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79 竜と迷宮②

①駄竜

②食べ比べ

③肉・肉・肉!

「有難うございました。とっても参考になりました」


 うん、食べ過ぎた。これではテレの事を強く言えない。

 賢竜は基本草食寄りの雑食なのだが、焼いた果実が相当気に入った様だ。シスタの方も満足そうにしている。


 長く生きた竜程、<人化>を取得する理由が分かった気がする。美味しいものを食べると、これ程満たされるとは。今まで食事にそれ程の興味は無かったが、もう戻れそうもない。


「やっぱり、属性に合った食べ物が口に合うのは、外も同じみたいだね」

「味覚も殆ど変わらないね。違うのは好みと体質位かな?」


 迷宮側は、つらつらと私達の意見をまとめている。

 向こうは全然気にしていない様ですけど、こっちは普通に食事をしていただけに、罪悪感があるわね。情報を提供できたと思っておけば良いんでしょうけど。

 しかし、待遇が良すぎて、逆に不安になってきました。このままで良いのでしょうか? せめて一言で良いので、ここの主と直接話をしてお礼がしたい。


「ん~? 別に問題ないと思うよ?」


 クロカゲ殿にそのことを伝えるが、軽く流されてしまった。


「しかし、これ程のもてなしを受け、何もお返しができないのも……」

「いやいや、こっちも情報提供には感謝していますから、お気遣いなく」

「まぁこっちも、敵対は望むところではないからね~♪ 喧嘩とか、やらないに越したことは無いよ」

「主様は基本、平和主義者」


 周りの魔物たちも、口々に必要ないと言っている。平和的なダンジョンマスターなんて、聞いたことないわよ。


「でも、一応聞いてみる?」

「う~ん、そろそろ平気だと思うけど~……あ、まだ無理っぽいね~」

「そう…ですか、残念ですが仕方がありません」


 相手側の予定が合わないなら仕方がない。となると、これからどうしましょうか。寝床は、ダンジョンの隅にでも借りられれば問題ないですし


「この後、何か要望とか、予定とかある?」

「寝床を決める以外、特には思いつきませんね。森の隅を貸していただけると有難いです」

「そう? じゃ、風呂にでも入りに行く?」


 風呂? 確か、人種が身を清めるときに湯に浸かる行為、又はその施設……だったかしら?

 二人も興味が有るのか、反対意見は出なかった為、挑戦してみる事となった。私達の体格でも入れるか確認したら、余裕だと言われてしまった。相当広いんでしょうね。


 クロカゲ殿の案内に従い、ダンジョン中を進むと、複数の穴が空いた地面から、湯気がモクモクと上がっている場所に案内される。どうやら、この穴の下が風呂になっているらしい。

 湯気から複雑な草の匂いが漂っている……風呂、ですよね?


 クロカゲ殿や、他の魔物と共に穴の中へと降りていく。

 天井から降り注ぐ月明かりが、柱の様に湯けむりに移り込み、水面に反射した光は、柱や天井で波打つ。

 そこには、私たちが余裕で飛び回れるほどの巨大かつ、幻想的な空間が広がっていた。


「すごい……」

「プルー! プルさ~ん! 何処ですか~?」

(な~に~? ……おきゃくさ~ん?)


 プルンプルンと跳ねながら現れたのは、スライムと言う名の魔物。初めてスライムを見た時は、知能を感じない植物の様な存在かと思っていたが、高位の存在になると、しっかりとした自我も持てるタイプか。


「そうそう、お風呂なんだけど、何処かお勧めの湯ってある~?」

「ん~~~~~~……ん! こっちー」

「皆さ~ん、ついて行きますよ~」

「はい、よろしくお願いします」


 プルンプルンと跳ねる後に付いて行く……て、速!? ちょっと待って!?


(ここ~)


 何とか置いて行かれない様に付いて行き、たどり着いたのは、グツグツと煮えたぎる琥珀色の池だった……風呂ですよね?

 人種だと、こんな煮えたぎった湯の中に入ったりしないでしょうけど、私達なら問題ないと判断したのかしら? 少々の不安はあるが、興味もある。大丈夫だとは思うけど、流石にちょっと戸惑うわね。


「エレン様、まずは私から。エレン様に何かあっては、いけませんから」


 などと言っているが、説得力がない。鼻息荒く、キラキラした目で風呂? を見ている……好奇心に負けたか、そこはやっぱり賢竜ね。

 尾の先でツンツンと水面を突き、感触を確かめた後にそのままゆっくりと湯に浸かっていく。


「……どう? シスタ」

「………………」


 あれ? 無反応?


「シスタ~、どうしたの~?」

「フ~~~~~~……良いです、これ」


 たっぷり間をおいて、溜息の様な声で答えてきた。

 おぉう、こんなゆるゆるなシスタ、初めて見たかも。体の力を完全に抜き、肩までドップリ浸かっている。


「私も~、入ります~」

「では、私も」


 シスタの真似をして、尾からゆっくり入っていく。


「「……フヘ~~~~~~……」」


 ヤバい、これいい。余りの気持ちよさに、思わず声が漏れて仕舞う。体の芯に残っていた疲労が溶ける様に消えていく、癖になりそう。

 帰ったら、巣の近くにでも造ってみましょうか? ただの湯だと同じ効果は無理でしょうけど、試してみる価値はあるわ。


「は~~~、癒される……」

(そこは~、はやくあがったほうがいいよ~)

「なぜですか?」

(つよいから~)


 ん~? 強い? 何が強いのかしら~。ちょっと気持ち良すぎて、私までゆるゆるになってきた。


「薬効が強すぎるんだね。竜だから平気みたいだけど、長湯は危険だよ」

「……成る程、分かりました。テレ、シスタ、上がりますよ」

「はい~」

「……はい」


 名残惜しいが仕方がない。テレは満足した様だが、シスタのほうは、本当~に渋々と言った感じで湯から上がる。相当気に入ったみたいね。

 私も、体の調子が良い。薬の効果が残っているのか、体に魔力が満ちていくのが分かる、ちょっと時間を置けば、全快に成りそうだ。


「普段、皆さんも入っているんですか?」

「他の所には入ってるけど、ここは無理かな~。薬として採取はするけど、うちらには熱すぎ」


 確かに、私たちは平気ですけど、耐性が無い方が茹っている湯の中に入るのは、辛いものがありますね。


(つぎは、こっち~)


 またスライムが跳ねて、誘導しようとして来る。う~ん、私としては今ので、十分満足なんですがね。むしろ今は、体を動かしたい気分だ。許可が下りるなら、このダンジョンを空から見て回るのも良いかしら?


(だめ~)

「何故ですか?」

(げどくがさき~)


 げどく……解毒!?


(くすりをぬくの~)

「あ~、お姉さん方、ちょっと興奮状態っぽいかな? 落ち着くためにも、付いて行くと良いよ~」


 興奮状態。た、確かにちょっと気分が高揚してる気はする。ここは、大人しく付いて行こう。視線があちこちに泳ぐテレの頬を、尾で軽く小突きながら後を追う。うん、他竜を見ると、いつもと様子が違うのが良く分かる。シスタは新たな風呂に興味がある為か、大人しくついてくる……あ


「そう言えば、先ほどの湯はどんな効果があったのですか?」

「ん? なんだろ。世界樹様とプルさんが好き勝手弄ってるから、詳しくは把握して無いんだよね~」


 何か分からないものを勧めてたの!? いや、進めていたのはプルってスライムの方か。


「シスタ姉さんは<鑑定>持ってたでしょ? 見てみたら?」


 シスタが先ほど入った池の方を向く。早速<鑑定>を使った様だ。

 やっぱりシスタも、何時もよりちょっとテンションが高いわね。許可も貰っているし、良いんでしょうけど、ちょっと無配慮だ。私も同じ状態だとしたら、何時どんな失態を犯すか分からない。ここは大人しくしておきましょう。


<鑑定>の結果を聞くため、シスタの方を見ているが、様子がおかしい。血色が良かった顔が、見る見るうちに青ざめていく。そして、まるで岩石竜(ロックドラゴン)の様に、ゴゴゴと鈍い音が聞こえそうな程ぎこちなく、此方を向く。


「(パク)……、(パク)……」

「シスタ? シスタしっかりして!?」


 何とか話そうと口を動かしているが、声が出ていない。言葉にならないとは、まさにこのことか。貴方は一体何を見たの? 怖いから早く正気に戻って!?


迷宮主のメモ帳:妖精族


体の半分以上が魔力で出来ている魔物全般を表す種族。(竜族は半分以下が殆ど)


魔力を食料としているものが多く、魔力溜まりや、魔力を多量に含む物質を好んで食す。

自由奔放な者が多く、悪意を持って接近することが無い。その為、油断すると命に係わる可能性が有るので、注意が必要。


他種族に比べて魔法適性が群を抜いて高い為、魔法による攻撃は効果が薄い。反面、弱点となる属性に過剰なまでに弱い。

物理が効かない訳ではないが、虚体に近いと物理も効かない可能性がある為、相手の弱点を知る事が、必須事項となる。


その性質上、魔力の濃い所にしか生息しておらず、人種の前には滅多に表れない。


素材としては、魔法や魔道具、魔法薬関係全般に使われる。

魔力に戻って仕舞う可能性高く、劣化も早い為、特殊な保護器か生け捕りする必要がある。


魔物が生まれる、魔力溜まりを散らす為、乱獲が禁止されている種族でもある。

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