第7話 冒険者ギルド
前回のおさらい
ジャックに色々教えてもらいながら歩いていた優人はようやく街へ到着した。
そこで初めてこの世界に来たという実感を感じながら、街へと入っていった。
ジャックの横に並びながら街を歩いていく。
そこには様々な商品を並べた露天商がおり、新鮮そうな野菜や果実などがそこかしこに売られている。
人混み中を通ったいるだけで色々な声が耳に入ってくる。
「安いよ! 安いよ! うちで売ってる野菜はうまくて安いぞ! 買わなきゃもったいねえ! そこのお姉さん! そっちのお兄さん! うちの野菜はどうかね!」
「あたしの果物は近くの村からすぐに採ってきた、とれたて新鮮な奴だよ! 他の店じゃ乾燥してるが、加工がしてないのはうちだけだよ!」
「わたしの麦はどうだ! この麦は今年採れた麦でな! 豊作だったから、ちっとばかし安いぞ! 一袋銀貨一枚のところ、今ならなんと半額の銅貨五枚! 銅貨五枚だよー!」
「俺の焼き鳥はどうだ! さっき狩ったばっかのチキンシープの焼き鳥だぞー! 秘伝のタレでうまさは100倍だ!ぜひ買ってってくれよな!」
商売に勤しむ者たちの忙しない声が聞こえてきた。
通りは騒然としているが、ある種の秩序が出来ていていっそ心地いいBGMのようだ。
通りすがりに色々鑑定しながら歩いていると、ジャックが話し掛けてきた。
「なあユート、この街はどうだ?」
「ずいぶん賑やかなんだな。それに活発的で忙しないくらいだ」
「朝市でほとんどの人間が活動してる時間帯だしな」
素直に思ったことを言うと、ジャックは嬉しそうにしていた。
「なんでそんなに嬉しそうなんだ?」
「一応、この街は俺にとって第二の故郷だしな。褒められりゃ、嬉しいもんなんだよ」
「そんなもんか。ところで、俺たちが今向かっているのはどこなんだ?」
「それは勿論……ここ冒険者ギルドだ!」
いきなり着いたと宣言するものなので、周りを見るとそこには四階建てくらいの他の建物とは比べ物にならない程大きな建物だった。
「おおー! 何かでかいなぁーと思ってたがここだったのか」
その建物は見た目は木で出来ていそうだったが、よく見てみるとレンガに木を張り付けた暖かみのある建物のようだ。
扉の上にも「冒険者ギルド」と言うこの世界の文字と、ファンタジーらしく剣と杖、そして盾のマークで造られた看板が見える。
「おう、じゃあ入るぜ」
そう言って西部劇なんかで見た、いわゆるスイングドアのようなモノを開けてギルドの中に入っていく。
俺も遅れない様にジャックの後についていきながら中を見回した。
中はごちゃごちゃして荒くれ者の集まりを想像していたが、粗雑で乱暴なイメージと違い、予想より遥かに綺麗に掃除されてあるカウンターとバーが一体化した店という印象だった。
入口から見て右側にいくつかのテーブルがあり、何人か酒を飲んで話しながら一瞬こっちを見てきたが、すぐに目線を戻して話の続きを楽しんでいる。
「ここが冒険者ギルドか……意外と普通だな」
そんな風に独り言を呟くと、ジャックが俺の言葉に反応した。
「ははっ! 初めて入った奴は大体同じことを思うよな!」
「ということは、ジャックも同じ事を思ったのか?」
「ああ、お前よりもっと汚い言葉で言って、近くにいた冒険者に笑いながらぶん殴られた」
「アホだな」
「う、うるせぇ! 俺もあのときゃ若かったんだよ!」
二人で歩きながら話していると、受付にいた一人の少女がジャックに話しかけてきた。
「お帰りなさい、ジャックさん。クエストは終わったんですか?」
「ああ、マリーか。終わったがちっと大変なことになりそうだぞ」
「っ! わかりました。こっちの部屋に来てください」
マリーと呼ばれた少女はそう言うとジャックを案内しようとする。
だから俺は、
「じゃあ、また後でなジャック」
と別れを告げたが、そこでジャックは呆れた顔をして
「お前も来るんだよ、馬鹿!」
と何故か俺が怒られ、一緒に連れて行かれた。
「あのジャックさん? その方は……?」
「こいつは今回のクエストにも関係あるからな。事情が知っている奴は多いほどいいだろ?」
「はぁ、よくわかりませんが、一緒にどうぞ」
「俺は関係無いのでは……」
そんなことを嘆きながら、まあいいかと諦め半分興味半分で連れて行かれるのであった。
連れて行かれた先は応接室のような個室の空間で、取引や話し合いでの使用用途らしい場所だった。
「では、座ってください」
促された通り、無言で頷くとジャックの隣に座った。
「それで、俺は関係無いと思うんだが……一体何の話をするんだ?」
こういう部屋は居心地よく感じないので、さっさと終わらせようと思い、話しを切り出した。
「ああ、それも含めてお前に伝えるつもりだ」
ジャックが俺に伝えると、次は私とばかりに目の前の女性が口を開いた。
「ではまず、自己紹介から。私はこのダラムの街の冒険者ギルドの受付嬢をしています、マリー・アマリカと申します」
マリーという名の少女は茶色の髪をポニーテールにしており、可愛らしく愛嬌のある顔立ちは元の世界ならば、学校のクラスで誰彼構わず好かれる小動物のような雰囲気を感じさせた。
「ん? 苗字があるのか?」
ジャックにも聞けなかったことをここで目の前の少女に聞いてみた。
「はい? 普通に皆さんありますけど……ジャックさんもですよね?」
「ああ、あるぞ。そういえば、ユートには伝えなかったな。俺はジャック・ノーズ。今まで通り、ジャックって呼んでくれ」
ジャックは最初に会ったとき、名前を言わなかったのでその事について聞いてみたところ、
「あ~、それはなちょっとテンパってたんだ。ホントだぞ!」
と教えてくれた。
「話を遮って悪かったな。俺の名前は……そうだなユート・ヘイズとでも呼んでくれ」
「お前こそ、苗字あんじゃねぇか」
「いやー、さっきのやり取りで思い出したんだ。特になんと言うことはない」
適当にはぐらかした俺をジャックは訝しんでいたが、とりあえず気にしないことにしたようだ。
この「ヘイズ」という名前は英語で霞を意味する単語だ。姓名を反転し「名・姓」にすると違和感がなくなるので変えたおいた。
いうなれば、この世界での新しい名前という訳だ。
それに古典ファンタジーでは「真名」という自分の本当の名前を知られてはいけないというルールが頭をよぎったので、それにならっておく。
そんなことを一人、脳内でやり取りしていると話が進んでいく。
「では、話しに戻りましょうか。ジャックさんが請け負った、『大森林ルクスの森の異変を調査』ですね。これの報告をしてください」
マリーはそう言うと紙とペンを用意し、書く準備していた。
「じゃあ話すぜ。とりあえず上層は特に何もなかったが、いつもより動物や弱い魔物が多くいたような気がするな。いくらか狩ったが、あまり変わらなそうだったから、そのまま中層に向かった」
「なるほど。上層は、と言うことは何かあったんですか?」
「ああ、その通りだ。上層でも素材集めをしながら周りを調べてたんだが、出てくるはずの動物や魔物なんかは見当たらないのに、ランク3のアサルトボアが襲ってきたんだ」
「えっ! 上層でアサルトボアが……! し、失礼しました。それでアサルトボアはどうしたんですか?」
「ああ、いくらなんでも斥候職である俺じゃ敵わないからな。なんとか凌いで逃げようとしたんだが、いつまでも追いかけてくるものだから、覚悟を決めて戦おうとしたところで、こいつ――ユートに出会ったんだ」
ジャックは言い訳がましく、自分は斥候職だからと逃げた理由を強調していたが俺たちは揃って無視した。
「そこからは俺もビックリしたぜ。なんせ採取したキノコや薬草なんかを両手に一杯持ってるし、『逃げろ』と叫んでも『任せろ』とか平然と言って氷魔法で一撃で倒しちまうからな」
「あ、アサルトボアを一撃…ですか……。それはユートさん、本当何ですか?」
「まぁ、アサルトボアが強いのかはわからないが、確かにあの猪を一撃で倒したのは俺だ。その証拠にジャックが猪の素材を持っている」
「そ、そうなのですか……わかりました。では、私はこの件をギルドマスターに報告しなければいけませんので、先に素材の確認をさせてもらってもいいですか? ついでに、精算も一緒にしちゃいますので」
「おう」
そう言うとジャックはアイテムバッグから葉に包んだ猪にキノコ、薬草と俺が見つけなかったやつまで、色々と出した。
ついでに俺もと言わんばかりに、背中に背負うように持っていたモノをテーブルに置いた。
「えっ……こんなにあるんですかユートさん」
俺なのか? と思ったが横を見るとジャックも苦笑いなのか呆れなのか、わからない顔で俺を見てた。
「別に普通じゃないか?」
森で歩いていた時に片っ端から採取しただけだからな。
まあ、二、三時間くらい採取してたかもしれんが。
「そんなわけないじゃないですか!! 袋やカバンに詰めているならまだしも、なんですかこれ! これ服ですよね!? 服に詰めて持ってきた人なんて私初めて見ましたよ!?」
と何故か俺が悪いみたいに言われた。心外だ。
ただ鑑定使いながら、森の中を歩いてただけなのに。
「鑑定使いながら、歩いてただけだぞ」
「えっ、鑑定スキル持ってるんですか!?」
――おっと。こっちが引っかかるのか。
俺ともあろうものが流れにまかせて口を滑らせてしまった。
「い、いや鑑定みたいな自己流……だよ?」
「なんだよ『鑑定みたいな自己流』って聞いたことねぇよ。ていうか、お前今『口がすべった!?』とか思っただろ」
「いや、気のせいじゃないデスかね」
「顔におもいっきり出てるぞ。逆に分かりやすすぎて心配だわ。しかも、口からも出ちゃってるじゃねぇか」
「おっとそりゃ失敬」
――予想外の収穫だ。
まさか都合よくユニークスキルの【鑑定】がどれくらい価値があるのか理解できるとは。
「――ジャックさんの方は計120000ノルで大銀貨7枚で、クエスト代金大銀貨5枚分も入っています。内訳は聞きますか?」
俺とジャックがじゃれている間に、彼女――マリーが虫眼鏡のようなものを使いながら、計算を行ってくれていた。
「いや、大丈夫だ。マリーのことは信用してるからな。だが、アサルトボアの代金はユートにやってくれ」
「いや、それはジャックにやってくれ。解体のほぼ全てをジャックがやったし、運んだのもジャックなんだからな」
「いやいや! 仮にも俺は命を助けてもらったんだ! 解体も運んだのも大した労力じゃないんだ! こいつにやってくれ」
「はぁ……これじゃ話が平行線だから、面倒くさいんで折半にしてください。ジャックも異論はもう聞かんぞ」
話が長引くのを危惧した俺は、そこで適当に話を終わらせた。
「……分かった、俺もそれでいい」
ジャックも渋々といった顔で了承した。
「分かりました。ではそう言うことで」
「えーと、ユートさんの方は計127000ノルで小金貨1枚、大銀貨2枚、小銀貨7枚です。アサルトボアの代金もいれるとプラス大銀貨2枚と小銀貨5枚ですね」
5分程かかって、計算してくれたマリーはそう言った。
「なぁ、なんでこんなに高いんだ?」
疑問に思った俺は、率直に聞いた。
「そ、それはですね。見つけにくいメイサイダケを中心に採取が難しいモノが多くあるからです!」
「具体的には?」
「メイサイダケも含めてマジカルキノコ、バクレツダケ、ニオイダケ、フィジカルキノコ、スピードキノコ、カレンの実、ファーム草、ギタイ草、火花そして何より、ギンイロダケですよ!!」
「そんなにそのキノコ凄かったのか?」
「そりゃそうですよ!! 一年に一つ見つけられればいいものなんですよ! キノコハンターにも難しいのに!」
マリーが興奮しながら、俺に教えてくれた。
ギンイロダケでこれならオウゴンダケじゃどうなるんだよ。
と思ったものの、このことは言わないでおこうと心に仕舞っておいた。ていうかキノコハンターって語呂ダサいな。
「なあ、マリーさん? 口調が乱れてるぞ」
「はっ! すいません!?」
顔を赤くしながら、シュンと縮こまった。
本当はさっきのが素なんだろう、と思ったがあえて口にするようなことはせず、気づかないふりをした。
「それにしてもユート、お前意外と俺より見つけるのが上手いんだな」
いつの間にか、影になっていたジャックが口を開いた。
「なんか、失礼なことを言われたような気がするがまあいい。あとお前、あんまり鑑定のことはおおっぴらにするなよ?」
「何でだ?」
「そりゃお前、そんな能力持ってるって他の奴にばれたら、ひっきりなしにお前を勧誘しようとするからだよ。お前そういうの嫌いだろ?」
「へー、何で……いや、よくわかったな」
「まあ、これでも斥候だしな。観察力はいいと自負してるし、何でなのかは勘って奴さ」
「聞こえてたか。っていうか俺はここに冒険者登録しに来たんだが」
「そうだったんですか!? 採取したものを見た感じ、てっきり冒険者の方だとばかり……。とりあえずジャックさんは、これでクエスト完了しました。ユートさんはすみませんが、私はギルドマスターに報告しなければなりませんので、他の方に受付で登録を受けてもらってください」
「了解した。ジャックはどうするんだ?」
「俺は他の奴のところで話してるからよ、終わったら声かけてくれ」
「わかった。じゃあ受付で登録してくる」
優人が部屋から出ると、マリーはジャックに聞きたいことを聞いた。
「あの、ユートさんはどういう人なんですか?」
「あいつは森で出会ったんだが、本人が言うには記憶喪失らしくて、記憶が無いらしい。ただ妙に言葉遣いがキレイだし服装も変わっているし、常識に疎いところがあるとか違和感がたくさんあるが根っこの部分はいい奴だと思うぞ」
「そう、ですか……。話を聞いた限り貴族みたいな方ですが、それにしては冒険者に対して含むところもありませんでしたし、まるで物語から出てきたような人ですね」
「いや、どちらかというとどっか遠い場所から来たみたいに感じるがな。まあとりあえず、あいつについては気にかけてやってくれ」
二人は優人について様々な考えを思い付いたが、いまいちよく当てはまらず、とりあえず優人を気にかける方向に決めた。
図らずしも、双方にとっての選んだ選択は将来にとんでもない結果として帰ってくるのだが、それはまだ誰も知らない。
現在の残高
152000ノル




