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64 冒険者とハンター②

「ハンターと冒険者の違い?」


 改めて言われると……う~ん、分からない。同じじゃないのか?


「やっぱり分かって無かったな? ま、良くあることだ。良いか? まずハンターギルドは組合や国営、冒険者ギルドは自由組織だ」

「国営? 自由組織?」

「簡単に言えば、ハンターは国や地域が運営して、冒険者は国から独立した組織だな」


 ハンターは、依頼された魔物の素材や、資源を採取することが主な仕事。

 その性質上、安定した供給が求められ、事前に群生地や対象の特徴、危険度など、対象に合わせた準備と知識、技術が必要になる。その為、土地に根差した特色が色濃く、ギルドによって求める能力や、やり方が異なる。

 ギルドの共通点として、素材を可能な限り傷つけないように狩猟したりと、意外と細かい技術が求められる。


 冒険者は、未開の地やダンジョンなど、人類が足を踏み入れたことのない場の探査を主に行い、情報を持ち帰るのが主な仕事。

 その性質上、突発的なトラブルや上位の魔物との遭遇が多く、実力者であっても死亡する可能性が非常に高い。その為、仲間が死亡したとしても、一人でも生き残れるだけの生存能力を求められる。

 入会した場合、新種の魔物や資源の発見、危険の有無など、情報の提供は義務となり、意図的に隠蔽した場合は冒険者ギルド法によって裁かれる。組合員の情報は全て共有しているため、余所で再登録することも不可能であり、冒険者ギルド所属者は、それだけで各国に身分を証明することが可能。

 入手した情報は国や領地、ギルド等、契約している組織に回され、運営費は契約者との契約金で賄われている。


 どちらも、魔物と対峙する職な点で共通しているため、一般人は混同しやすい。


「んなもんで、ハンターに所属してるからって、冒険者でもないのにフリーで国境を超えようとして、捕まるやつが結構いる……気ぃ付けろよ?」

「お、おう」


 やべぇ、捕まってたかもしれねぇ…。


「登録するだけなら簡単だから、後で冒険者ギルドにも登録しておけ、大半の奴はしてるからな……犯罪者になる予定がないならだけどな」

「ねぇよ!!」

「カカカ」


 この酔っぱらいめぇ。俺は真っ当に生きるんだよ!


「んで、ハンターには地域に特色があるって言ったが、ここは都市部だからな。近くに魔物が群生してる場所もねぇから、基本は商人の護衛や、弱いが繁殖力が強い魔物の駆除、その他雑用だな」

「Hクラスは雑用しか受けられねぇってか?」

「まぁそうだな。値段は大体一日を賄える、ギリギリの値段に調整されてたりもするな」

「なんでだよ!?」

「お前らみたいな新人が死なねぇ様にだよ。おめぇ、最初の依頼に討伐依頼を選ぼうとしただろ」

「うぐ!」


 子供でも勝てる様な雑魚が相手だとしても、視界や足場の悪い森では、ケガを負うことなんてざら。経験が無い新人の場合、対応できず死亡することも少なくないんだとか。


「何より、体力が無い! 戦うにしても、逃げるにしても、最後に物を言うのは体力だ」

「言いたいことは分かるけど、それと雑用依頼がどう関係してるんだよ?」

「昇格条件は聞いてるな? Gランクに上がるには、依頼を10日連続でこなさなければならない。給金的にやらざるを得ない! ……それができねぇ奴は、体力的にハンターは無理だ」

「!!」

「他にも理由は有るぜ? この地に長く居て貰う事に成るからな、街の地理や必要となる店舗の把握とか、街の住人に対しての顔見せとか、体調管理ができるかとか……まぁいろいろだな」


 意外なほどしっかりした理由が有った。


「故にハンターは体が資本! おら、食え! 飲め! 依頼は明日からだ!」

「お、おぅ!」

「雇い主からの情報も馬鹿にならねぇぜ? なんせその道のプロ共だからな、知り合いに成って損はねぇ!」

「分かった!」

「後、一人での行動は基本自殺行為だ。依頼を受けるときは仲間か、先輩の仲間に入れ! 知識と技術を盗め!」

「成る程…」

「お前、余所から来たんだろ? 宿は? 決まってねぇのか!? ならお勧めを教えてやる! ちょっと値は張るが、飯が美味いとこだ! あ、飯を馬鹿にするなよ? 食を疎かにする奴は長続きしないぞ」


 何かすげえいろいろ教えてくれる。有り難いけどさ…


「…なんで、こんなに教えてくれんだ?」

「あぁん?」


 腕を組み、少し考える素振りを見せる。


「ガキに物教えるのに、理由が居るか?」

「…はぁ?」


 最初、何を言ってるか分からなかった。そんな甘い考えがある訳が無い。人間同士でさえ殺し、騙し、食い物にする。それが普通だろ?


「おめぇが何処から来たか知らねぇが、此処エンバーではこれが普通だ。死人が出て、喜ぶ奴なんて居ねぇよ」


 そうしておっさんは、男臭い笑みを浮かべながら、酒が入ったコップをこちらに突き出す。そこには、相手を陥れようとする気配はみじんも感じない。


「ようこそエンバーへ、歓迎するぜ。若ぇの」

「……あぁ、よろしく頼む!」


 俺は、おっさんが持っているコップに、自分のコップを打ち付けた。


 ―――


 彼はその後、数々の依頼をこなし、数年後には一流のハンターとして活躍するまでになる。ランクこそB止まりだったが、ベテランとして信頼を勝ち取り、多くの新人を一人前にまで育て上げた。


 その的確な指導と、優秀な人材を生み出し続けた彼の事を、周りの者は敬意を込めてこう呼んだ


『先導者』


 ―――と。


 晩年の彼はこう語る。


「そんな大層なもんじゃねぇよ、俺はあの頃に、おっさんにして貰った事と、同じことをしているだけだ」


『先導者』の称号は受け継がれ、その輪は世界へと広がって行くのは、まだまだ先の事である。


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