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59 お散歩④

①「勝負! ・・・なの! 」

②「ジ! (負けっぱなしでいいのか! お前らは!!)」

③「キュ~♪(わはは~~~♪)」

「よ、ほ、と」


 現在、(ドビー)達の元を後にし、帰っている途中。足場が悪いのも少しの間と思い、枝と枝の間を、無理をしない程度に飛び降りていた。もう少ししたら、歩きやすい所に着きますね。


 ― パン -

「んお?」


 乾いた音と共に、足の裏に今までと違う感触が伝わる。何と言うか硬質な感じ? しなりがなかった、何だこれ? 


「……ブォゥ?」

「あ、もしかして甲虫(ビールト)さんですか?」

「ブォゥ」

「これはすいません。すぐ、退きますね……と」


 細めの枝かと思ったら、どうやら砦甲虫(ビックビールト)の角に乗ってしまったらしい。世界樹自体が歪な上、保護色になっていて見分けがつかなかった。


「ブォゥ?」

「ん? 散歩です、途中まで世界樹さんも一緒だったんですがね~」

「ブォゥ……ブォ?」

「頂上まで行こうと思ったんですけどね? 足場が悪くて行けそうになかったので、帰るところです」

「ブォゥ、ブォゥ」

「え? 良いんですか?」

「ブォゥ」

「う~ん、では、お言葉に甘えます」


 頂上まで運んでくれるそうなので、甘えることにしました。さすが砦甲虫(ビックビールト)、全長10m位あるかな? 俺一人程度、居ても居なくても変わらんそうです。

 全体的に丸みを帯びていて、掴まる所が無いので、腹に抱えてもらって登ることになった。垂直登りでなければ、角に乗れたかもしれない、今度機会があれば頼んでみましょう。


 ―――


 足を一本使ってないのに、10分もしない内に頂上へ到着……速い。今までの苦労は、何だったのだろうか。


「ありがとうございます」

「ブォゥ」


 360度、遮るものはく、反対側に在る東の森も見ることができる。中腹辺りでの風景が絶景ならば、ここからの風景は圧巻の一言。

 ……今度、ここまでの道のりを【迷宮】で創ってしまいましょうか。世界樹は、既に迷宮の一部と言うか、迷宮そのものですから、幾ら弄っても問題ないんですよね~。成長が終わった場所は、基本変わらないみたいですし? 設計図でも引いてみましょうか。広場があれば尚の事よし。

 え~と、大体、高さ300mってところですか。東京タワーと同じぐらいの高さですね。よく、あんなボロボロの状態から、ここまで立て直したものです、世界樹さんの執念には脱帽ですね。その執念が変な方向に行かない様に気を付けましょう。


 砦甲虫(ビックビールト)の角に跨り、体を額部分に預けながらのんびり風景を眺める。思いの外時間が経っていたらしい。もうすぐ日が沈む時間だ。


「…………………」


 青かった空は、迫る様に赤く塗り潰されていく。

 日が沈み、山々の後ろに太陽が隠れる。それと同時に………山に()が灯る。

 焼ける様に、燃える様に、山の峰を、火が這い広がる様に、赤く、紅く、染め上げる。

 そして………一瞬、眩い程の輝きを放った後、消え入るかのように、山が、空が、世界が、全てが………黒く染まった。


 ―――


「…………」

「…………」


 元の世界では、まず見られないであろう光景、それだけでも、この世界に来た甲斐があった。そう、思えるほどの光景だった。また見に来よう、その時には他の子達も誘いましょう。


「…………戻りましょうか」

「……ブォゥ」


 砦甲虫(ビックビールト)に頼んで、元来た道を戻る。今度は逆さまに戻る為、後ろ手で角に掴まり、先端の突起に足を引っかける。うん、安定しますね。安心、安………心………


「やっぱり、怖ぇ~~~~!」

「……ブォゥ」

「こっちは夜目が効かないんですよ! なんで、よりによって新月なんですか!? 真っ暗で、何にも見えねぇ! ひ~~~!!」

「…………ブォゥ」


 砦甲虫(ビックビールト)さんが呆れているが、気にしていられない。こんな事なら、角に抱き着いとけばよかった!

 はぁ!? 今、体勢を変えられる訳ないじゃないですか! 無茶言わんで下さい!! て、あ、やめて、揺らさないで~!!??


「あ、見つけたなの~~~~!」


 ひ~ひ~言っているところに、世界樹さんが、依り代を輝かせながら向かってきた。助かった! 


「世界樹さん! 会えてうれしいです!」

「な、なの? そ、そんなに私に会えたのが嬉しいなの?」(もじもじ)

「これで灯が確保できます!」

「光源扱いなの!?」


 拗ねた世界樹さんのご機嫌をとり、会話しながら帰路へとつく。こんな穏やかな日が、これからも……ずっと……


 ―――魔の森? 


 走る、走る、走る。食べる、食べる、食べる。何を食っても、まったく満たされない。世界樹という、最高の素材のみを食して成長した彼等、ベテルボロ・ラッチにとって、森の木々などカス同然であった。

 彼等は飢えていた。飢えて、飢えて、飢えて……気が狂うほどに飢えていた。

 飢えを凌ごうと、少しでも多く、少しでも魔力の濃いもの、濃い場所を求め、食べ進む。

 自分たちが、誰の領域に入ったかも知らずに……


 ― ドバン! ―


「……チッ、虫が」


 悪態をつきながら、手に着いた汚れを払いのける。


「粗方潰し終わったな」

「……我らの畏怖も地に落ちたものだな。我らに対して、この様な真似をするとは」

「思い知らせねばなるまいよ」

「あぁ、招集を掛けろ。狩りだ! 徹底的に潰すぞ!」


 ―――その頃の迷宮主


「おー、前よりきれいにできていますね! 流石は職人蜘蛛(タラント)さん」

「へ!」

「ですね。でも、無理はしちゃだめですよ? 飽きない程度に、のんびりやっていきましょ?」

「……ちょっと気になったんだけどなの」

「なんですか?」

「……へ?」

「いつから、この子達の言葉が解るようになったなの?」

「………あれ?」


 いつの間にか<翻訳>を取得していた迷宮主であった。


 スキル<翻訳>:生物が放つ音声、鳴き声に含まれる情報を、自身が理解できる言語に変換する


薬樹の迷宮(仮) LV(レベル:6

特性:植物・水

DP:1,969,300


処理能力:7,800/8,000(使用率97%)

機能容量:7,000/8,000

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