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ヘレティックワンダー 〜異端な冒険者〜  作者: Twilight
第二章 魔物大氾濫篇

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第40話 考察と検証


 戦いが終わった後、ユートはただただ立ち尽くしていた。

 自らの命を懸けた戦いは思っていたよりも精神を消耗していたのだ。

 後ろでゴブリンソードマンが倒れ伏した音を聞いても、斬った体勢から動くことは出来ないでいた。

 昔の日本人はこれを“残心”と呼んでいたか……と他人事の様に思い出すが、すぐに思考の果てに消える。

 そしてようやく動けるようになった頃、剣の血糊を振り払い刀身を一瞥すると鞘に納めた。

 

「ふぅ……」

 

 最後に、息を吐いて戦闘後の緊張を(ほぐ)すと後ろを振り向く。

 そこには、俺が斬り捨てたゴブリンソードマンやその取り巻き達、そして炎によって焼け死んだ他のゴブリン達も幾つか散見している。

 その中のゴブリンソードマンに近付き、全体を漠然と眺めた。

 そいつはもう既に息絶えていたが、何故かその顔にはほんの少しばかり嬉しげな死に顔が浮かんでいる様に見えた。

 俺はゴブリンに詳しくないし、どちらかと言えば何も知らないと言っていいだろう。

 ゴブリンを観察してきた訳でもないのに、どうしてかそんな風に思ったんだ。


 だから、こいつの魔石を取り出そうと思ったけれど止めた。

 その代わり、土魔法で棺桶の様な箱を囲むように創り出すと、その棺桶ごと【無窮之亜空間】の中に入れた。

 この場所に埋めても、安らかには眠れないだろうし、それに魔石を取り出そうとは思えなかった。

 なら、とりあえず亜空間内に入れておけば、いつか相応しい場所も見つかるだろうと考えた。


 「ゴブリンの遺骸を亜空間に仕舞うモノ好きなんて、俺が初めてだろう」と独りごちりながら苦笑した。

 とりあえず、先程剣で戦ったゴブリンには同じように施して、その他のゴブリンには容赦なく魔石を取り出す作業を始めながら一か所に集めていく。

 十分後、ほぼ全てのゴブリンから魔石とついでに武器の回収も取り終えると、後には一つの場所に積まれたゴブリンの死体の山が出来た。

 流石に死体を一つ一つ手で集めるのは抵抗があるし時間がもったいないので、これは収納(キャッチ)解放(リリース)手法を上手く使った。


 (ちな)みにこの「収納(キャッチ)解放(リリース)手法」とは、亜空間へ仕舞う時に手で触れるか、近くに寄って『収納』とキーワードを唱えることだ。

 逆に、取り出すときは『解放』と唱える事で魔法が発動する。

 しかもこの呪文は別に何でも良くて、それこそ『キャッチ』でも『リリース』でも『開けゴマ』でも俺が理解出来ていれば機能するようだ。

 自分で試してみたので間違い無い。


 閑話休題


 森の中の広がった場所に俺よりも小高い山が出来ている。

 それだけ聞けば、「何て幻想的なんだ」と思うかもしれないが、その山はゴブリンの死体が積もって出来ているので、メルヘンもファンタジックも全くありはしない。

 だが、いつまで観察していても仕方が無いので、【円烈火フレイムサークル】の呪文を詠唱して一度で燃やすことにする。


「全てを焼き尽くす炎よ、円となりて囲み封じ、閉じ込めし我が敵を燃やせ!【円烈火フレイムサークル】」


 ボオオオォォッ!


 赤い炎がゴブリンの死体を囲むと一斉にその中のモノを燃やしていく。

 詠唱の分その火力はやはり高いのか、近くに居てもモワッとした熱気を感じる程だ。

 そのおかげかゴブリンが炭や灰となるまでそこまで時間は掛からずに済んだ。

 最後に、その灰と消し炭になったモノに水をかけ土魔法で吞み込み様にして地中の奥深くに消しておけば、灰が空を舞うことも無いので一切の証拠が残る事は無くなった。


「我ながら、とんでもない証拠隠滅方法を見つけてしまった……」


 としみじみとユートは思ったとか、思わなかったとか。




──☆──★──☆──




 午前にハニーベア含めた中層の魔物を、午後に上位種含めたゴブリン約四十匹を倒したため、これ以上の戦闘は流石に危険だと思った俺はすぐに町へ帰ることにした。

 その道すがら、暇なのでゴブリンから剝ぎ取った魔石の数を数えると、何と三十八体分の魔石があった。 

 あれっ、何か数が多くね?と思い、二度三度確かめても数え間違えてはいなかった。

 ついでに内訳は、ゴブリンの魔石が二十八体、ソードマンの魔石が三体、アーチャーの魔石が二体、ランサーの魔石が一体、シーフの魔石が三体、ファイターの魔石が一体である。

 数が複雑で分かりづらいので結果だけ言うと、いつの間にか通常のゴブリンが五体増えており、ソードマンとアーチャーが一体づつ、計二体の魔石が壊れていたので、最終的には三体プラスになったようだ。

 いつの間にか巻き込まれた五体の憐れなゴブリンにはご冥福をお祈り申し上げ、さっさと忘れることにした。


 それから数十分かけて町に戻ると、そのまま宿へと直帰した。

 ゴブリンの魔石を納品しなくていいのかとジャックあたりに知られたら言われそうなものだが、別に今は金に困ってないし、その内、実験とかに使おうと思っていたので残しておくことにした。

 今日はもう他にすることが無いので、宿の裏にある井戸場で水垢離みずごりではないが冷たい水を浴びて汗を流していく。

 特注の服なので気疲れとかは少ないが、やはり一日中コートを羽織っていると結構汗をかくものだ。

 しかも元の世界では戦うなんてことは日常ではないので、周りに気配を配ったりなど神経を使う事が多い。

 だからなのか、井戸の水だと汗をかいたり、熱くなった体を冷やして引き締めるのにちょうどいい。

 まあ、別に水魔法でもいいのだがそこはそれ、気分によって井戸で浴びたり魔法だけにしたりと毎日変えて工夫している。


 そう聞けば、水浴びも面白そうだと思うかもしれないが、水を浴びるには服を脱がなくてはならないのを忘れてはいけない。

 つまり今の俺の状態は外で素っ裸なのだ。

 しかも、一般家庭や中程度の宿には風呂なんていう便利なモノはありはしないので、それを享受できるのは小金持ちである冒険者や商人よりも上の上流階級だけらしい。

 まあこの町にも、大衆用に銭湯のような共同風呂みたいなものがあるらしいが今のところ一度も言っていないし、行くつもりもない。

 だって他人と一緒にいると気が休まらないし、ああいう所に行くとゴキとかいそう(偏見)だし、警戒してしまうので俺には向いていない。

 という訳で、宿に付随している井戸で一人のんびり……とはしていられないが、ひっそりと水を浴びていた。

 最初は少しだけ抵抗感があったが、慣れればそう問題はない。

 だって周りに人がいなければ大丈夫だから。

 それに水を数度浴びたら【洗浄クリーン】の魔法を使い念には念を入れ、最後にさっと【乾燥ドライ】の魔法を掛ければ風呂に入るよりも正確に綺麗になる。

 この方法の利点は、手間が無く誰でも簡単に綺麗になる事と、ボディタオルを使わないため肌が荒れないのだ。

 反対に欠点は、爽快感が無く綺麗になった感じがしない事と、風呂とは違い体が温まらない。

 この世界に来て十数日経つが意外と「早く風呂に入りたい!」とまでは感じず、しいて言うなら「風呂でゆっくり寛ぎたいなぁ」止まりである。

 

 身体を綺麗にして少し休憩すると、次は夕飯だ。

 水浴びをして少し休んでいたので結構時間が立っているが、今の時刻は大体六時半ぐらいだ。

 この時間帯に食べるのはこの世界では早い部類に入るがいない訳でもない。

 なので俺はカウンター席に座ると、遠慮なくアマンダさんに注文する。


「すみませーん! 何か肉肉しい料理を頼めますか?」


「はいよ! すぐできるから待ってな!」


 少しすると、皿からはみ出るほどの大きな肉が乗った料理をアマンダさんが片手で持ってきた。

 

「はい! ハニーベアのステーキと森野菜のサラダ、それと果実酒だよ。パンはおまけさ」


 目の前には、三十センチほどもある大きな皿にドデカく盛られた肉が、食欲をそそる強い匂いを醸し出し俺を食えと言わんばかりに自己主張している。

 それに新鮮なのか、色鮮やかな野菜が何の味付けもされずに、キラキラと水滴が光を反射して小皿のボウルにそのまま山形になるほど盛られている。

 金属製のコップには、葡萄らしきもので作られた紫色の液体が全体の色と調和するように工夫してある。

 その近くに、皿に二つほど乗せられた白いパンがおまけであることが伺える。


「えっと、お言葉に甘えて、ありがとうございます。では頂きます」 


「残さず食べて、もっと大きくなるんだよ!」


 朗らかに笑いそう言うと、奥に戻っていった。

 それを見送るとすぐに料理に手を付けていく。

 最初に選んだのは果実酒だ。

 喉が渇いていたので呷るようにグイっと飲んでいく。

 予想通り葡萄酒だったようで少し含まれている度数が慣れていない喉を焼いた。

 品種改良されて無さそうだから酸味が強いのかと思い込んでいたが、思っていたよりも甘みが強く、酸味がアクセントに感じる程だ。

 しかも飲みごたえが良く、大きく喉を鳴らしながら半分近くまで飲んでしまう。


 次に選んだのはやはり、ハニーベアのステーキだ。

 先程聞いていて思ったが、これって俺が倒した奴だったりして。

 聞くのは良いけど、もし間違ってたら恥ずかしいので適当に相槌していたが、何となく俺が倒したモノのような気がする。

 だからなのか、感慨深いというか戦った敵が自分の飯になるって何だか色々な感情が湧いてくる。

 まあ、嫌ではないので美味しくいただくけれど。


 ナイフとフォークを使って一口大に切ると、口に入れて咀嚼する。

 熊肉は臭みがあると知識で知っていたが、そんなものほとんど感じない程に旨味の暴力が暴れ出す。

 一噛みしていく毎に肉汁が溢れ、その中には蜂蜜の豊潤な甘さが旨味の影に隠れながらも、角が立たない程度に主張してくる。


 この肉と生野菜のサラダを一緒に頬張ると、絶対に美味しいと俺の勘が告げながら口から唾液がどんどん分泌されていく。

 フォークで野菜と肉をまとめて突き刺すとそれを口に放り込む。

 肉の旨味は勿論、野菜本来の苦みと甘みが重なり合っていきいい具合にマッチしている。

 野菜も新鮮だから美味いのか、調理が上手だから美味いのか分からない。

 少なくとも、それほどに旨く、色々組み合わせて食べながら楽しめることは間違いなかった。 


「ごちそうさまでした」


 手を合わせて食事の礼をする。

 やっぱり美味しいものを食べると元気が出てくるのか、戦闘の疲れなど感じさせない程に元気を取り戻していた。

 それから食べ終えた事をアマンダさんに伝えると、ユートは部屋に戻った。

 

「あー、腹いっぱいだ……」


 満腹になってご機嫌なユートは人心地つくと、今日の成果を見るためにステータスを開く。



──────────────────

名前:霞野かすみの 優人ゆうと/ユート・ヘイズ

年齢:17

性別:♂

種族:人族

称号:異世界転移者・読書家・哲学者・一流キノコハンター・中級薬師・駆け出し剣士


Lv:19 +1

HP:489/489 +21

MP:1527/1527 +27

筋力:297 +23

体力:284 +26

耐久:467 +14

敏捷:318 +26

魔力:289 +17

知力:464 +18


スキル

剣術Lv2

疾駆Lv1

隠密Lv1

高速思考Lv4

算術Lv5

速読術Lv3

採取Lv3

調合Lv4

魔力操作Lv4

気力操作Lv1

火魔法Lv2

水魔法Lv2

風魔法Lv1

土魔法Lv1

光魔法Lv1

闇魔法Lv1

無魔法Lv3

氷魔法Lv3

生活魔法Lv2

神聖魔法Lv3

空間魔法Lv2

瘴気耐性Lv1

呪い耐性Lv2


ユニークスキル

鑑定Lv4 

言語術

──────────────────



 レベルが上がっている以外は特に変わっている所は無い様だ。

 でもこうやって見ていくと、やっぱり上がっている所と上がりづらい所があるような気がする。

 可能性として考えられるのはレベルが上がるまでによく使っている部分が伸び、それ以外のあまり使わない所は伸び難い傾向にあるっていう事だろうか。

 それなら耐久の値が伸びにくいのにも理由が付くが、反対に魔力の伸びも悪いのはなぜだろうか?

 ほぼ全ての戦闘で魔法を使っているような気がするけど、それは能力値が上がる基準(・・)に満たしていないのか?

 うんうんとベットの上で悩むが、分からないものは分からない。

 最終的には考える事を止めて、いつの間にか寝落ちした。


27話からこの話までで一日というね。

サブタイトルを【飯テロ】にしようか迷った(笑)


追記。魔石の計算が分かりにくい為、その説明を書いておきます。特に意味は無い。


40(最初のゴブリンの数)-13(上位種)=27(通常種のゴブリン)

13ー1(剣で戦ったゴブリンソードマンの分)=12(残った上位種)

27-4(ゴブリンソードマンの取り巻き達の分)=23(残った通常種のゴブリン)

12+23=35(戦闘後に残っているはずだった魔石の数だったもの)


28(通常種のゴブリン)+3(ソードマン)+2(アーチャー)+1()ランサー+3(シーフ)+1(ファイター)=38(最終的にゴブリンの総計)


三体分の差がゴブリン五体が巻き込まれ、元々認知していたソードマンとアーチャーの魔石が砕かれてあったため、プラスマイナス3になった。


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