えのつかいみち
「全部任せるって、リーダ……大丈夫か?」
サムソンが何か言いたげに問いかけてきた。
「大丈夫さ。オレ達が切れるカード……ギリアの絵には、その価値がある。自信があるんだ」
その自信は嘘では無い。ヘイネルさんとの話でも、少し気にかかっていた。それがカガミからの情報で裏付けられた。
ギリアの絵には十分な価値がある。
どうせ売ることができないなら、可能な限り活用するのみだ。
「マジか……。それならリーダに任せる。代わりに、俺は温泉の温度を上げる方法を探すぞ」
「あぁ、まかせろ」
「でもな、二兎を追う者は一兎をも得ずって言うぞ」
サムソンは、不安になるようなことを言うと部屋から出て行った。
入れ違いにトタタっと足音がして、チッキーが入ってきた。
「トーク鳥がもう一羽来たでち」
チッキーから手紙を渡される。バルカンからだ。
何だろうと思って手紙を開く。
「誰っスか?」
「バルカンからだ」
手紙には、今後の予定に連絡手段と、契約書を同封していることが書いてあった。
連絡手段のことをすっかり忘れていた。あやうく、またバルカンを探してウロウロするはめになるところだった。
バルカンへの連絡手段は2つ。ひとつは、屋敷に来ているトーク鳥はバルカンの元へと戻るらしい。だから、何かあれば、このトーク鳥に手紙を渡してくれとのことだ。もう一つは、ロドリコ商会という所へ連絡する方法だ。バルカンは、しばらくロドリコ商会に身を寄せるそうだ。
今後の予定としては、3日後には簡単な計画書を作りあげるつもりらしい。
計画書ができあがるまで、手紙を持ってきたトーク鳥を預かったまま待っていて欲しい、と手紙は結ばれていた。
「まじでやる気っスね。バルカン」
3日か。それなら、計画書の完成をまって領主へと連絡すればいいだろう。
元々、領主に対してバルカンが温泉を運営できると証明する必要もある。
「サムソン先輩じゃないっスけど、何か保険的な事は考えておいたほうがいいと思うっス。第2プランって感じで」
「第2プランか……。確かにいろんなケースを想定して対策を立てるのは良い考えだな。うん。あと、3日はあるわけだし考えてみるか」
「そうっスね。付き合うっスよ」
プレインと、いくつかのケースを想定しての検討を行う。
次の日には、帰ってきたミズキとノアそしてロンロも加えて検討を進めた。
3日、バルカンからトーク鳥が飛んできた。
あと2日欲しいらしい。
多少待つのは別に問題ないこと、完成品を送って欲しいことを返答する。
1羽預かっているので、2羽目……バルカンは複数トーク鳥を持っているのか。
5日め、バルカンから計画書が届いた。
さっそく送ってもらった計画書に、皆で目を通す。
「これ、たった5日で作ったんだ。バルカンやるじゃん」
「温泉と宿泊施設を作るんだな……町への道を舗装する事も含まれているのか」
温泉を整備して、その側に宿泊施設を作ることが計画の基本として書かれていた。
他にも、工事の手配、仕入れルート、宣伝の方法なども書いてある。
「例年なら、今頃雪が降り始めてるんスね」
「突貫工事なら、2倍以上の経費がかかるんだな」
バルカンの計画書には、経費の見積もりについても書いてあった。
工事費用として金貨900枚が計上してある。
ただし、この見積もりは雪の季節が終わった後での工事を想定した場合だ。
というのも例年であれば、今頃には雪が降り出すそうだ。
今年は全体的に温暖らしく、見込みでは来月の中頃あたりから雪が降る予想らしい。
その前提で、本格的に雪が降る前に工事を済ませる場合は、金貨2000枚が必要と書いてあった。
「なるほど。バルカン氏はよその温泉を参考にしたのか。俺らにはできない芸当だな」
「この国にはぁ、他にも温泉ってあるのねぇ」
この計画書はヨラン王国にある他の湯治場を参考にしたらしい。
ベースとなる物があるとしても、相当立派な代物だった。
「この内容をキチンと説明できれば大丈夫だと思います……って、カガミ姉さんだったら言うくらい立派っスね」
苦笑しながら、サムソンが頷く。
カガミはこの場所にはいない。イザベラの所で、礼儀作法を学ぶという仕事をしている。
最低限の礼儀を知っていないと広告塔にもなれないそうだ。
ちなみにミズキは、採寸を済ませた後にノアを連れ帰るという名目で逃げ帰るように屋敷へ戻ってきた。
「息がつまる。もう、カガミ様々って感じ」
帰ってくるなりそんな愚痴をこぼしていた。
「一応、準備は整ったな」
「そうっスね。早速、お城に連絡するっスか?」
「あぁ。準備は万全だ。隙はない。……ところでお城にはどうやって連絡しよう」
「おいおい、大丈夫かよ。いきなり……」
ギリアの絵を手に入れましたと、どうやって連絡すればいいのかわからない。
最悪、直接城へと行くしかないが……なんというか、いきなり領主を訪問してもいいものだろうか。
サムソンのあきれたような顔をみると不安になってくる。
「大丈夫っスよ。ヘイネル様へトーク鳥飛ばしたら、多分領主さまに取り次いでくれるっスよ」
「連絡できるのぉ? ヘイネル様へトーク鳥を飛ばす時に使うぅ、笛の並びを知ってるのぉ?」
「トーク鳥と一緒にもらった笛の箱に書いてあるっスよ」
そうだったのか、ちゃんと見ていなかった。
同僚が頼りになるので助かる。
とりあえずヘイネルさんへの連絡はプレインに任せることにした。
もう権利やらの対策は面倒くさい。とっとと決めてしまうのだ。




