食事会
俺が色々考えを巡らせているとマリナから声をかけられた。
「…う~む。お金の受け渡しは少し待て」
「えっ!?なんでだよ」
「多分、今のお主が受け取ったら価値をわからぬまま使いそうじゃ」
「そうだな。護衛になるということは知識も必要になるし、教師も付けよう」
「げげっ!こっちでも勉強か…」
唯一、異世界に来て解放されたと思っていたことなのによ。
「しょうがないじゃろ。このままだと、露天商にすら騙されるぞ」
「それは嫌だな。分かったよ」
「ロウよ。できるだけ、早く済ませて欲しい」
「どうしてですか?」
マリナだって今帰ってきたばかりで、時間はあると思うんだが…。
「実はマリナの帰還と入れ替わりにベイルン伯爵から依頼が届いていてな。数日中にはそちらに向かって欲しいのだ」
「それはマリナと一緒にということですか?」
「そうだ。なんでも魔物の被害が増えているらしくてな。これには騎士団も一緒に派遣する」
「が、頑張ります」
「ちなみにベイルン伯爵領はわしらの出会った先の領地じゃ。王都の横にある領地なんじゃぞ」
「ふ~ん。じゃあ栄えているのか?」
「そうじゃな。遠い領からは宿泊地としても利用されるからのう」
「魔法でそれぐらいパッと移動できないのか?」
「そんなことするのは貴族の早馬ぐらいじゃ。一般人がそんなに強力な魔力を持っとる訳なかろう」
「じゃあ、移動は馬車になるのか?」
「まあな。じゃが、馬車と言っても護衛は歩きの場合が多いから早さはないぞ?」
「不便なんだな」
魔法があって、明かりなんかはそれで便利になっていると思っていたが、不便なところもあるみたいだ。
「安全のためには仕方ないわい。全員馬車に乗っておって襲撃されてもつまらんしの」
「そりゃそうだ」
「陛下。そろそろ」
話をしていると国王陛下の隣にいる男が何やら耳打ちする。
「ああ、そういえば夕食に招待したのだったな。食事にしよう」
国王陛下がそういうと料理が順番に運ばれて来た。
「ん?カトラリーの使い方は知っておるのか?」
「カトラリー?ああ、ナイフとかフォークの事か。一応見たことはあってな。外側からだろ?」
「ロウは平民なんじゃよな?」
「そうだぞ?貴族には見えないだろ?」
「それはそうなんじゃが、色々と知っておるからのう」
「ま、国が変われば常識も変わるってことだな!」
「それもそうか。おっと、わしも食わんとな」
「成長しないもんな」
「失礼な!ちゃんと成長しておる」
「そうか?まあ、俺はお前が大きかった時は知らないしな」
「それを言うなら小さかったときじゃろ!よ~し、明日にでも昔の絵姿を見せてやろう」
「いや、別に見たい訳じゃないけど…」
「ならん!わしもちゃんと成長しとるところを見せるのじゃ!」
「意地っ張りなやつだな。でも、せっかくだし見てやるか」
この世界に写真はなさそうだし、どうやって記録してるのか気になるしな。
「それにしても豪華な食事だな。味も美味いしいつもこんなの食べてるのか?」
さっきから出されているスープといい、サラダといい、出てくるもの全部美味い。
「当然じゃ!王族たるもの最高のものを食べんとな。他国の人間にも未熟な舌では失礼になるしのう」
「結局そこにつながるのかよ。王族も楽じゃねぇな」
ただ美味い美味いって食べられないとか本当に面倒だな。
「まあ、飢えることもないしそのぐらいはしょうがないじゃろ」
「そんなもんか」
「そんなもんじゃ」
俺にとっては単なる負担でも、マリナにはまた別の考えがあるらしい。こういうのは持って生まれた性分なのか、はたまた生まれた環境なのか。
「ふむ…」
「父上、どうかされましたか?」
「いや、少し考えることができたと思ってな」
その後も和やかに食事は進み、食後になった。
「おっと、忘れるとこじゃった。ほれ、これをやろう」
「なんだ、この花の紋章は?」
「これは桃の花じゃ。知らんのか?」
「桃は知ってるけど、花なんて見たことないぞ」
「そうか。わしの紋章じゃ。お前は今からわしの護衛騎士じゃからの。これを付けていれば王宮の一部エリアはフリーパスじゃ」
ふふん!とマリナが胸を張りながら自慢げに言う。ん、でも待てよ…?
「一部って全部じゃないのかよ」
「アホ。兄上の部屋には入れる訳なかろう。父上のところもじゃ」
「ああそう言うことか。もっと制限かかってるのかと思った」
てっきり、マリナの部屋周辺だけ通れるとか思っていたが、さっきの話から察するに大抵のところは通れそうだ。
「まあ、入れんエリアには金色の刺繍をした近衛騎士がいるから分かるじゃろう」
「マリナの部屋の近くにはいないのか?」
「おらんな。わしにも王位継承権があるとはいえ、なることはないからのう」
「そうなのか?」
「兄上が2人おって、姉上もおるんじゃぞ?どうやってなるんじゃ」
「それだけいれば安心か」
マリナが回ってくるとすれば4番目。確かによほどのことが起きなければ回っては来ないだろう。
「大体、王宮生活は窮屈なことも多いからの。わしには合わんわ」
「ふ~ん。まあ、堅苦しいよな」
「そういうことじゃ。それより付けて見せるのじゃ!」
「着けるってこのクリップで挟むのか?」
「うむ」
「でも、取れたりしないのかこれ?」
クリップということで、カッターシャツのポケットに付けようと思ったが、人とぶつかったりするだけで簡単に外れそうだ。
「心配するな、お前以外には外せんわ。さっき持った時に所有者登録しておいたからの。服にも傷がつかないように魔法もかかっておるんじゃぞ?」
「そりゃいいや。さっき、この生地が高いって聞いたばっかりだからな」
「着心地はどうじゃ?」
「すっげーいい。ただ、着ていく場所が堅苦しいけどな」
「それは我慢せい。明日から頑張るんじゃぞ?」
「ああ、魔物に困ってるって話だしな。なるべく早く教育が終わるようにするぜ」
「頼りにしておるぞ」
「任せとけって!」
その後も少し世間話をして食事会はお開きになった。
「今日は時間を取らせたな」
「いえ…」
「父上、お願いを聞いて頂いてありがとうございました」
「いや、お前にはいつも苦労をかけているからな。これぐらい問題ない。ではな」
国王陛下と別れて、俺たちも退出した。




