでにかおがいてくれれば・・・」
瞳に光が灯り、希望を見出したように見える風里。どうやらちゃんとルートを進められたみたい。良かった〜!
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「うちの娘たちが上手くいったみたいよ、稲荷」
「ええ、それも最も素晴らしい形で」
「まさかゲームのイベントに実際の異界とやらが取り込まれるとは思わなかったわ。まあ、そのおかげであなたの力を使わなくても娘たちが帰ってこれそうだけど」
「それに、山神さんのご令嬢だけでなく、そのご友人も救出できそうです・・・。よかった」
「まだ分からないわよ。この後のボス戦であの子たちが負けたら、やり直しよ?」
「まあ、それはモミジさんたちを信じましょう」
ここで、ようやく風里の正体が判明する運びとなりました!また、稲荷さんが狙っていたことも実現しているようで・・・?
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