90 ワーカーホリック①
①世界樹さんの役割
②世界樹さんの一日
③強い人って怖いよね?
「A1-13、岩盤に到着」
「空間確保が完了次第、A1-14へ移行」
「D5-4、破毒運搬完了」
「D6-4へ移行」
「エリアA外周。蜂警邏隊、異常なし」
「エリア(B、C、D、E―――)外周。同じく」
「F2-13からF1-13へ、地下道B接続完了」
「予定通りだ。休憩へ入れ」
うむ、今日も順調だな。
地中には、未だに死毒が残っている為、地上からは破毒を使用し縦穴を掘り、同時並行で作っている地下道に繋げている。粘液方の通り道兼、土壌改善の為の魔力の通り道を兼ねている。
蚯蚓達には領域内の土を耕し、成長し大きくなった魔力結晶を砕いて貰っているが、何もない死んだ大地で同じことをしても、効果が薄い。……地道に広げていくしか無いか。地上を移動するよりも安全なので、それだけでも造る価値はある。
それに、その内主様が迷宮を作る際に、通路として取り入れて頂けるとの事。気合が入ると言うものだ!
だがしかし、最近思う事がある。我は主様の力に成れているのだろうか。
最近は我々以外の魔物も増え、世界樹様も復活を果たした。それに比例して、仕事の量が減少した気がする。
世界樹様が毒に侵されていた頃は、これ位の時間には軽い倦怠感があったのだが、最近は全く感じなくなってしまった。仕事をして居る感覚が薄い。我は必要とされて居るのだろうか……。
「おい休め、ワーカーホリック」
「ム? ゲッコー殿か」
主様に名を授けられた、蜥蜴族の一体、ゲッコー殿。今まで走っていたのだろう、少々息が荒い。
「休めと言うがな? 我は全く疲れて―――」
― ゾク -
「……何の真似だ?」
「俺たち皆、主からな? お前が無理して無いか見ておいてくれって、言われてるんだよ」
急に<鑑定>を掛けられたと思ったら、その様な事を主様が。そうとは知らず、咄嗟に距離を取り、<鑑定>し返してしまった。
名称:暴走蜥蜴
氏名:ゲッコー
分類:現体
種族:蜥蜴族
LV: 13 / 25 <疲労(小)>
HP:543 / 620
SP: 27 / 670
MP:257 / 380
筋力:700
耐久:610
体力:290
俊敏:1600
器用:240
思考:240
魔力:175
スキル
・肉体:<異常耐性LV2><異常無効LV1><疲労耐性LV3><硬爪LV3><鱗LV6>
・技術:<身体操作LV6><魔力操作LV3><立体機動LV3><高速思考LV1><疾走LV9>
・技能:<身体強化LV6><念話LV1><鑑定LV4><自己回復LV5><集中LV3><限界突破LV2><高速移動LV7>
称 号:<幹部><走り屋>
<疾走LV9>:走る行為に補正。
クッ、最近は、指示するのみではレベルも上がらず、新入り達に追いつかれて仕舞いそうだ。
だがしかし、ここを離れるのも、緊急時に対応できない可能性がある。もし、主様に危険が迫ったら……だが、弱い我が護衛に入っても……ならば、我ができる事、我に求められている事に従事したほうが、主様のためになるのでは無かろうか?
「おい……主に言いつけるぞ?」
「グッ……我は、それ程までに信用が無いのか……」
「そんだけ、気に掛けられてるって事じゃん、贅沢だな~」
「ムゥ、しかしだな……」
主様の役に立たなければ、我の存在価値など、無いに等しいのだ。
「お? お~~~い、主~~~」
「おや、ゲッコーさんですか。世界樹さんの中で会うとは、珍しいですね」
「また、クロスが仕事してるぞー」
「貴様!?」
「……仕事していて怒られるって、どうなんですか?」
そんな事を話してると、唐突に主様が奥の通路から現れる。確かに今は休憩時間。主様がお部屋に戻ってきてもおかしくはない。
主様は溜息を一つ付き、我の方に向き直る。
「クロスさん。仕事が好きですか?」
「ハ! 勿論であります! 主様の役に立つことが、我の喜びであります!」
「う~ん……つまり、俺の役に立つのが好きであり、仕事が好きでは無いって事ですか?」
「そう……なのでしょうか?」
そう言われると……そんな気がする。初期の頃は、確かな遣り甲斐があった、主様から命令を受けるのが何よりも喜びだった、今もそれは変わらない。だがこれが、主様に命じられずに取り組んでいたとしたら……
「では、仕事以外の趣味は有りますか? ゲッコーさんだと、最近は料理が趣味なんですよね? 自分の縄張りの警戒を終えたら、食料を探して走り回っていますし」
「なんで知ってるんだよ!?」
「いや、ダンジョン内での事ですし、あれだけ爆走していたら視界に入りますって」
趣味。以前にも主様に言われ、考えてみたが……どれも、主様の命令や役に立つこと以上の魅力を感じることができなく、そのままになって居た。
「蜥蜴族だと……マダラさんが、植物栽培が趣味でしたね」
「あいつの育てるモノは、普通より質が良いんだよね」
「この前譲ってもらいましたけど、美味しいですよね~」
マダラ……ゲッコー殿と同じく蜥蜴族の亀だったか。殆どの時間を世界樹の外で過ごして居るので、ピュアから進化してからは、直接会ったことがないな。
「食料と言ったら、蟻のクロカゲさんが、趣味で畑やっていますよ。最近ですと、獣が参加して、規模が拡大していますし、新しい食料の栽培とかやっていましたね」
「マジで!? 俺、行ってくる」
「あいあい、場所はここですよ、行ってらっしゃい」
そのまま、ゲッコー殿は走り去っていった。そして、姿が見えなくなると、主様はこちらを向く。
「今は休憩時間ですよね? 何もすることが無いなら、たまにはのんびりしましょう?」
有無を言わせないその笑顔に、我は頷く事しかできなかった。
迷宮主のメモ帳:魔道具
魔力伝導率が高い物質を使用し、魔術の術式を組み込むことで作られる。魔力を流すだけで魔術を発動する、道具の事。
術式を見つける事が困難且つ、秘術や一子相伝、危険な組み合わせ等、式が世に広まる事がなく、そのまま消えてしまうことが多い。
また、効率の良い式の組み合わせの発見も難航している(らしい)。
その為人種の中では、魔道具や魔術の発展は遅れ気味。




