303 トゥオネタル族の里5
「まぁアレだ。許婚は白紙だ。あと、さっきの決闘も無効だ」
ペッコがゾンビと知った途端、トピアスは冷たくペッコを排除。しかし、決闘を無効にされるとヤルモが困る。
「何が無効だよ。俺がイロナを手に入れる決闘だろうが」
そう。この決闘はイロナを二人で取り合ったモノ。ペッコを倒したのだから、ヤルモの言い分が正しい。
「どうしても娘がほしいのなら、俺の屍を乗り越えて行け……決闘だ~~~!!」
「勘弁してくれよ~」
しかし、決闘のおかわりが来ては、ヤルモは引くに引けない。
「主殿……殺っちまいな!!」
イロナが背中を押すから……
断ったら死を免れないとも言う……
「はぁ~……今度こそ手加減してくれよ。さっきので疲れてるんだよ」
決闘のおかわりは、ヤルモはやりたいわけがない。HPは半分近く減っているし、MPもけっこう持って行かれたから、回復アイテムを使いたくないのだ。
「ニ戦目だからな。多少の手心は加えてやろう。ステゴロの殴り合いだ~~~!!」
「「「「「ヒャッハ~~~!!」」」」」
「どこに手心があんだよ。ぜってぇ痛いじゃねぇか」
ヤルモが文句を言っても、トゥオネタル族は大盛り上がりなのでまったく聞いてもらえない。イロナもヤルモの防具を外そうとしているので、止める気がないようだ。
イロナにムリヤリ防具を剥がされると壊れそうなのでヤルモは自分で外し、角刈りのデカいオッサン、トピアスの前に立った。
「さあ! 華々しく血を撒き散らすのだ! はじめ!!」
そこでイロナの怖い開始の合図。ヤルモは「俺の味方じゃなかったのかよ」とか思いながら、両手で防御を固めてどっしりと構えた。
「死ね~~~!!」
その刹那、トピアスが力強く握りこんだ四角い拳で大振りパンチ。からのパンチパンチパンチ。鈍器で殴っているような怒濤のラッシュが続く。
しかしこの攻撃は、ヤルモは昨日体験したこと。一歩も下がらず耐える。いや、正確には微妙に下がったり前に出たりして、ダメージを減らしている。
要するに、拳がヒットする瞬間に、一番力が入る位置を避けて受けているので、ヤルモは下がらないしダメージもゼロに近いのだ。
「だっしゃ~!」
そんな耐え方をされては、トピアスも苛立って攻撃が雑になっても仕方がない。大振りパンチで、一気に主導権を握ろうとした。
「がふっ」
「ぐっ……」
そこを狙いすましての、ヤルモのカウンター。しかし、相打ちがやっと。ヤルモはトピアスの拳を額で受けながら、鳩尾に重たい拳を叩き込んだのだ。
「それがどうした!」
「うおおぉぉ~~~!!」
そこからは、先程の決闘と似たような展開へ。ヤルモは常にトピアスの硬くて重たい拳の芯をズラしながら、クロスカウンターで反撃するのであった。
「「ゼェーゼェーゼェーゼェー……」」」
「「「「「わあああああ」」」」」
ヤルモとトピアスは血まみれ。くしくもイロナが望むような殴り合いを30分も続ければ、体力の限界も近い。トゥオネタル族も満足気に歓声をあげている。
「いったいいつ倒れるんだよ。ゼェーゼェー」
「それは俺のセリフだ。人族だろ。ゼェーゼェー」
そんななか、ヤルモとトピアスは似たような愚痴。どちらも頑丈すぎて嫌になっている。
「まぁそろそろ決めさてもらおう」
「ぬかせ。待ちしかできないヤツに負けるか」
「それはどうかな!」
ここで初めてヤルモが先手。ガードを固めたまま突撃した。
「遅い!!」
ヤルモは虚を突いたつもりだろうが、足が遅すぎて意味は無し。トピアスはその時間を使って、ピッチャーのワインドアップぐらい大きく振りかぶってからのパンチを放つ。
ガッキーーーンッ!!
トピアスのパンチはヤルモの額に命中。とても人間が出すような音ではない金属音が鳴り響いた。
「ぐあっ!?」
少し遅れてトピアスの悲鳴。ヤルモの頑丈な頭に加え、遅いながらも体重と勢いを付けた頭突きでは、ほんの少しだけヤルモに軍配が上がったのだ。
「ふんぬ~~~!!」
そこを畳みかけるヤルモ。最後の力を振り絞って、トピアスのがら空きの腹に頭突きを入れた。
「ぐおおぉぉ!!」
立場は逆。今度はトピアスがヤルモのマネをして、頭突きを喰らった瞬間にカウンターの膝を跳ね上げたのであった……
「おい……おい。主殿……」
ヤルモが目を開けると、そこにはイロナの顔。
「イロナ……つっ!? 決闘は!?」
そこで決闘を思い出したヤルモは慌てて体を起こした。すると、ガッツポーズをしてトゥオネタル族に持て囃されるトピアスの姿が目に入る。
「見ての通りだ」
「そっか……俺は負けたのか……」
イロナに勝敗を告げられたヤルモは下を向いた。それほど悔しかったのだろう。
「ところで主殿よ……」
そこに、イロナから慰めの言葉。
「最後、どうして自分のスタイルを捨てたのだ?」
「へ??」
「わざと負けたわけではあるまいな……」
いや、お叱り。確かにあのまま続けていればヤルモに軍配が上がっていただろうが、ヤルモは面倒くさくなって突撃した感は否めない。
「いや、アレは……同じことをしていても、イロナが楽しめないかと……」
「ふむ……」
なので、とっさに嘘が出てしまい、ヤルモは死を覚悟した。
「よくわかっているでないか。それでこそ、我の主殿だ」
しかし、何故だかイロナはお褒めの言葉。ヤルモは助かったと思ったが、こんなことも思っていた。
勝ち負けよりも、玉砕しろってことか……
いつかイロナに殺されるか、決闘で死ぬ日が来るのではないかと怖くなるヤルモであった……




