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ヘレティックワンダー 〜異端な冒険者〜  作者: Twilight
第三章 迷宮都市前編

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第87話 トレジャーハンター ノーナ


 後方からのアギトの渾身の一撃によって、オークジェネラルの首が宙を舞う。

 ボトッという首が落ちた音が聞こえると、オークジェネラルはゆっくりと後ろ向きに倒れた。

 一拍置いてから、俺はアギトに向かって話し掛けた。


「ふー……お疲れ、アギト。いい奇襲だったな」


「むむ。今の攻撃をあまり褒められたくは無いな」


「ん? どうして?」


 俺の言葉に、なにやらアギトが渋い表情をした。


「正々堂々と戦わねば戦士として誇れぬからな」


 そう言い切ったアギトの姿に、まるでやましい事は無く、純粋に本心からそう思っているのだと理解した。


「正々堂々って……でも俺達最後、二体一で戦わなかったか?」


「元々、オークの数が多かったので問題ない」


「ふーん。なら、どんな時でも正々堂々と戦いたいのか?」


「勿論だ!」


「相手が毒や罠を使っても?」


「む……も、もちろんだ!!」


「相手が多数で、アギトが少数だとしても?」


「むむっ……」


 俺の言葉にアギトが目を逸らした。


「はぁ……別に意地悪したいわけじゃないけどさ、どういう時に正々堂々と戦うかくらいは決めておいた方が良いんじゃないか?」


 今回の戦いだって、二体一で戦ったことに変わりはないのだ。

 それをアギトは奇襲という一つの戦法に対して忌避感を持っているように思える。

 そもそも、目の前にいる敵から意識を逸らしたオークジェネラルが悪いのだから、考え過ぎだと思うけどな。

 だから俺は考え方の一つとしてアドバイスした。


 肩の位置が高かったので腕を叩きながら、生活魔法の【洗浄クリーン】を使って汚れたアギトを綺麗にする。

 同時に自分にも使用し、戦利品を回収するためにオークジェネラルの方に向かった。

 そこら中にオークの死体が転がる中、鎧を着た首のない死体の前に立った。

 そこで俺は収納する前に、ふと何気なく【鑑定】を使用してみることにした。

 すると、驚きの事実が判明した。


「こいつ、オークメイジだったのか……」


 先程救出した女はコイツの事をオークジェネラルだとか言ってたが、全く違ったらしい。

 ゴブリンジェネラルとの違いは幾つかあった。

 確かにあいつは剣しか使わなかったし、魔法は一切使ってなかったのを覚えている。

 オークジェネラルはその例外なのかと思ったが、そういう訳でもなく種類がそもそも違った様だ。


 それにどうやら寄生もされておらず、意識があったまま戦っていたらしい。

 こいつだけ頭の上にキノコが無いので、間違いないだろう。

 他のオークと違って、一体だけ知性的な行動をしていたのもそのせいか。


「どうしたのだ?」


 俺の声が聞こえたのか、アギトが片手でオークを一体ずつ引きずりながら近づいてきた。

 その後ろには先ほど助けた女も一緒にいる。

 別に置いといてくれれば回収しに行ったのに……。


「いやな。コイツ、オークジェネラルじゃなくて、ただのオークメイジだったらしい」


「なぬ?」


「えっ!?」


 二人そろって驚くが、アギトと俺は反応の大きかった女へと視線を向けた。


「だ、だって、あいつがそう言ったから……」


「あいつ?」


「……私、ここに剣士と槍使いの三人で一緒に来たの。それで、あいつっていうのは私と一緒に来た槍使いの事よ。でも、その槍使いの男は私たちを置いて逃げて、剣士は殺されちゃった」


「そうなのか……」


 ここに来るまでに他の人間らしき人物は見なかったので、おそらく、槍使いとやらも既に死亡している可能性が高い。


「とりあえず、オークから魔石を回収して、アンタの荷物でも取りに行くか」


 仲間が亡くなった人間に対して話しかけにくかったが、当たり障りのない言葉で行動を促した。

 すると――


「えっ、一緒に行ってくれるの! ラッキー! アンタ見かけによらず優しいじゃん!」


 と言って、ボディータッチしてきた。

 先程までと打って変わってすごく馴れ馴れしいが、思ったより元気があるようだ。


 ――それとも、こういうのは女の方が強いのかね……?


 オークジェネラル改め、オークメイジがつけていた鎧を外し、すべて回収する。

 これは高く売れること間違いない。

 それから荷物を回収し、殺された剣士を埋葬しようとしたのだが――


「――本当にここにあったのか?」


「嘘じゃないよ! 本当にここにあったんだって!」


 剣士が亡くなったという場所に行ったのだが、あったのは血痕の付いた地面と剣士が持っていた血の付着したバッグだけだった。

 この言い方だとまるで心霊現象にあったような感じだが、まあ実際変わりはしないか。

 何故ならこれはダンジョンの特性とも言える、死体を吸収するという現象なのだから。

 この現象はエネルギーを吸収する――有体に言えば食事に等しい行為なのだと本に書かれていた。

 その本には、過去のダンジョンマスターという迷宮への支配権を持つ者に問いかけたらしい。


 ――曰く、ダンジョンが活動するためには外部からエネルギーを取り込む必要があるらしく、そのためにこのような異空間を創り出し、魔物と人間を戦わせて効率よくエネルギーを取り込むのだという。

 ついでに、宝箱もそのための罠であり、人間の欲望を刺激する装置だと書かれていた。

 本当かどうかは知らないが、これが現在の通説らしい。


 ――そういえば、何か忘れてるような……。


 そうだ! アイゼンの奴が死んだ人間はダンジョンに吸収されずにアンデッドになると言っていたはず。なのにどうして遺体がないんだ……?

 剣士が亡くなってからここに来るまで三十分も掛かっていないので、それだけの短時間でアンデッドになるとは考えづらい。

 ならば、ダンジョンが吸収したという事は否定できないはず、なのだ。


 ――なのにどうして、こんなに違和感があるんだ……。


 ぐるぐると頭の中を思考が駆け回るが答えは出ない。

 ひとまず考える事を止めて、女の方を向いた。


「それでアンタはこれからどうする?」


 生存者は助けたし、これ以上ここでやることはない。

 だから本人の意見を尊重する事にした。

 一人で帰れるというならそれでいいし、送ってくれと頼むのなら時間はかかるが出口まで送ることも選択肢としてはある。

 面倒とはいえ、助けたのに死なせてしまっては気分が悪いしな。


「うーん、私ダンジョン潜ったの今日が初めてで……」


(……ああ、これは送る方向か)


 空を仰ぎたい衝動に駆られるが、残念ながらダンジョン内に空は無い。

 諦めかけたその時、


「――私も一緒に行っちゃダメ?」


「は?」


 今コイツなんて言った?

 聞くことを放棄してしまったので聞き取れなかったが、 もしかして一人で帰ると言っていただろうか。


「だからー、アンタたちについていって良い? って聞いたの」


「…………なぜ?」


 違ったらしい。

 えっ、俺達についてくる理由ってなんかあったか?

 いや、何か狙いがあるのかもしれない。


「うーん、なんだろう。なんかアンタ達について行った方が稼げる予感がするのよね」


「……そんな理由でついてくる気なのか? オークも倒せないアンタじゃ最悪死ぬぞ?」


「そこは……ほら、アンタが守ってくれればいいじゃない?」


 堂々としたゲス野郎がそこにいた。


「……じゃ、一人で頑張ってくださいー」


 回れ右してダンジョンの奥へと進もうとする。

 すると女はコートを引っ張り、逃がさないと言わんばかりに掴む力を強める。


「ちょっと待ってよ! こんなところに女の子一人で置いていくつもり!?」


「こんなところに来たのはお前の責任だろうが! それにどこが女の子だ! お姫様の間違いじゃねーか!!」


「やだー、アンタ、私がお姫様みたいに可愛いって言いたいの? そんな口説かれても私、軽い女じゃないから」


「別に口説いてねえよ! というか本当のことを言わねえなら連れて行かねえからな」


「いや、本気なんだって! ほら、この目が嘘をついているように見える?」


 俺の顔を下から覗き込むように見つめてくる。

 潤んだ瞳に均整のとれた顔立ちをしている。

 だが、それだけだ。

 一瞬、心臓が跳ねたものの、息を整えるとすぐに心が冷静になっていく。


「――おい、これ以上ふざけ続けるつもりなら、本気でここに置いていくぞ」


 俺が本気で言っている事に気付いたのか、絡んできた女は肩をすくめながら距離を離した。


「冗談が通じないのね」


「別に冗談が嫌いな訳じゃないが、何事にも限度はある」


「……そう。でも、さっき言ったあなた達についていった方が稼げそうというのは本気よ」


「それで?」


「確かに私は魔物を倒すには向いてないわ。だけど、私は役立つわよ」


「ほう、どうやって?」


「言ってなかったけど私、もともとトレジャーハンターなの。だからトラップを解除したり、逆に罠を仕掛けたり、さらに魔物の気配を掴むことも出来る。どう、欲しくなった?」


 誘惑するようにコケティッシュに微笑みながら、しな(・・)をつくる。

 その言葉が真実なら、斥候スカウトとしての適性と技術があることは間違いないだろう。

 けれど既に似たような奴に見覚えがあった。

 その上で――


「……このダンジョンに罠はあるのか?」


「……た、多分?」


 トレジャーハンターと名乗った女は先程までの自信はどこへ行ったのか、目を逸らした。

 ここに居る三人ともダンジョンについて詳しくないので、あるとも無しとも断言できない。

 なので、この提案を断りづらいという思いは少なからずあった。

 周りの人間を見た。


 龍人族ドラゴニュート、知識なし。

 トレジャーハンター、ダンジョン経験なし。

 現代人、常識なし。


(こう見たら俺が一番ひどいな……)


「はぁー……分かったよ。でも、妙な行動はするなよ。後ろから攻撃でもしようものなら女だとしても容赦はしないからな」


 一応、問題が起きない様に警告だけはしておく。


「大丈夫よ。見たでしょ? 私、戦闘能力全くないから。そっちこそダンジョンだからってオーク(・・・)みたいに襲わないでよね」


「何言ってんだお前。そんなことする訳ないだろ……」


「そう、だと良いけどね……」


 不安を煽るような言葉に、首をかしげた。

 ダンジョン内でそんな愚かなことをする奴はただの馬鹿だ。

 もしもそんな奴がいるなら、精神衛生上のために、さっさとダンジョンの栄養になった方が良い。


「それにしても、さっきから“お前”って言い方止めてくれない? 私にだって名前があるの」


「いや、その肝心の名前を知らないんだからしょうがないだろ」


「なら、レディーでもお嬢さんでも、お姉さんでも呼び方なんていくらでもあるでしょ?」


「そんなナンパみたいな呼び方してたまるか!」


 一部、個人的な願望が入ってるだろ。


「変なところで硬派なのね。そんなんじゃモテないわよ」


「余計なお世話だ。俺はユート、こっちは龍人族ドラゴニュートのアギトだ。少しの間だがよろしくな」


「まあいいわ。私の名前はノーナよ。これから(・・・・)よろしくね?」


 ノーナと名乗った女は何か企んでそうな顔で微笑みながら、手を差し出して来た。


「ん? ああよろしくな」


 なんだか違和感を感じたものの、とりあえず手を握り返した。

 こうして俺達のパーティーに、一時的とはいえトレジャーハンターが仲間になった。


お姫様=姫プレイ

分からなかったら、「姫プレイ」で検索してね。


明日の18時に投稿しますが、何時に投稿するのが一番いいんでしょうかね?

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