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召還社畜と魔法の豪邸  作者: 紫 十的@漫画も描いてます
第四章 冬が始まるその前に
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おたんじょうかい

 ギリアの町、貴族街に近い水辺にオランド亭がある。

 今日は、ノアの誕生日だ。

 そして目の前には会場となるオランド亭が見える。

 木造3階立ての建物だ。白い壁がとても綺麗な建物で、オランド亭と書いてある木彫りの看板が掛かっている。紋章のようにその横にカニをあしらったマークが彫られた看板だ。

 馬車で乗り付けたが、すぐにオレ達より身なりの良い女性が、その馬車を引き受けてくれた。チップに銅貨を渡したら馬鹿にしたような目でみられた、その態度にむかつく。


「多分、普通は銀貨をチップに貰ってるようねぇ。だからといってぇ態度を変えちゃうのわぁ……少し品が無いかしらぁ」


 ロンロは、相手の女性をそう評していた。

 もっとも、門前払いをされることはない。

 オランド亭には予約をいれてある、オレ達の素性をしってなお受け入れてくれたらしい。ミズキが手はずを整えたのだが、妙に手際がよかったのが不思議だ。


「ばっちり予習したからね、大抵の状況は想定済みよ」


 こんなことを言っていたが、いったいカニのためにどれだけ予習したのだか。

 いつもの仕事にその情熱が欲しかったものだ。

 ノアには詳細は内緒、ミズキがカニを食べたいとしか言っていない。

 少し前に別れたチッキーは、お兄ちゃん達とレーハフさんの家で過ごすと上機嫌だった。

 数日前のこと、ノアが寝たあとで、同僚に加えて遅くまで起きていたトッキーを交え、誕生日会について話をした。

 上手い具合にノアの誕生日は、トッキー達が屋敷に戻る日だったので、レーハフさんの家に迎えにいってから、オランド亭に行くことを提案する。


「おいらたちは無理です。そんなお高いお店……。親方のところで待っておくので、皆様だけで行ってください」


 ブルブル震えながら恐縮してトッキーが辞退する。

 高級なお店に行くのは怖いようだ。

 あまりに必死なので、気の毒になった。


「トッキー達が高いお店が嫌なら屋敷でお誕生会する?」

「ミズキ様が楽しみにしておられることを、私達のために止めるなんてとんでもないことです」


 屋敷での誕生日会も提案してみたが、さらに縮こまった様子のトッキーは即答した。

 そんなわけで、主役でもないミズキの希望なんてどうでもいいことだったが、オランド亭でノアの誕生日会を行うことが決まった。

 ちなみに、トッキー達獣人3人は、レーハフさんの家で過ごす。

 こちらはトッキーが話を通した。ピッキーも、チッキーも、高級店は苦手なようでホッとした様子だった。

 たしかに、馬車を引き受けた女性の態度をみると、苦手意識があっても当然かもしれない。

 建物の中も立派だった。

 身なりの良い男性に席まで案内される。この人も、オレ達より身なりが立派だ。

 案内されたのは奥の方の席で、あと少しずれていたら窓際の席だったので惜しい場所だ。

 音楽隊がいて、音楽が奏でられている雰囲気のいい絵に描いたような高級店だった。

 ミズキとカガミは目を輝かせ周りを見渡している。

 サムソンが俺は苦手だと呟いたのが聞こえた。

 わかる、その気持ち。オレも同じだ。高い店は落ち着かない。

 プレインとノアはいつも通りだ。ノアはともかくプレインも妙になじんでいるのが不思議だ。

 早速席について、すぐに料理が運ばれてくる。

 前菜です。メインディッシュです。そんな感じに次々料理が運ばれてくるのかと思っていたが、一度に運ばれてきた。

 どれも美味しそうだったが、カニが圧巻だった。

 巨大なカニの甲羅を器にして、野菜などが煮込まれている。ぐつぐつと音を立てて良い匂いがする。

 グラプゥもそうだが、この世界は巨大な食材が多い。巨大なだけで、大味じゃない美味しい食材ばかりだ。

 お酒の銘柄を聞いてきたので一瞬あせったが、ミズキがすらすらと答えて事なきを得た。

 本当に、どれだけ予習したんだ? こいつ。

 米とポン酢が欲しいなと少しだけ思ったりもしたが、コンソメ味に近い下味のついた鍋は、そのままでも美味しい。

 しばらくして、小さなケーキが運ばれてきた。

 白いモンブランを彷彿とさせる、まんじゅう型をしたケーキだ。大きいケーキは手配できなかったので、ノア一人分の小さなケーキだ。


「お誕生日おめでとう」


 コトリと小さなケーキがノアの前におかれ、給仕が下がるのを待ってカガミが声をあげた。

 それに続いて、それぞれが「お誕生日おめでとう」と言って手をパチパチと叩いた。

 ノアはキョトンとした顔でオレ達を見回している。


「ノアァ、今日は7歳のお誕生日でしょぉ、貴方のお祝いなのよぉ」


 ロンロの言葉で、初めて自分が祝われていることに気がついたようだ。

 というか、ノア……6歳だったのか。

 オレが6歳だったときより遙かに優秀だ。

 体格は、確かに6歳相当だが、いままでの態度からもっと年上のように感じていた。

 すごいなノア。


「あのね。どうしてお祝いするの?」

「そりゃ、大きくなって良かったねって事じゃないっスか?」


 言われてみると何で誕生日って祝うんだろ……。

 いい理由を思いつかない。そう考えると、プレインの答えはなかなか良い答えだ。


「何でなんだろうね。でも、いいじゃん。お誕生日おめでとうってことで」

「そうだな。急な事で考えてなかった。次までには考えておくよ。そんなわけで7歳のお誕生日おめでとうノア」


 この話題を掘り下げても立派な答えが出来なさそうだったので、ミズキに合わせることにした。とりあえず、おめでとうだ。


「えっへ。えへへ。ありがとう……なの」


 オレ達の答えに納得したのか、ノアは照れたように俯いてニヤニヤ笑いながら、ボソボソとお礼を言った。

 それから、周りの邪魔にならないくらいの声で、ハッピーバースデーと歌を歌い、改めてパチパチと手を叩いた。

 後は、食事を進めながら、いままでに起こった出来事や、元の世界でのエピソードを、ノアに請われるまま答えていく。

 美味しい食事にお酒の力もあって、話は盛り上がっていた。


「貴方たち、少し声がおおきくてよ」


 気がつかないうちに声が大きくなっていたようだ。

 苦情が来た。

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