305 トゥオネタル族の里7
聖なる泉でやりたい放題したイロナとヤルモであったが、イロナが満足したら終了。聖なる泉の回復効果でヤルモのHPは満タンなのに、hpは残弾ゼロのようだ。
お互いヤリ過ぎて疲れたらしく、しばらく泉に浸かってボーっとしてから、ヤルモだけイロナの秘密基地内をウロウロしていた。
「う~ん……源泉は泉の底か……」
どうやら聖なる泉が気になるから調べていたようだ。そこに上着を羽織っただけのイロナが合流した。
「何をしているのだ?」
「いや、特に……あ、アレ。アレってなんだ?」
「アレ? あ~。アレは落書きだ」
本当は泉を調べていたのに、何故か話を逸らしたヤルモ。ちょうど絵のような物が壁に書かれていたので、その説明を求めて完璧に逸らした。
「イロナが描いたのか?」
「元々あった物だ。我以外にもここを知る者はいたんだろうな」
「へ~……確かに古いかも? 薄いところもあるな。てか、この一番右の翼がある人、イロナに似てないか?」
壁には、かなり簡略化された人間が描かれており、その中で空から舞い下りる天使みたいな絵が、ヤルモの目には【戦女神化】したイロナと重なったようだ。
「どこがだ。我はこんなに不細工ではないぞ」
「雰囲気がだよ。ほら? なんか土下座されてるだろ。きっとイロナのような美人を、こいつが拝み倒している絵なんじゃないかな?」
「ほう……そのような見方があったのか。考えたこともなかったな」
イロナは芸術だとかの価値も知識も感動も持ち合わせていないらしく、ヤルモに説明されて初めてこの絵に興味を持った。
「これはどう思う?」
「なんだろ……カクカクしてるから、トゥオネタル族の男かもな」
「これは?」
「ケンカかな? 馬乗りになってるし」
「この大勢の人は?」
「お祭りかな??」
「なるほどな。見方によっては、主殿の言う通りに見えなくもない」
「俺も芸術とかわからないから、適当ってだけは忘れないでくれよ?」
頑張って答えてはみたが、ヤルモも自信がない。なので、人それぞれ見え方や感じ方が違うから、他の人に聞いたら違うことを言うかもしれないと必死に説明していた。
イロナに嘘と思われると殺され兼ねないので、ヤルモは必死だったっぽい。
芸術鑑賞か落書き鑑賞かわからない鑑賞会は、綺麗に残っている絵が少ないのですぐに終了。ヤルモは聖なる泉の水を、あるだけの空きビンに入れてから外に出たのであった。
帰りもイロナに担がれて移動すれば、あっという間に集落。中はさすがに歩けと命令されたので、二人はイチャイチャしながらイロナ家へ戻った。
「いっちゃん! ぶべっ!?」
するとペッコが待ち構えて飛び掛かって来たので、イロナは電光石火の右ストレート。ペッコはぶっ飛んで壁に跳ね返されて、カエルがひっくり返ったみたいになった。
「お前なぁ~。お義父さんからもイロナに近付くなと言われていただろ」
そこに、イロナを守ったわけでもないヤルモの説教が炸裂したが、ペッコは飛び起きて土下座。
「もう一度……もう一度だけ俺にチャンスをくれ!」
「まず、ゾンビを直して来いよ。手遅れだと思うけどな」
「お前に聞いてない! 俺はいっちゃんと話をしてるんだ!!」
「イロナは顔も見たくないんだって。いい加減にしないと、聖水ぶっかけるぞ」
「聖水!?」
ペッコは聖水と聞いて身構えたが、ヤルモの取り出したビンを見ても怖がらなかった。
「アレ? 聖なる泉の水って、アンデッドにも効いたはずなんだが……掛けてみたらわかるか」
「ははは。なんだそれ? まったく効かんぞ。てことは……ゾンビってのは、お前の嘘だったんだな! 嘘でいっちゃんとの仲を引き裂くなんて、なんて汚いヤツだ!!」
「おっかしいな~……」
ヤルモがビンの水をぶちまけてもペッコはピンピンしていたので、聖水を取り出してみたら……
「ぎゃああぁぁ~! 目が潰れる~~~!!」
と、効果絶大。掛ける必要もなかった。
「ええ~。嘘だろ~。これで一儲けできると思っていたのに、あの場限定かよ~」
ヤルモ、ガックシ。どうやら聖なる泉の水は、ダンジョンのような特殊な環境でしか効果は発揮しないみたいだ。それを売ろうと思っていたから調査してビンに詰めたのに、無駄な努力を嘆いている。
「あ、そうだ。入場料を取れば……」
しかし、暴利の入場料に設定すれば儲かると思い直し、悪い顔でニヤリと笑うのであった……
でも、こんなところまで人族が来れないとあとから思い出し、さらにイロナが隠していたモノをお披露目してしまっては殺されるので、またまたガッカリしたのであったとさ。
それからイロナの家の前に聖水を撒いてペッコを追い返したら、家族に挨拶。でも、父親のトピアスが「まだ結婚を認めてない」とかうるさいのでイロナにどつかれていた。
「んで……結局、俺の立てた作戦で行くのか?」
食事を終えると、ヤルモから魔王討伐の話し合いを思い出させる。
「まぁ……約束は約束だ。だが、俺がよくてもイロナがな~……嫌だろ?」
往生際の悪いトピアス。イロナのせいにして、なんとかヤルモの作戦を阻止しようとしている。
「我はどうでもいいが……いや、ここは主殿の偉大さを見せたほうがいいか。よし!」
いつもなら魔王だけをほしがるイロナなのに、何かやらせようとしているのでヤルモは冷や汗が止まらない。
「主殿。トゥオネタル族の長となり、皆を指揮するのだ」
「「「「「はあ~~~!?」」」」」
イロナのトンでも案に、家族は大反対。ヤルモも脇汗がドバッと吹き出してる。
「うるさい! どうしても止めるなら、お前たちから殺すぞ!!」
結局は力業……イロナは家族をボコって言うことをきかすのであったとさ。




