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ヘレティックワンダー 〜異端な冒険者〜  作者: Twilight
第二章 魔物大氾濫篇

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第43話 考察と検証 4


 昼食を食べ終わったユートは予定通りレイグの店を訪れに行く。

 その途中、雑貨屋で見かけた竹串を買いこんだり、新鮮で美味しそうなフルーツを幾つか手に取ってゆっくりと楽しみながら歩いていた。

 ようやく到着すると、そのまま店の中へ遠慮せず入っていく。


「おはよう、おっちゃん」


「おう、おはようさん。それで今日は何しに来たんだ?」


 レイグは珍しくカウンターの前に座って武器を磨いている。


「うん、ちょっと欲しいものがあってね」


「ん? 斧槍の事なら残念ながらまだ出来ておらんぞ」


「ああ、いやそうじゃなくて、防具が欲しいと思ってるんだ」


 武器を磨いていた腕を止めるとこちらを真剣な目で見てくる。


「防具か……お前さんは必要ないのかと思っていたが、具体的にはどんなものが欲しいんだ? 革鎧(レザーアーマー)鎖帷子(チェインメイル)胸甲(ブレストプレート)部分鎧(ハーフアーマー)なんかがあるが……とりあえず実物を出すから自分で見てみろ」


 レイグは店内の棚からいくつか選ぶとそれをカウンターに並べていく。

 防具って結構な重さがあると思っていたが、それを受けてもビクともしないカウンターはやはり耐久性が高いんだろうなぁと感心した。


「おいユート、よーく聞いとけよ。お前さんから見てこの右端にある奴が革鎧(レザーアーマー)で、こいつは魔物の皮を(なめ)して作ったものだ。

 こいつの利点は軽く、革だから柔軟性も高いし、衝撃も少しなら緩和してくれる。

 それに弓兵やシーフなんかの身軽さを重視する奴らはこの革鎧(レザーアーマー)を着ることが多い。

 しかも廉価だから、冒険者の中では最も着けられている防具だと言えるだろう」


 今度は右から二番目の奴を指差す。


「次に、この鎖帷子チェインメイルもさっきと同様に機動性が高い、が人間には長時間の着用は肩に来る。

 まあ、俺達ドワーフはそんなもん服と同じくらいにしか感じんがな! ガハハッ!

 それに全身板金鎧(フルプレートアーマー)には劣るが、革鎧(レザーアーマー)よりかは断然高い防御力も期待できるし、金属製だから防刃効果も十分ある。

 だが逆に言えば、その構造上刺突や弓矢には弱いし、鈍器系統の武器には衝撃を緩和する効果なんて無いから弱点と成り得るだろうな」


 次は中央の奴に手を乗せて指し示す。


「そして、こっちの胸甲(ブレストプレート)は最も重要な上半身を守ることに主点を置いている。

 その分下半身ががら空きになるが、重さも全身板金鎧(フルプレートアーマー)に比べて半分以下と非常に軽い。

 でもまあ、森ん中を探索するには少し重いし邪魔でしかねぇから、中級者や上級者向けの装備だな」


 次はその隣にある、左から二番目の奴を指し示す。


「もう一つのこの部分鎧(ハーフアーマー)は見ての通り、上半身の中でも更に一部の心臓に重点を置かれている。

 まあ、守る部位が最低限にされて、他の所は布や革で出来ているから防御なんて期待すんじゃねえぞ。

 その代わり重さはこの中で一番軽いし、走ったり剣振ったりするならこれが動きやすいだろうな。

 けど何度も言うようだが、防御力が心配ならこれは止めておけ」


 最後にカウンターの反対側、出入り口近くに置いてある全身板金鎧(フルプレートアーマー)へ指を差す。


「そして最後はあの全身板金鎧(フルプレートアーマー)だな。

 まあ、お前さんが欲している奴じゃないと思うが、一応説明しておく。

 あれは全て金属で出来た全身を覆う鎧で重さにして約20キロ近くある。

 あれの利点はまあ、何だ。見た目の迫力だけで威圧出来る事と全身を覆っているから防御力はピカ一だっていう事だな。

 反対にデメリットは幾つかあるが、まず一人では装着し辛い。

 それに蒸れて熱いし、身体が重くて動きにくい、動けば金属音がすると良い所があまりない。

 だからこれを着ている奴は相当のモノ好きだ。

 でも顔を隠せるし、よく物語にあるように変装の道具として利用されるが、それ以外には実用性は少ないな。

 着ている奴を見た所なんて人生で数度だけで、それも遊びみたいなものだし。

 だが、帝国では特殊な製法で作った全身板金鎧(フルプレートアーマー)が、騎士団の鎧として実戦採用されていると聞いたことがあるから、このデメリットを打ち消すほどのものがあるんだろうな」


 そう言い終わると、レイグは椅子に座り直した。


「以上が鎧の説明だ。それで何か気に入った鎧でもあったか?」


「……そうだな、とりあえず全身板金鎧(フルプレートアーマー)はまず、ないな」


「くくっ、そりゃそうだ」


 レイグが笑いを隠せず失笑する。


「それと胸甲(ブレストプレート)も今は必要ないな」


「じゃあ、残ったのは革鎧(レザーアーマー)鎖帷子(チェインメイル)部分鎧(ハーフアーマー)か……。ちなみにどんな基準で決めてるんだ?」


「いや単純に、この白いコートの下に付けるなら身軽な鎧が良いかなあ、と」


 今着ているコートを広げながらアピールする。

 今更ながらよくこの格好で森に行ったよな……と自分のした行為が恥ずかしくなってくる。


「そういう事か。まあ、俺が選んでもいいが、こういうのは自分で見て決めるもんだからな。でも鍛冶師としてアドバイスするなら一つ、自分の戦う所を想像しながら決めるのが良いぞ」


 もう俺からは言いたいことは言った、とそう言わんばかりに黙り込くると再び武器を磨きにかかる。

 まあ、最初から自分で考えるつもりだったけどな、と内心俺も何かよく分からないものと張り合いながら、今度は俺も考え込む。

 個人的にはどれでもいいんじゃね? と思っていたりもしたんだが、流石に自分の命が掛かっているので真面目になって考える。


 防具を選ぶにあたっての基準は、機動性、軽量性、防御性の三つだ。

 俺にとっての優先順位もその順番通りなのだが、機動性と軽量性の性質が似通っているため勘違いされることもあるだろう。

 俺が言う「機動性」とは、動きやすさだけではなく隠密性も含まれている。

 音がしない、ぶつけ辛いのは勿論の事、飛んだり跳ねたりしての身軽さが封じられたら逃げられなくなってしまうためだ。

 そういう点から見れば軽量性とほぼ同じかもしれないが、それは蛇足か。


「さて、どうしようかな……あっ、良いこと思い付いた。なあ、おっちゃん。俺これにするよ」


 俺はある鎧を指差したものに決めることにした。


「ん、何だそれでいいのか?」


「うん。ついでにそれとこれを組み合わせたり、材質とかも変えられると――」


「まあ、そりゃあ出来なくはねぇが――」


 買う鎧を決めたユートだが、早速レイグへと細かい注文を付け加えて困らせる事となる。


 


「あっ、それともう一つ欲しいものがあるんだ」


「ふぅ……今度は何が欲しいってんだ。言ってみろ」


 心なしかほんの少し疲れているようにも見えるレイグが、鎧を片付けたカウンターに肘を置きながら溜息を吐く。

 けれど俺はそんなことは気にせず、二つ目の注文をする。


籠手(ガントレット)が欲しいんだ」


「今度は籠手(ガントレット)か……。まあ、早いうちに防具の重要性に気付いたんなら重畳ってところだな」


「まっ、そういう事さ。それに左手に盾を持つっていうのが俺には性に合わないって感じたから、せめて籠手(ガントレット)にしようと思ったんだけど」


 ゴブリンソードマンとの戦闘を思い出しながら口にする。


「どんな理由であれ、防具を付けときゃ運よく生き残る奴ってのは大抵どこにでもいるんだよ。大事なのはいつでも冷静さを心掛ける事と傲慢にならない事だな。そうすりゃ他の奴より少しは長生きできる」


「他人よりも少しだけしか長生きできないのか?」


 含み笑いをしながらレイグの言葉につっこむ。


「そりゃあお(めえ)、そんなもんはコツコツ積み重ねていくもんよ。生き急いだ奴からくたばってく世界だからな」


 俺より何倍も生きて来た者の重みのある言葉が胸に刺さる。

 

「そういうもんか」


「そういうもんだな。それで籠手(ガントレット)だが、そっちの棚にあるから自分で選んで持ってこい。そしたら、俺が微調整してやるからな」


「分かった。ちょっと見てみる」


 おう、というレイグの返事を背で聞きながら棚に陳列してある籠手(ガントレット)を見渡す。

 この店に入った時から気になっていたものがあったのでそれを手に取って鑑定する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


黒金剛鉱石(アダマンタイト)籠手(ガントレット):世界でも上位に名を連ねる、有名な希少金属で作られた黒金剛鉱石(アダマンタイト)製の籠手(ガントレット)。硬度が非常に高く、紫黒色のような鈍重さを感じさせる金属で出来ているため、防御力がとても高い。反面、見た目通りに重さが幾分かあるため、上級者でなければ使いにくい作りの籠手(ガントレット)となっている。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ……どうやら俺が手に持ったこの籠手は、元の世界でも知名度が高いアダマンタイトで作られたモノらしい。

 まさか身近に伝説の幻想金属が存在していたとは……と、驚きと感動で戦慄を覚えずにはいられない。

 ちなみに棚に置いてある値札を見た俺は、そっと持っていた籠手(ガントレット)を元の場所に戻した。だって小金貨二十枚、つまり二百万円相当だという事だもの。


 そんな大金持ってる訳ねぇだろ!

 今の所持金のざっと十倍だぞ! 届かねえよ!


 という心の叫びを封じ込めて、その棚の段の二つ下に置いてあった似たような見た目をしており、かつ安かった黒鋼(クロハガネ)という金属製の籠手を購入することにした。


「はいよ。これでいいんだな? じゃあ、二つ合わせて5万5千ノルってところだな」


「はい、丁度ね。あっ、ついでに鉄串とかない?」


「鉄串だぁ? 何だ、今度は暗器に手を出そうってのか? 色々なもんを手ぇ出したって強くなんかなれねぇぞ」


 眉を(ひそ)めながらレイグが忠告してくる。


「いや、そんなつもりじゃなくて料理用も含めてだけど?」


 俺は出来るだけ心外だ、という顔をしながら逆にレイグに言った。


「……よく分かんねえが、まあ、それくらいなら奥に仕舞ってあるから、ちょっくら待ってろ」


 呆れたのか溜息を吐くと、レイグは奥へ取りに行く。

 奥でガチャガチャと音を響かせると、少し経ってから手に箱を携えて戻って来た。


「ほらよ。百本入りの鉄串だ。特に説明もいらねえよな」


「うん、それは大丈夫。代金いくら?」


「あー、じゃあ5千ノルでいいぞ」


「はいはい。これで後は出来上がるのを待つだけか」


 レイグから渡された鉄串をお金と交換すると、すぐに亜空間へ仕舞った。


「最後の注文である斧槍はもう少し時間をくれ。それと鎧の方は明日の昼頃だったら出来てるだろうから、そん時に取りに来いよな」


「うん、じゃあまた明日な。楽しみにしてるから」


 手を軽く振って別れを告げると、店から出て宿へとそのまま帰る。

 予想よりも早く終わってしまい、午前中に全てやり終えてしまってする事が無くなったユートは、宿の裏庭で魔法と剣の修行をすることに決めた。


「あ~、今日みたいに平和な日々も悪くないな……」


 そう呟いたユートの声は空へと掻き消えていった。


現在の残高


258,875ー4,000(雑貨代)-55,000(防具代)ー5,000(鉄串)=194,875ノル

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