84 竜と迷宮主⑤
①朝食
②ドラゴンステーキ
③お肉事情
― メキメキ、バキバキ ―
「ん、ん~~~?」
爽やかな風と、暖かい朝日を全身に受けながら目を覚ます。爽やかな目覚めとは裏腹に、まるで木が軋む様な場違いな音が響いていた。
「エレン様、お目覚めになりましたか」
「えぇ……これは何の音?」
「分かりません。一体どこから響いて来ているのでしょうか?」
周りを見渡しても、音の発生源はつかめない。まるで、今私達が居る場所から響いているかのような錯覚を覚える。そもそも、あるのは世界樹のみで、周りには音が鳴る様なものは何もないのだ。見た限り、危険なものも見当たらないが……。
「エレン様、動いていませんか?」
「動いている?」
言われてみれば少しずつ、視界が高くなっている様な? 世界樹が動いている? ……いや、成長しているの? この軋む様な音はそれ!?
「シスタ、テレ! 一旦離れるわよ!」
「はい!」
私達は世界樹から空へ飛び立ち、様子を見るために振り向く……て!?
「テレ! 何してるの! 起きなさい!!」
「スピー、スヤスヤ」
あの駄竜ー!? こんな状況で、何で寝ていられるの!?
すぐに起こしに向かうも、万全を期すために多めに距離を取ったのが仇となった。飛ぼうにも、世界樹は成長し続け、中々距離が縮まらない。
私達がテレの元へたどり着いたのは、世界樹の成長が止まり、木の軋む音が止んだ後だった。
テレが居る平地に着地する。取り敢えず、周辺に危険は無そうね。
元の大きさから考えて、十数メートルは高くなったかしら? こんな成長を毎日続けていたらとしたら、短期間でこれだけの大きさに成るのも頷ける。
そして、肝心の駄竜はと言うと
「スヤスヤ、スピー」(ぼりぼり)
「「……」」
うん、とりあえず一発殴ろう。
「『テイルスマッシュ』!」
「イッターイ!!??」
―――
「あれは何をしているのですか?」
「地中に埋まっている害虫の卵を掘り返しています。それと同時に、領域内から回復した土を持ってきて、土地の回復にも努めております」
「成る程。あの四つ足の獣型の魔物は?」
「猪種ですね、彼らは土を掘り返すのが得意なので、土を混ぜ合わせる作業をして貰っております。小さい方は鼠種です、細かい作業が得意なので、植物の種や苗木を植えて貰っております。力任せに地面をひっくり返しても良いのですが、卵も立派な資源に成りますので、数の多い蟻種が作業を担当している訳です」
「土を持ってきて、帰りは卵も資源として回収する。無駄が無いですね」
上空から見た時、地平線に黒い線が見えたので、あれが何かを聞いてみたら、この流れになったのだ。これでは最早、偵察では無く視察ね。相手も、自分たちがしていることを紹介するのが楽しいのか、嬉々としてシスタを案内してくれている。報告する材料が増え、此方も万々歳だ。
昨日、その姿が見られなかったのは、私達が来ていたから地下に避難していたらしい。当然の対応ね、作業を再開したと言うことは、私達を信用しているって事の表れでしょう。
ちなみに私達はと言うと……
「ジユウニ、エラブデス?」
「では、この香草類をいただけませんか? 料理好きの竜も居ますので、喜ばれるかと」
「ケッショウ、イルデス?」
「よろしいので? 美味しいので皆喜びましょう」
「オベントウ、イルデス?」
「要「数日は食べなくても平気ですので、大丈夫です」るぅ!?」
説明はシスタに任せ、此方はお土産の選定をして貰っていた。早めに戻りたいですからね、荷物は最低限にしたい。それに、お土産って体だけど、これだって重要な情報源だ。手を抜くことはできない。
……何かしら、テレ? その絶望した様な顔は。持って行きませんよ? 朝食を辞退した意味がなくなるじゃ無い。唯でさえあんたは、食べだしたら止まらないんだから、また飛べなくなるわよ? 私だって我慢してるんだから、貴方も我慢しなさい。
「マダモテルデス?」
「オオキイヌノ、イルデス?」
「モッテクルデス!」
「「「アラホラッサッサー」」」
しかし、まさか妖精族まで居るとは。昔は沢山居たらしいけど、今では全く見られなくなったとか。100年程前に、人種に精霊樹が切り倒された頃からだとか……人って、碌な事して無いわね。(風評被害)
「「「ワハー」」」
「私~、初めて妖精族を見ました~」
「私もよ……しかし、どんだけいるのよ」
小さな人型の姿をした妖精族、名は妖精というらしい。足元をチョロチョロするので、不用意に動けない。テレに至ってはフェアリーに埋まってしまって、胴体が殆ど見えない。
― ビクン -
「む~~~」
「ドラゴンサン、オコデス?」
「いえ、怒っている訳ではなくてですね? <鑑定>されるのは……ちょっと」
この子達、何の遠慮も無く<鑑定>を掛けてくるのよね~。自由だとは聞いていたけど、ここまでとは。そこまで深くないから、むず痒い程度だけど、害意が全くないから、余計にたちが悪い。
「ダメナノデス?」
「イヤナノデス?」
「ヒトクジョウホウ?」
「そ、そんな所です」
ま、まぁ、悪用はされないでしょうし、此処のダンマスには既に見られていますしね。そこまで気にしてはいない。
「モッテキタデス」
「有難うございます」
運ぶ時に使う布も頂いた……が、これ、かなりの質じゃない? 爪を立てても簡単に破けないし、肌触りも良い。後でシスタに<鑑定>して貰いましょう。これも、ヤバい物なんだろうな~……。
―――
「イッチャウデス?」
「キカンノトキデス?」
「また来るね~」
「研究の成果が出たら、私にも教えてくださいね? 私も興味がありますので」
「……へ」
お土産も選び終わり、最初の広場に私達は居た。そこには見送りとして、対応してくれていたダンジョンの魔物も集まっていた。
「もう、行ってしまわれるのですか?」
「えぇ、今日中に戻って、早めに報告したいものですから」
「また来てくださいですわ! 今度会う時は、私の成長した姿をお見せ致しますわ!」
ここは居心地が良すぎる、いつまでもお邪魔する訳にもいかないし、帰りたくなくなりそうなのが怖いってのも有る。あぁ、ルナちゃん可愛い
ですが、えぇ、えぇ! 必ずまた来ますとも! こんな可愛い子に会えなくなるなんて、考えたくも無いわ! その為にも、谷の馬鹿共をきちっと説得しないとね……ルナちゃんの成長した姿……ゴクリ
(世界樹さんの中から失礼)
あら、ダンマス自ら見送りとは、豪華……ここのダンマスが相手だと、直接来てもおかしくないと思うのは危険な傾向かしらね?
「いえ、お気になさらず。普通は、主が見送りをするなんて、早々あるモノではありません。むしろ、こんなに良くしてもらって……」
(全てはエレンさん方の報告で決まりますからね。少しでも心象は良くしておきたいじゃ無いですか……ねぇ? 敵対する意思が無い事を上の方に伝えて下さい)
冗談みたいな言い方だが、芯の部分から真剣さが伺える。
(……お互い、不幸な事故やすれ違いは、望むところでは無いでしょう?)
「……えぇ、私としても友好的な関係で居たいですから、全力で説得します」
あぁ、これは……警告か。
このダンマスは、決して甘いだけの男ではない。実際、敵となった相手を何の躊躇も無く排除しているのだから。
竜の谷と敵対する事に成ったら、きっと泣き寝入りなどしない。なりふり構わず抵抗するだろう。それも私達じゃ考え付かない様な、対応できない様な方法で、徹底的に。彼は、彼等にはそれだけの力がある。
(あ、それと、お土産は大切にしてくださいね?)
「? はい、勿論です」
(クスクス)
そして私達は元の住処、竜の谷へと報告に戻る……説得できるかな~、欲に塗れて襲撃って流れになったりしない様に、情報の出す順番は考えないといけないわね。最終的に全てを決めるのは、竜王様ですけど。
迷宮主のメモ帳:迷宮核
周囲の魔力を利用し生まれる、ダンジョンの核。高濃度の魔力の塊である為、常に外敵に狙われている。
コアが破壊されても、歪みが修正されて居なければ再度生まれる事になるが、何度も繰り返すと、再生不可能になるまで環境が悪化することになる。
世界と繋がっており、襲撃される度に学習し、外敵に対しての対応力を伸ばしていくが、コア事態に意思は無い為、機械的に対応するのみで応用が利かない。
その為、自身に変わりダンジョン運営をするものを召喚することが有る。(相手の了承が無ければ成立しないし、普通は同じ世界の存在にしか発生しない)




