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ヘレティックワンダー 〜異端な冒険者〜  作者: Twilight
第三章 迷宮都市前編

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第80話 強さへの願望


「マジかよ、おい……」


 どうやら俺は異世界にきてまで、もぐら叩きをしないといけないらしい……。


「……って、あれ? じゃあ、今がそのチャンスなんじゃねえのか?」


 悠長に話している場合じゃなかった。


「まあ、そうなんだけどね。流石の俺も、見たこと無い魔物相手に一人で突っ走るほど、馬鹿じゃないからさッ!」


 アイゼンは言葉を言い切ると同時に、腰から取り出したダガーをミミズ相手に投擲した。

 勢いよく投げられたダガーはぶよぶよとした体に突き刺さると思われたが、当たる瞬間に硬質な音を立てて弾かれた。


「やっぱり、普通のワーム系の魔物とは違うらしいね」


 当然のことのように話が進められていくが、あんな柔らかそうな肉から石のような音が聞こえた事に全く現実味を感じなかった。


(魔法で倒せるか……?)


「えー……。あれ、剣は通じるのか……?」


「さあね? でも、あいつを倒さないとどこまでも追って来るかもね」


「どこまでもって、それって逃げられないってことか? いやまさかな……」


 目の前にいるミミズから逃げきれないとは到底思えないが、一応あれも魔物だ。

 まあ、そういう事もあるかもしれんが、せっかく安全マージンを取って今まで慎重に行動してきたというのに強制戦闘とか止めてもらいたいな。

 そう思いながらも、こういうのを心のどこかで待ち望んでいた自分も確かにいる。

 だからだろうか。口元が自然と笑みを浮かべてしまうのは。


「――まあ、逃げられないんならしょうがないか。とりあえず剣が効くか分からない以上、俺の魔法を主体として戦術を組んでみるか?」


「一先ずそれで試してみようか。ただ見た限り、あのワームは土属性を持っているかもしれないから、出来るなら土以外の魔法を使った方が良いよ」


「土属性以外か。俺、基本は氷か火を主体としてるから問題ないと思うけど、土で戦ったら何でダメなんだ?」


「君、本当に魔法使いかい? 相克は初歩で習うことだと思うんだけど……まあいいや。簡単に言うと、同じ属性をぶつけても効果は半減するけど、モノによって同じ力量なのに属性が違うだけで優劣がつくことがあるのさ」


「あー、五行思想って奴ね。理解した。で、この場合、何の属性が一番効くんだ?」


「……それが分かってるのにどうして知らないのか、全く疑問だよ。おそらく効果があるのは、木属性の魔法だけど、持ってるかい?」


「もく属性ってなんだっけ……?」


「……その反応でもう分かったよ。とりあえず、遠慮はいらないから火で燃やしてくれ」


 呆れたような顔をしながらアイゼンが俺を見てくるが、そんな顔をされても俺のせいじゃないだろうに。全くもって不服だ。


「はいよ! シンプルで分かりやすい提案わざわざありがとよッ!!」


 手の平に炎を生み出し、言葉通りに遠慮せずにブチ当てていく。

 炎で形作った球や槍、矢といったものがミミズの体表に当たり、爆発していく。

 熱が周囲にまき散らかされるのを横目に警戒しながら様子を窺う。

 ミミズは爆発の衝撃で押されたのか()の字に折れ曲がり、硬質な装甲が剥がれて手傷を負わせられたようだ。


「おッ! 期待してなかったけど、装甲をはがした上に手傷を負わせるなんてやるじゃないか!」


「おい、ちょっと待て。今のそれどういう意味だよ」


 アイゼンが聞き捨てならない言葉を吐き、俺の耳が鋭敏にとらえた。


「ハハッ、まあまあ。今はそんな事より、あいつを倒す方が先決だろう?」


「ならお前、あとで覚えとけよ」


「悪いね。そういうのはすぐに忘れる主義なのさ!」


「いや、忘れる気満々かよ! せめて、表面上くらい覚える努力しろやッ!!」


 氷の矢を生み出すと、苛立ちをのせて手のひらほどの剝がれた装甲へと放つ。

 運よくクリーンヒットするとミミズは身じろぎしながら暴れ出し、土煙を出しながら地面に潜っていく。


「チッ、潜られるぞ!」


「待つんだ! 深追いしない方が良い」


 慌てて魔力練った俺に、アイゼンが肩を掴んで制止する。


「いや、でも、潜られたら受け身になっちまうだろ」


「大丈夫だよ。潜ったってことはアレも慌てている証拠さ。こちらも今の内に体勢を立て直しつつ、ゆっくり構えていれば問題ない」


「……あんたがそう言うのなら、ひとまず大人しく従うよ」


「任せてって! これでも俺はそれなりに強いんだよ?」


 妙に自信ありげに意気込むアイゼンを尻目に、周囲の警戒を怠らない。

 下に潜ったという事は、地上に出現する時に何らかの予兆があるはずだ。

 今も地面を潜航するミミズの破砕音が響くが、冷静に対処すれば問題ないはずだと思い込む。


 そう、これはゲームと同じだ。

 敵の予兆を把握して、華麗に避けつつ攻撃するだけ。

 ただ一点、違うのは、ダメージは掠っただけでも重症になり得るという事だ。

 冷静に身体強化を行い、出てきた所を狙い撃つ覚悟を決める。


「――さて、敵は下に潜っている。サンドワームを基準に考えるなら、攻撃は真下からと中距離から助走をつけての吞み込み攻撃だろうが、君はどう思う?」


 似た魔物と戦闘経験があるアイゼンが予想を口にし、意見を求めてくるが、その顔は何か含みのある様子だった。


「その二つがサンドワームとやらが行う攻撃方法か……でも、後者はないんじゃないか?」


「……どうしてそう思うんだい?」


「おそらく、中距離から攻撃できるのは、砂上という特殊な環境だから出来るんじゃないか? ここの地面は固い。それを前方から呑み込むように移動しながらの攻撃はこれまでの行動を見た限り、難しいだろうと思ってな」


 つま先で地面を踏みながら応答する。

 流動的な砂上で可能な行動でも、この固い地面を潜航するのは随分とエネルギーが要りそうだ。


「……そうだね、俺も同じ考えだよ。君が言った様に、この固い地面では吞み込み攻撃よりも真下からの攻撃の方が確率が高い」


「そうか。他に攻撃方法は思い付くか?」


 ジッとこちらを見つめてくるアイゼンをよそに、他の選択肢が無いか訊ねる。


「アレが亜種なら、魔法を使う可能性があるけどこれ以上は何ともね……。それに余計な先入観は思考を鈍らせるからあえて言わないでおくよ。とにかく、危険を感じたらすぐに回避に専念するんだ」


 亜種、魔法、土属性という関連性から、即座に使用される恐れのある魔法を想像イメージしようとしたが、とりあえず全力で回避に集中しようという決断だけはすぐに決まった。


「了解」


 アギトにも同じように言葉を伝え、回避後に攻撃するよう教えると「任せろ!」という心強い言葉を貰った。

 と同時に、真下で鳴り響く音が大きくなり始め、揺れが強くなっていく。


「来るよ! アギトだ!」


「アギトッ!」


 回避しやすい様にそれぞれ距離を取って備えていたおかげで、真下からの攻撃にもアギトは余裕をもって避けた。

 大きく間合いを取るようにバックステップしたアギトは、呑み込まんとするミミズに対して恐れることなく剣を一閃してみせた。


「ちょっ、マジか!?」


「GYUAAAAAAA!!?」


 ――回避後の攻撃っていうのは、地面に落ちた後のつもりだったんだが……。


 空へと飛び上がったミミズは、苦痛による悲鳴か攻撃された事への怒りなのかは分からないが、初めて効果的な行動を示した。

 アギトは落下場所から少し離れながらも、落ちてくる瞬間を今か今かと待ちわびながら長剣を構え、同様にアイゼンもサーベル片手に真剣な目を魔物に向けている。

 俺は落下予想地点へ手を向け、【円烈火フレイムサークル】を発動するための準備を行う。


 そして魔物が地面に衝突した瞬間、一切の躊躇なく放たれた。

 巨体を焼くように円状の炎が燃え広がり、周囲に熱風が吹く。

 腕を顔の前に翳しながら一部始終を見ていたユートの視界には、意に介さないとばかりにアギトとアイゼンが剣を手に飛び出したのが見えた。


(アギト! アイゼン!)


 心の中で二人に呼びかけるが、しかし魔物と対峙した二人には届くことは無い。


 二人は同じ様な共通点があるというのに全く違う動きを行いながら、時に連携し、時に想像だにしない動きを混ぜながら攻撃してみせる。


 ――遠いっ……! 遠すぎるッ……!


 二人の動きは素人目から見ても実践慣れしており、今の自分では到底届かない事をまざまざと見せつけられる様だった。

 アクロバティックな動き、攻撃の緩急、フェイント。

 それらをまるで最初から示し合わせたかのように組み合わせ、そして時々連携し合いながら互いの動きを読み合いカバーまでしていた。


 ――くっ、まだ俺はあそこに立てない。立つ資格がない。


 その答えは単純で、俺の弱さ故だ。

 あの二人のように技術と力は遠く及ばず、自分の命をリスク計算に入れて勝てる相手にしか勝たない内は到底届かない。届くはずも無い。

 今の俺にとって、二人の姿は全てが別次元の領域のモノであり、それが何よりも悔しくて悔しくて、俺と二人の現実的な差だと言われた気がした。


 ――だが、負けない! もっと強くなってやる。


 あの二人のように自らを簡単に飲み込める程大きな敵に対して立ち向かい、勝ちたい。

 その思いを魔法の糧にして【紅輝焔玉ルベライト】を発動する。


「魔法を放つぞ! 二人とも避けろ!」


 二人はこちらを振り向き頷くと、戦線を離脱したのを確認したのち放った。

 炎を凝縮して出来た紅玉が手の平に生み出され、【紅輝焔玉ルベライト】は真っ直ぐ飛んで突き抜けるとその効果を発揮した。

 【円烈火フレイムサークル】よりも高熱の炎が生み出され、半球状になって魔物を飲み込む。

 遠く離れた俺のところまで熱が広がるが、中心のミミズはさらなる熱に晒されているのだろう。

 十を数える間もなく熱が収まっていくと、中には焦げた様に赤熱化して倒れ伏すミミズがいた。


「ヒュー! やるじゃないか!」


『一撃か……ユートの魔法というのは凄まじいな』


 冷やかすように口笛を吹きながら、アイゼンは舌を巻き、アギトは瞳孔を開きながら感心するように何度もうなずいた。


「まだ死んでないんじゃないか?」


 少しくらい良い所を見せられて良かったが、調子に乗った時ほど何が起こるか分からない。

 そういう意味を込めて言った言葉にアイゼンは首を横に振りながら否定した。


「いや、感知には引っかからないよ。間違いなく死んだようだ」


「……そうか、そりゃよかった」


 ふぅー……と長い息を吐きながら人心地着く。

 空は見上げると、そこには青い空が広がっていた。


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