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72 竜の調査隊、迷宮に潜る③

①おもてなし♪おもてなし♪

②情報交換

③世界樹さんには秘密です


「申し訳ありません。私たちも、人族との交流は限られるものでして」

「とんでもない! 我らにとってこれほど有り難い情報はありません。感謝致します」


 お互い欲しい情報をやり取りし、一息つく。人間の国については、国の名前と場所程度しか教えられなかったが、満足してくれた様だ。

 後は、この情報を持ち帰られれば任務完了ね。一時はどうなるかと思ったけど、何とかなりそうだ。

 ……新たな問題が浮上したけどね。こんな近くにダンジョンができるとか、考える奴によっては危険視するかもしれない。成長速度が異常だし……ま、いいか。後は上が考えることだ。そろそろ私も限界、もう考え事とかしたくない。後なんかあったかな~。


「……エレン様、その、ゴドウィンの最後を聞いておいた方がよろしいのでは?」

「……、……? ……コドウィン? なんでしたっけ、それ」

「え˝……え~と、このダンジョンに落ちて行った、元同胞です」

「……あ~! あの糞虫ね」

「……エレン様」(ブワァ)


 シスタが口元を抑えながら視線を逸らし、零れ落ちそうな涙をこらえる様に震えている。ちょっと、そこまでなる程の事?

 しょ、しょうがないじゃないの! やっとあの、え~と、コド? ゴド? ……糞虫から解放されたのよ!? 思い出したくも無かったのよ!!


「……とにかく、後に説明する為にも、知っておいて損は無いかと」

「そうね、伺ってもいいかしら、クロス殿。彼等の最後を……」


 正直どうでも良いが、彼らの親族にとっては大事なことだ。

 ……せめて最後は、竜族の誇りと言うものを見せて逝っていて欲しいわ。


「う~ん、最後って言ってもね~」

「うむ、エレン殿、申し訳ないがそれにお答えすることはできない」

「……理由を覗っても?」

「あれはまだ、生きておりますので」

「「……え?」」


 いきてる? ……生きてる!?


「何故ですか!? 我々が口出しする事では無いかもしれませんが、あれだけの事をしたんですよ? あなた達の同胞も殺めているのです。それを生かしているだなんて……」

「主様の方針です」


 ここのダンジョンマスターか。分からない、仲間を殺されているのに、なぜ殺さないの? これだけ部下の魔物に慕われているのよ、命は大事とか言いだす甘ちゃんだとも思えない。


「主様にとって、我々の命は消耗品。当然の事だと言うのに、その命を受けた時、お恥ずかしい事に、我も少々……動揺して仕舞いました」

「……貴方はそれでよいのですか?」


 自虐的に話す姿に、思わず問いかけてしまった。深入りなのは分かっている。余所のやり方に口を出すなんて、不信感を抱かれても仕方のない行為だ。

 でも、少しの間だったけど、このアルトという魔物がどれだけ同胞思いなのかは分かったつもりだ。それが、死んだ同胞より、殺した敵を優先するなんて、心中穏やかではないだろう。

 そう思っていたが、彼からその様な雰囲気は感じ取れない。むしろ清々しく見える程だ、なぜなの?


「そうですな、主様の御言葉をそのまま使うのであれば……」


 殺してやる程、お前の部下の命は安くない


「その言葉を聞いた時、我の全身に駆け巡った衝撃はどれ程のものだったか!! 最早、言葉では表すことなど叶いませぬ! だがしかし、それ以上に! 主様の御心を理解していなかった自分が、なんと情けなかったことか!! 我は―――」

「あ~、ごめんね、こうなったらこいつ、長いから。無視していいよ~♪」

「……」


 死が安くない……か、そんな風に考えたこと無かったわね……いままでどんな生を歩んできたら、そんな考えができる様になるのかしら。


「え~と、ミツルギ~、カブト~、あれ見せていいと思う? ちなみにうちは反対」

「見せるべきではないだろうな。知らなければ、聞かれても答えられん」

「ワシも同意見じゃ。アレに、見る価値は無いじゃろぅ」

「情けないとかじゃなくて、同胞が受けてる仕打ち的な意味で聞いたんだけどな~」


 どんな状況なのかは分からないけど、竜族の誇りとやらは見せられなかった様ね。期待して無かったけど。


「見ることは叶いますか?」

「え~、見ていて気分の良いものじゃ無いと思うよ? 同族なら特に」

「なぜ?」

「完全に物扱いだから」

「主が言っていたな」

「うむ、“家畜に神はいない”……名言じゃのぅ」

「家畜……」

「私は平気よ? バラされていたとしても、特に思う所は無いわ」

「お姉さん相当キテルね~……分かった、案内するよ~。シスタ姉さんは如何する?」

「……行きます」

「シスタ、無理しなくていいのよ?」

「エレン様を一人にする訳にはいきません!」

「了解~♪ 二人とも、そこの馬鹿は頼んだよ~♪」


 未だに語っているクロス殿と護衛の二人を置いて、部屋の奥へと案内される。


「これが終わったら、他の所にも案内するね~♪ 主様からも許可貰ってるし、その時は表のテレ姉さんも案内しないとね~」

「いえ、そこまでして頂かなくとも」

「え~、でもそろそろ日が沈むよ? 急がないなら泊って行ってもいいから、考えといてね~♪」

「え、あ、ハイ。ありがとうございます……後でテレと一緒に考えさせていただきます」


 泊る考えは無かったわ。テレと私は夜目が効くけど、シスタはダメなのよね。


「これから向かう場所は、うち達の修練場の一つでね~。主様が要望を聞いて、造ってくれたんだ~♪ なかなかの広さと、種類があるから、ついでに見ていくと良いよ~♪」


 先ほどの空間から、更に下へと進んでいく。シスタの夜目で思いついたけど、ここ妙に明るいわね。

 周りを見返すと、壁全体が薄ぼんやりと光っていた。光っているのは……この植物のお陰?


「え? あぁそれ? 主様が創った【光苔(ヒカリゴケ)】だね~♪」


 “作った”でなく、“創った”?


「……鑑定してみても?」

「お! <鑑定>持ちなんだ、好きに見ていいよ~♪ ダメなものは置いてないから」


 ―――


「シスタ、しっかりして!」

「う~~~、エレン様~~~、何なんですか! なんなんですか、ココは~!!」


 ヤバい、シスタが壊れた。私の尾の先を掴んで離さない……子供みたいで可愛いけど。

 許可をもらったから、片っ端から<鑑定>してもらったのが失敗だった。シスタ曰く、視界に入るもの全てが魔草の類らしい。

 それだけならまだ、まだ問題なかった! ここは世界樹の中、希少な魔草類が溢れていてもおかしくないでしょう。そう自分を、説得することができた!


 問題は、全ての種類が新種で、原産地がここであることだ。つまり、視界に入る全ての植物が、この世界樹の迷宮から生まれた新種と言うことになる。何十種類あるのよ!?


「……さぁ? 主様に聞かないと」


 改めて、このダンジョンの異常さを、目の当たりにしてしまった。


迷宮主のメモ帳:軟体族


骨や関節などを持たない、且つ定形の魔物を表す種族。

柔軟な体で衝撃を吸収する為、打撃に対して耐性を持つち、弱点となる斬撃に対して、殻を纏う(中身は軟体)が多い。


関節が無い事による多彩な行動、耐性、魔法など、トリッキーな行動が多く、注意が必要。


戦闘時は、魔法や斬撃による切断を狙うのがセオリー。

殻を持つものに対しては、斬撃等の耐性がある為、打撃等で破壊するか、殻が無い部分を狙う。

粘液族と間違える事が多いので、注意が必要。


素材としては、硬い殻や強靭な皮が、道具や武具に使われる。


地球で言うと貝、ナメクジ、(タコ)、などの軟体動物の大半がこれ。

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