66 竜の調査隊?②
①竜の谷、調査隊派遣
②害虫(竜)
③無差別攻撃
「何を考えているんだ、貴様は!!」
「敵を排除しただけだろ? 」
心底、何を言っているのか理解できない。そんな顔をして言い放つ。こいつは、こいつは!こいつは!!
「奴らの行動を見ていなかったのか!? 明らかに知能を持った者の動きだっただろう!? そんな者たちに対して攻撃だと? 馬鹿か貴様は!? 」
「てめぇ! 兄貴に対してなんて態度―――」
「私たちの任務は偵察だ! 情報を少しでも多く持ち帰るのが目的なんだ!! 情報源に成り得る者を攻撃するなど、正気か!?」
「お、落ち着いてくださいまし、エレン様」
「どう見ても、今回の原因だっただろ? 違っても所詮は虫だ、全て潰せばいいだけだろ」
「どこがだ!! あの者たちが、今回のスタンピードの原因だとなぜ言い切れる!? 何度も言っているが、私たちは戦いに行くのではない! 邪魔をするな!!!」
「分かった、分かった。仕方のない奴だ」
まるで駄々御こねる子供をあしらうかのような態度に、本気の殺意を覚える。
ギリっと自分の牙が擦れ、口の中に砂が入ったかの様な感覚を覚える。この馬鹿に何を言っても無駄な事を再確認させられた。
どうする? 攻撃しておいて、今更交渉などできるのか? なにより、こいつを如何にかしないと、普通の情報収集すらできん! 何とかして、この害虫を処理しないと。
「張り切っているのは分かるが、少し落ち着いたらどうだ?」
「貴様のせいだろう!!」
「は~~~、そうだな……お前の不安を排除してやろう」
ニヤリと、不快な笑みを浮かべながら、全ての元凶が不吉なことを言い出す。不安? 排除? 何のことだ?
「お、おい貴様、何をする気だ?」
「なに、先に行って、敵を排除しておいてやろう! そうすれば、心配性なお前も、少しは安心するだろ!?」
言うが早いか、連れを引き連れ、先へと飛び立ってしまった。
不味い! マジで不味い!! あんなのを送り出したなんて思われたら、相手居たら何と思うかなんて想像もしたくない!
「クッソ!!」
「お~と、少しは大人しくしてもらいましょうか~?」
腰巾着の一人が、前に立ちはだかる。ア˝ー、何なんだこいつらは!!
「どけ!」
「お前なぁ、兄貴の好意に対してその態度は何だよ? 調子に乗ってんじゃねえぞ! あぁ!?」
「……………………フフフ、グフフフ。アッハハハハハハ!?」
好意? あれが!? ヤバい、もう何もかもが不快すぎて、頭がおかしくなりそうだ。
「邪魔~」
「ガハ!? 」
テレが小規模のブレスで、目の前の腰巾着を弾き飛ばす。他の奴らは既に、遥か彼方まで進んで仕舞っていた。
「急ぐぞ!」
「「はい!!」」
私達は、飛竜や暴竜の様に、高速での飛行は出来ない。少しでも早く追いつかなければ、取り返しのつかないことになる前に!
―――
「エレン様~、見えてきました~」
「状況は!?」
「え~と~、森が見えます~、後~、黒煙も上がってます~」
「あいつらは……!」
「……分かっていたことだ、急ぐぞ!」
私達の速度では追いつけないのは、分かっていた。でも、仕方が無い事とは言え、焦る気持ちを抑えられない。
私達の前に立ちはだかった腰巾着は、既に撒いている。地竜の血が入っているとはいえ、飛竜が飛行で負けるとは、どれ程怠けていたのか。呆れて言葉も無い。
「ん~~~~?」
「テレ、どうしました?」
「なんか~、凄い大きな~、塔? あ~、木が見えてきました~」
「「木?」」
森の中にひと際大きな木があるという事でしょうか? 近づけば判る事ですね。
―――
更に飛ぶこと数分、やっとの事、私たちにも見えて来ました……が
「あれは何ですか?」
「これほどはっきりと、森と荒れ地が分かれているのは異常ですね……」
まるで切り取ったかの様に、荒れ地と森がくっきり分かれていた。スタンピードによる被害とも思えない。何せ、残っていた森に沿って飛んで来たところに、前面にその森が現れたのですから。これがスタンピードによる被害でしたら、あの虫はここで直角に曲がったことに成る。そんなことをする理由も、知能も無いでしょう。私たちの谷に向かって来るほどなのですから、強者に怯えるとも思えませんしね。
そもそも樹木の種類が周りと全く違う。今まで見たことのない植物だらけだ。そんな森の、中心部と思われる場所には、巨大な大木がそびえたっていた。一方からしか見ていませんが、巨木を中心に円形に広がっているようですね。
「ん~、どこかで同じ様なのを~、見たような~」
「どこですか?」
「ん~~~~~、あ~、思い出しました~。私たちのお家です~」
「家? 谷ですか?」
「はい~、魔力が届かなくなるラインで~、植物の種類が~、ガラッと変わるんです~」
成る程。と言うことは、あそこを境に、魔力の濃度が変わっているってところですか。
「……何かしらの強力な主が居るのでしょうか?」
「可能性はありますね。もしくは……」
― ドゴーン…… ―
爆音と共に、森から新たな黒煙が上がる。森の荒れ方と、黒煙の方向を見るに、どうやらあの巨木へ向かっている様だ。
本来なら、周辺の探索から入る所だが、くそ虫どものせいで時間がない。奴らを追いかけ、私たちも森の上空へと差し掛かる。
― ゾク ―
「ヒャア!?」
「ふわ~?」
全身を悪寒が襲う。この感覚には覚えがあった。他者の縄張りに、それも圧倒的強者の縄張りに入った時に感じるそれだ。
この瞬間、自分より遥か上位の存在と対峙することが、確定してしまった。しかも、この常に監視されているかのような感覚は……
「エ、エレン様、いかがしますか?」
「……ここの主と敵対するのは悪手です」
「でも~、向こうはあれと~、同類と思うんじゃないですか~? 血反吐を吐きそうな位嫌ですけど~、私たち~、同じ竜族ですよ~」
「私も同意見です」
「かと言って、このまま放置しては、関係が修復不可能なほどに壊れる」
「……容易に想像できますわね」
「つまり~、こちらは敵意が無い事を示して~、あいつ等とは~、無関係であることを~、主張するって事ですか~」
「……方向は間違えていないと思いますが、どう訴えるかですね。これだけの事を仕出かしたのです。言葉だけで納得してくれるとも思えません。交渉に乗ってくれるとも、そもそもここの主に、知能があるかもわかりません。会話が成立しない可能性も……」
「……テレ、全力でブレスを吐く準備を」
「エレン様!?」
「無関係ではなく、敵対していることをここの主に見せます。行動で示すのが、最も分かりやすいでしょう」
「分かりました~。最低でも~、丸焼きを目指します~」
奴らが私たちの任務を、竜王様からの勅命を妨害したことに、間違いは無い。あいつ等の立場のせいで今まで手を出せなかったが、ここまでの事を仕出かしたのだ。始末されても誰も文句は言えないはずです。
あいつ等から攻撃を始めたのだから、竜王様も納得していただける事でしょう。戦争になるより、遥かにましなはずです。
― ドゴーン…… ―
今後の対策を話し合っていると、進行方向から又もや、ブレスによる轟音が響いた。私達が目にしたのは、縄張りの象徴と思われる巨木に、火が付いた瞬間であった。
「ガーーーーーー!!??」
「エレン様!? エレン様、どうかお気を確かに!!」
「これ~、もう駄目なんじゃないかな~……」
テレの呟きが、私の心に突き刺さる。ま、まだ、何とか、何とかできるはずです……多分……きっと……おそらく。
何処にでも、立場の高い屑は居るものです。




